47.丸ごと凍れ
強烈な冷気を感じた。
魔導砲台から放たれた強力な氷結魔法の波動が、港の内側へとなだれ込んできていた魔物の群れを呑み込んだ。一瞬にして冷気が吹き荒れ、飛んできた魚型の魔獣たちが、次々とその場でガチコチに凍りついて固まっていく。
追撃のように別の魔導砲台から放たれた衝撃波が、凍りついていた魔物たちを、まるで脆いガラス細工のように粉々にしていった。
「うおおっ! 効いてるぞ!」
周りの冒険者たちが一斉に歓声をあげる。
砲台の攻撃から逃れた魔物が、リセたちのいる方へとなだれ込んでいく。遠くを凝視すると、そこには温かな色の結界が強く光を放っていた。
(リセ……っ!)
カトリーンさんに守られて無事であることを信じ、ジャンは強く拳を握り締めた。
――防波堤の背後には、巨大な竜が港を見おろしていた。
もしかしたら、これも魔物避けの呪いによって、複数の魔物が寄り集まって形作られたものかもしれない――ジャンはそんな予感を抱く。
凄まじい威圧感にジャンが息を呑んだその時、隣に立つギルド長がニヤリと不敵な笑みを浮かべ、横でぐっと気合を入れた。
「――よし。坊主、お前が最後に仕込んでた一番でかいやつ、使わせてもらうぜ!」
その言葉が終わると同時に、ギルド長は砲台のスイッチを起動した。
「――行けぇッ!!」
防波堤の周りから凍てつく波動が噴き出した。
メキメキメキッ! と凄まじい音を立て、凍てつく波動は竜だけでなく、海を埋め尽くす魔物すべてを呑み込む勢いで広がっていった。竜も港に入ろうとしていた魔物もすべてそのままの形で凍りついて動かなくなった。
「な、なんだあの冷気は……!? 海が……竜が丸ごと凍ってやがる……!」
冒険者たちが息を呑み、言葉を失う。
「まだだ! まだ終わってないぞ! トドメを刺せぇッ!」
ギルド長の怒号と共に、続けて砲台から衝撃波と火炎が一斉に解き放たれた。
バリバリバリバリッ!! ドォォンッ!!
激しい衝撃と熱量が直撃し、氷漬けになった竜の半身がまるで脆いガラス細工のように木っ端微塵に砕け散る。海を覆い尽くしていた黒い影が一気に崩壊していった。
「よしっ! 竜が半壊したぞ!!なんだ?張りぼてか?」
「魔物の進軍が止まった!」
港中に歓声が爆発する。
――同じ頃、港の端。
リセは頭に思い描いた魔導回路を丁寧に丁寧に写し取るように描いていた。
キラキラと舞うシャンパン色の光。硬晶石の表面に刻む最後の魔導回路――最後のひと筋を、力強く描き切る。そっと硬晶石へと焼き付けていく。
「……つながれっ!」
硬晶石がドクンっと脈動するように青く透き通った光を放ち始めた。
カンカンカンカン!!
硬晶石を中心に、清らかな波動が波紋のように港全体、そして海へと一気に広がっていく。
まだ動ける魔物は、その青い光に触れた瞬間に「ギィィッ!?」と悲鳴を上げ、弾き飛ばされるように海へと散っていった。
「わーい! リセすごーい! 魔物避け、直ったねー!」
ブランがはしゃぎながらリセの周りをクルクルと舞い踊る。
「……できた……っ!」
修復筆を抱きしめ、リセはその場に崩れ落ちるように膝をつき、深く安堵の息を漏らした。
ゆっくりと顔を上げると、見渡す限り青く凍りついた港と、半壊しながらも不気味に海へと残る竜の巨躯が視界に映り込んだ。
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