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銀のペンと魔法の回路 ―見習い修復師リリスティアと氷魔法を使う謎の少年、ときどき食いしん坊精霊のモフモフな日々。―  作者: 海優璃


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45/51

45.美味しいご飯の契約

 ドゴォォォン!!

 すぐ近くで激しい衝撃音が響く。

「ニードルポッドがいる! 一発で仕留めないと爆発するぞ!」

 カトリーンさんの張った結界の外では、ラルフさんが大剣を振り回し、飛んできた魚型の魔獣を続けて叩き斬った。護衛としてついてきたカイルさんとレオンさんも、息の合った連携で雑魚を蹴散らしている。


「リセちゃん!硬晶石、もうすっかり元通りじゃない? 後はベルテさんじゃないと難しいの?」

 カトリーンさんが杖を構えながら、喋りかけてきた。


「⋯⋯カトリーンさん、この戦いの中ここまでおじいちゃん来れますか?」

 リセが躊躇いながら問うとカトリーンさんは、悩ましそうに答えた。

「そうね。これから、もっと激しくなりそうよね。ギルド長とかなら来るでしょうけど。ベルテさんは、この戦いが落ち着かないと難しいかもしれないわね」


「そう⋯⋯ですよね。⋯⋯私、どんな魔導回路を描けばいいかは、一応わかるんです。さっき回路図を貰ったから。でも、やった事はなくて⋯⋯」

リセは拳を握りしめる。


「 無理をして欲しいわけじゃないんだけど。可能性があるなら試して貰えないかしら? 焦らないでいいから」

 カトリーンさんは、優しく、けれど頼もしい声でエールを送ってくれた。


「そう⋯⋯ですよね。ちょっと頑張ってみます!」

 リセは大きく深呼吸をした。先ほどおじいちゃんから預かった、魔導回路が描かれた紙を取り出し確認する。本当に細かくて精密で、上手くいくか不安になる。


 弱気になる心を奮い起こして、修復筆を手に取った。その時だった。


 ゾクッ、と背筋を凍らせるような強烈な不快感が、港全体を包み込んだ。

「……おい、なんだあのアホみたいなデカさは……!」

 前線で大剣を構えていたラルフさんの声が、微かに引きつる。

 リセが思わず海の方へ目を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 黒く蠢いていた海が、一つの巨大な「山」のように盛り上がり始めていたのだ。あまりの異常事態に、港中の冒険者たちの意識が、一瞬でその巨大な影へと奪われる。


 ――だが、その一瞬。ギギギィィッ! と鼓膜を刺すような鳴き声をあげ、前線の包囲網をすり抜けた数匹のすばしっこい魚型魔獣が、まっすぐ、リセのいる場所へと突進してきたのだ。


「ラルフっ!」

 カトリーンさんが叫んだ。

 ドォォン!! と激しい衝撃が走り、カトリーンさんの結界が、ミシミシと不吉な音を立てて大きく揺らぐ。


 カトリーンさんは結界を維持しながら応戦するが、分が悪い。ほかの冒険者達もなだれ込んできた目の前の魔物に対応するのに必死だ。


 また、結界に衝撃がはしる。ピキピキと亀裂が奔るのをカトリーンさんが必死で立て直そうとするが、別の方向からも魔物が結界に激突するのが見えた。ラルフさんが、こちらに駆けてこようとしているが、魚型の魔物に進路を塞がれている。


 はっと嫌な感じがして振り返れば、もう一匹、黒く膨らんでトゲに覆われた魔物が突っ込んでくるのが見えた。

 リセは、目の前に迫る魔物に驚き、足をもつれさせて、座り込む。その拍子にポシェットをお腹にぎゅっと抱え込んだ。

 

 瞬間、ピカーと優しい光が周囲を包み込んだ。

 ドサドサッ……。

 突撃して来ていた魔物たちが地面へ転がった。


「うっう〜。苦しいよ〜リセ〜! ふわぁ〜。よく寝た。」

 大きな欠伸をしながらブランがポシェットから出てきて、そのままリセの肩へとピョンと飛び乗り、あたりを見渡してパチクリと目を丸くする。


「えっ? 何これ? 魔物がいっぱい寝てる! ぼくがぐっすり寝てる間に、何か大変なことになってた?」

「ブ、ブラン……今、何かしたの?」

 呆然としながらリセが尋ねると、ブランは不思議そうにしながら。

「したといえば、したかな!  ぼくが気持ちよく起きられるように、近くの悪い子がみーんな寝ちゃう結界をバンって作ったんだよ。あぁ〜、それにしても眠かったぁ」


 リセ達の周りは、嘘のように静かになった。ブランの張る結界に触れた魔物が地面にパタリと倒れるのが見える。しかし少し離れたところでは相変わらず、ラルフさん達が魔物達と激しい戦いを繰り広げながらこちらへ近づいてきていた。


「ブラン! ありがと!」

優しく抱きしめると、ブランは嬉しそうにバタパタと羽を羽ばたかせた。


カトリーンさんが、目を丸くして興奮したように矢継ぎ早に言う。

「リセちゃん、何隠してるの〜! 凄いじゃない? その子、精霊なの? かわいい〜! ねぇ、契約してるの?」


ブランはカトリーンさんの周りをグルグルと飛び回ってから、リセの肩にポンっと着地した。

「僕はブランだよ! 契約って約束だよね?」

 リセの顔を覗き込んで聞いてくるので、「うん。そうだね」と教えると、ブランは得意げに胸を張った。

「じゃあリセとは、美味しいご飯を食べさせてもらう契約をしてるよ!」

 大真面目に言い放った精霊を前に、カトリーンさんは「えっ、ご飯……?」と、不思議そうな顔でリセとブランを見比べるのだった。

 誤字報告をくださった方、ありがとうございます。修正させていただきました。


 ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。続きが気になる、あるいは気に入っていただけましたら、ブックマークや評価で応援いただけますと大変励みになります!

 これからも、よろしくお願いいたします。

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