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銀のペンと魔法の回路 ―見習い修復師リリスティアと氷魔法を使う謎の少年、ときどき食いしん坊精霊のモフモフな日々。―  作者: 海優璃


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40.嵐の夜の夜更かしと三冊の本

 リセの魔力切れに加え、剣の解析で見せた目眩。それを聞いたラルフさんは、出発を少しだけ延期することに決めた。

「ジャンだけ」という案も出たが、結局は「数日のことなら、体調を万全にして全員で」という話に落ち着いたのだ。


 その日は夕食を終えた頃から、一段と風が強まった。

 普段なら森のさざめきに消えてしまう波の音が、今夜は地響きのような重低音となって足元から伝わってくる。

 高台にあるこの工房にまで、怒り狂った海の声が届いているようだった。


 こんな夜は、落ち着かなくて眠れない、嵐は朝までには過ぎていくだろうか?リセは今夜は夜更かしをする事に決めて、ソファに毛布を持ち込み、本を三冊テーブルに積み上げる。


 一冊は表紙が色褪せてボロボロの魔法の仕掛け絵本。リセのお気に入りだ。ページをめくれば、本の中から蝶が飛び出してきてパタパタと羽ばたき、キラキラと光が舞い、とっても心が落ち着くのだ。

 二冊目は、ブランが閉じ込められていた群青色の革の表紙に銀の糸で星座が縫い留められている小さな本だ。リセとジャンは、最近はこの本を旅の本と読んでいる。何度か目を通しているのだが、あったはずのシチューのページ見つからなかった。なんだか不思議な本だった。

 三冊目は、ラルフさんが貸してくれた「ノープス周辺の魔物と採取の基本」という本だ。


 リセは、まず「ノープス周辺の魔物と採取の基本」を、手に取った。

 休むための準備をしていたジャンに声を掛ける。

「ねぇ、ジャンってラルフさんから借りた本、もう読んでみた?」

「いや、パラパラ捲ったぐらいで、まだちゃんと読めていない」

「今度行くのって東の山の下の方で良いんだよね?だから、ノープス東の山の麓の辺りを読んでおけば大丈夫かな?」


「そうだな。ラルフさんの話だと、麓にはそれほど強い魔獣は出ないらしい。……あの牙狼みたいに、迷い込んでくるのはいないとも言えないが、まずは、その章を読んで、特徴を頭に入れておきたいな」

 二人はランプの火を少し強めて、一冊の本を覗き込んだ。


 ――

《ノープス東の山・麓》

 難易度は冒険初心者向け。注意すべきは群れる魔物。

 稀少素材:空間トカゲの脱皮した皮(※狙って採取するのは困難)

 注意が必要な素材:爆ぜ胡桃(はぜくるみ) 

 持ち歩きには専用のケースなど衝撃吸収対策が必要

 ――


「あ、見てジャン。爆ぜ胡桃(はぜくるみ)だって。目くらましに使えるみたいだけど……『持ち歩きには専用のケースなど衝撃吸収対策が必要』かぁ。あのポシェットの中に入ってた衝撃吸収材みたいなので出来たケースがあるのかなぁ」

「どうだろう。採取するなら、きちんとそれ用のケースを持っていったほうが良さそうだな」

「うーん。この季節じゃあんまり採れなさそうだし、そのうち考えよう。……あっ、これ!」

 リセが目を輝かせて指差したのは、別の項目だった。


 ――

【採取できる素材】

 瑠璃透かしの葉:春先限定。透き通る青い葉で、最高級のインク原料となる。

 空間トカゲの皮:マジックバッグ等の素材。滅多に見つからないレア素材。

 ――


「瑠璃透かしの葉……。春先だけってことは、今がちょうどその時期だよね。これ、手に入れられるかな?」

「ああ。皮の方も見つかれば、おじいさんへのいい土産になりそうだけど……こっちは運次第か」


 二人はその後も、一角兎の角の避け方や、洗濯に使えるシャボン草の場所などを熱心に読み耽った。

 来週には出会うかもしれない素材と、まだ見ぬ山の景色。

 ページをめくるたび、リセの胸の高鳴りは、外の嵐の音さえかき消していくようだった。


「なぁ、リセ。本当に一緒に行くの?ついて行くだけでも結構大変じゃない?」

 ジャンが打ち付ける雨の音に、窓の外を見つめて呟いた。

「うん。一緒に行きたいの。素材の採取についてもちゃんと知りたい。⋯⋯確かに体力は心配だから、疲労軽減の中敷きは準備するつもり」

 リセが絶対に譲らないと勢い込んで話すと、ジャンは笑った。

「えっ。それ俺も欲しいんだけど」

 リセはホッとしたように笑って頷いた。

「そうだね。2人分準備しよう。倉庫にいい素材がありそうだったから、おじいちゃんに言って使わせてもらう。どのくらい効果があるかわんないんだけど。」

 リセの言葉にジャンは首を傾げた。


「てっきり、どこかで買ってくるのかと思ってた。リセが作るの?」

「あっ。そうなの。昨日の夜、この本見てたらね。旅を楽しく乗り切るための道具について書かれたところがあってね。疲労軽減の中敷きの作り方が書いてあったの⋯⋯」

 リセが旅の本を指さし、続ける。

「なんか、変なんだよね。絶対、始めそんな事書いてなかった気がしていて⋯⋯読み飛ばしてたのかな⋯⋯。でも、昨日はシチューのレシピも見つからなくて⋯⋯」


 その時、ひときわ大きな雷鳴が轟き、窓がガタガタと震えた。

 ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。続きが気になる、あるいは気に入っていただけましたら、ブックマークや評価で応援いただけますと大変励みになります!

 これからも、よろしくお願いいたします。

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