20.氷結スクロールの修復2
おじいちゃんとジャンが見守る中、リセは必要な素材を揃えると、先ずは魔鹿パウダーと水スライムの脱皮した皮から作った水スライムパウダーを慎重に測り始めた。
「水スライム7に対して、魔鹿パウダー3の分量で混ぜるとね、糸みたいに細くしてレース編みみたいに出来るの!これに少しだけ『白磁の契り』を混ぜていくね。分量は、ぴったりくっつけるだけ出し多分そんなに多くはいらないよね?」
おじいちゃんが隣で頷くのを見て、少しだけナイフで切って器の中に入れる。魔力の熱でドロドロに溶かしていく。その中に、魔鹿パウダー、水スライムの順番に入れてぐるりと魔力操作によりかき混ぜる。
「出来た液体を銀のペンで吸い込んで、細く少しずつペンの先から放出しながら編むの。暫くすると1本1本で固まっちゃうんだけど、固まる前に編むと強度がさらにあがるし、凹凸も少なくなって仕上がりが綺麗なの」
リセは気合を入れて「いくよ……。」と声をかける。
リセが銀のペンを軽く振ると、先から極細の光る糸がとろりと流れ出す。それが空気に触れて弾力を持ち始めた瞬間、リセは空いている左手の指先でその糸を引っかけ、目にも止まらぬ速さで輪を作った。
まるで空中に見えない編み棒があるかのように、ペン先から繰り出される糸が次々と複雑な幾何学模様を描いていく。
「凄いっ」ジャンが呟いた。おじいちゃんも頷く。あっという間にスクロールの表と裏を覆うレースが2枚、出来上がった。
「まずは、裏側でくっつけていくね」
レースの上に破れたスクロールの何も書いていない面を、下にそっと置き、破れた面をしっかりと合わせて行く。
ぴったりしたところで、もう一度水スライムのレースに魔力を流してスクロールとなじませた後に、ジャンに優しく冷やしてもらう。
そっと持ち上げるときっちりくっついていそうだ。裏面の焦げも、綺麗な状態に修復されている。よく見るとレース編みが透けて見えて、光を当てると少しキラキラした。
続けて表面にも水スライムのレースを貼っていく、位置を合わせて、魔力を通し、またジャンに冷やしてもらう。
続けて、ジャンに氷晶石の欠片になるべく低い温度で、魔力を込めてもらう。
氷色ウミウシのインク、氷鉢の針、氷晶石の欠片を並べて、銀のペンで吸い上げる。ペンの中で素材が混ざり合うのを感じる。
スクロールを見ると、つい最近ジャンと一緒にああでもないこうでもないと読み込んだ氷結魔法の回路が書かれている。所々読みにくくなっているが、記憶と魔力の痕跡を感じながら、リセは修復を進めた。レースの凸凹が気になるところはとかしてしまう。最後の線を繋げたところで、気がつけば1時間ほど時間が立っていた。
氷結海月の膠を表に塗って水分を吸い上げて定着させ、裏側も同様の処理を施す。
最後に確認のための魔力を流していくとスクロールに劇的な変化が訪れた。
「……あ」
ジャンの小さな声が響く。
お鍋の時とは比べものにならないほどの強い光が、スクロールの内側から溢れ出した。
リセが編み上げた水スライムのレースが、血管のように青白く発光する、スクロールの上に小さくダイヤモンドダストが煌めいた。
「えっ?何これ?これか普通?」
リセが戸惑いを口に出すと、おじいちゃんが教えてくれた。
「いや、これは大成功の印だな。ジャンの魔力の閉じ込めにも成功していそうだ」
おじいちゃんがスクロールに手を触れて確かめる。
「おじいちゃん。上手く出来たかな?」
リセは期待とほんの少しの不安を胸に訊ねた、。おじいちゃんは回路も順に確認していく。
「回路は問題なく見える。スクロールなのに、少し冷たいな。試したいが、先日ジャンの件がある、ここだと危険だな。裏庭で試すか……」
3人はスクロールを手に裏庭に移動する。以前ジャンが凍りつかせた桶をまた庭の中央に設置した。
誰が一番弱く発動させられるかで、しばらく揉めたが、結局リセがやる事になった。
ジャンよりは、リセだろうと思ったのだが、リセも意外と魔力量が多いので、おじいちゃんがやると言ったのだ。けれど、リセはこのスクロールの確認まで、責任を持ってやりたかった。
おじいちゃんとスクロール無しで、魔力操作を試して、了承を貰った。
自分出来る限り、細く、ほんの少しの魔力をスクロールへ流す。最小限にする事には成功した。けれども、心配していた通り、庭の中央に氷の山が出来てしまったのだった。
氷の山はどうする事も出来ないので諦めて、「そろそろお昼の準備しようかね?」なんて話しているとブランが現れた。
「あれ~また氷の山だね〜。ね?お昼まだ〜?」
リセ達は、急にお腹が空いてくるのを感じた……。なんと、バタバタしていて朝ご飯を食べるのも忘れてしまっていたのだった。朝ご飯と一緒にお昼の準備もしていたので、今日のお昼は決まっている。
「今日のお昼はね、珍しいやつなんだ。おじいちゃんのお友達からお米っていうの送ってもらってね。トマトソースと鶏肉とかと一緒にこないだのお鍋で準備してるのそれをとろとろ卵で包んでみようかなって。」
この間のお鍋、出来上がり時間も設定できるのだ。何だか急にお腹がすいたのは、いい香りがし始めたせいかも知れない。
「いい匂い!リセ好き〜」とブランがリセに纏わりつき始めた
お昼にしようっと動き始めた時、工房の入口から、声がかかる。
「じいさ〜ん!ラルフです!」
おじいちゃんが応じる。
「どうだった?何か見つかったかい?」
「それが、……雷のスクロールなら一個手に入ったけど、氷結はやっぱりないな……。まあ、ある物で頑張ってくるよ。……ん? なんだこの、たまらなくいい匂いは」
鼻をひくつかせるラルフさんに、リセが「お昼ご飯一緒に食べてきますか?」と聞いた。続けて、
「あっでもその前に、これ確認して下さい」と氷結スクロールを差し出す。
「……ん?新しい氷結スクロール?ん? なんだこれ。何か手触りが違う……えっ、俺のスクロール? ひんやりしてる……?」
「そうなんです、ジャンと私で最高の修復が成功したんです!ジャンの魔力でパワーアップしてるし、水スライムの脱皮した皮で、更に火にも強くなってますよ!」
リセは夢中で喋った。
ラルフさんは首を傾げた。
「まあ、裏庭の氷の山を見てくれれば、分かるだろう」
おじいちゃんが、裏庭への扉を開けると、ラルフさんはその後ろをついて行った。
その後ろ姿に、リセは声をかける。
「ご飯すぐに準備するから、早く来てね!」
おじいちゃんが振り返って頷く。ラルフさんは、「お言葉に甘えさせてもらうよ」といって裏庭へ出ていった。
ジャンとリセはキッチンに急いだ。ブランが先に行ってしまったのだ……。
ブランはお鍋の魔道具の上で恨めしそうに匂いを嗅いでいた。
「いい匂い、食べたい、食べたい、食べたい〜〜〜〜」
大急ぎで、ご飯の準備をする。
ジャンに、朝の食べ損ねたホットサンドを温め直して貰い、お昼用にお鍋の魔道具で準備していたチキンライスをお皿によそった。その上にとろとろ卵をかけて仕上げていく。
ブランが、あぁ〜っと声をあげた。
「これ、知ってる!僕の閉じ込められてた本にあったよ!気になってたんだ!」
ブランは、自分用に準備されたオムライスの前でじっとオムライスを凝視していた。
リセが瓶に入った赤い物を持ってくる。「これこれ、昨日の夜、ジャンと作ったんだ、ケチャップって言うんだって。」
と言いながらケチャップをみんなのオムライスにかけていった。
裏に扉が開きおじいちゃんとラルフさんが階段を、あがってくる音がする。
「ご飯ちょうど準備出来たよ〜!冷めないうちに食べちゃおう! 」
赤いケチャップで彩られた黄金色のオムライスを前に、私たちの期待とお腹の虫は最高潮に達していた。
修復の成功をお祝いする、賑やかなランチタイムの始まりだった。
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