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銀のペンと魔法の回路 ―見習い修復師リリスティアと氷魔法を使う謎の少年、ときどき食いしん坊精霊のモフモフな日々。―  作者: 海優璃


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18.転移のスクロールとラルフさん

 ジャンの事情を知った日から、しばらくたった。

 ジャンには、氷の魔法とジャンのお母さんが使えた結界の魔法の適性がある可能性が高い、ということで学ぼうとしていた。


 氷の魔法は、一番最初に試してみた。自分の手に触れた物を凍らせる事は、本当に何の苦もなく出来たようだった。氷の粒を飛ばすことも出来そうとの事だったが、この家の中では危なくて試せなかった。遠くに突然出すなどは、まだ上手く出来ないようだった。

 ちなみに、ジャンが(たらい)いっぱいの水を凍らせてしまったので、おじいちゃんは、その上にエールの瓶をのせて冷やしていた。リセは丁度家にあった、葡萄をキンキンに冷やして楽しんだ。もちろんブランも「冷やしたら、もっと美味しい!」と喜んで、色んなものを冷やしては食べていた。……フルーツは良かったが、煮込み料理を冷やしてみたようで、「リセこれ温かいのが美味しい……」と脂が固まった表面をツンツンしながらしょんぼりしていた。


 ジャンは、ブランは凄い魔法を使えるからと、「ブラン、僕に魔法を教えて欲しい」とお願いしていた。ブランは満更でもなさそうな顔で「う〜ん。そうだね。よく見て! こんな風にしたいなって意識して、フーってするんだよ!」などと言っていた。横で聞いていたけれど、私には全然意味がわからなかった。

 ジャンも「……すまない、ブラン。俺にはまだ、その境地は早すぎるみたいだ」と、遠い目で諦めていた。


 結界魔法については、もっと難しくて、いったん後回しにしている。



 その日の朝、いつものように、私は朝食作り、ジャンは剣を振っていた。おじいちゃんは、地下の倉庫で修復に使う素材を探していた。


 ドンドンドンドンっと工房の扉が叩かれた。「じいさん! すまないが、至急メンテナンスをお願いしたい物が!!」ドンドンドンドン。


 リセは慌てて、工房へと向かう。ジャンも何事かと素振りに使っていた棒を持ったまま工房の扉の側までやってきた。リセが警戒しながら、そっと覗き込むと、工房の常連さんのラルフさんが、焦った顔で立っていた。上位の冒険者らしい。


「すまない。じいさんはいないか?至急、転移のスクロールのメンテナンスをお願いしたくて。」


 各種のスクロールは、時々魔力を補充したり、メンテナンスが必要となる物がある。攻撃系のスクロールは大抵ボロボロになるので使い捨てだが。魔力や素材を使ったメンテナンスを行うことで何度も使える。


 転移のスクロールと言うのはその名の通り、自分の指定した場所へ転移が出来るスクロールだ。魔法であれば魔術師の腕次第で細かい場所指定が出来るが、転移のスクロールは、スクロールに設定された何箇所かの中から選んで転移する形となる。

 また、とても貴重なもので、どんなに安くても金貨数十枚はする代物だし、あまり世の中に出回っているものではない。もちろんメンテナンス出来る修復師も限られる。


 そうこうしている内に、おじいちゃんが地下倉庫から物音に気が付いて上がってきた。


「おお!ラルフ久しぶりだね。どうしたんだい?」


「悪いな、じいさん。 ちょいと急ぎの応援要請が来ちまってさ。……辺境の方なんだが、遠いし俺が行ったことのない場所なんだ。じいさんなら、行き先の設定変更もできるんじゃないかと思って。馬じゃ二週間はかかる。朝早くから無理を言うのは分かってるんだが、頼めないか?」

「もしやってくれるなら、ギルドの奴らにも、今度貴重な素材が入った時は優先的にここに回せって話をつけてきた。どうだい、受けてくれるか?」


 そう言うとラルフさんは、ペコリと頭を下げた。


「あの転移のスクロールか。何度か簡単なメンテナンスはさせてもらった事があったな?う〜ん。素材があれば出来ると思うが、確認するから少し待ってくれ」


 おじいちゃんはリセの方を向いた。

「リセ! 棚の三段目から『次元海月(じげんくらげ)(にかわ)』を持ってこい。それから右の棚にある『虹色ウミウシのインク』だ。座標設定には『時空(じくう)ウミユリの化石』も必要だな」

 おじいちゃんは手際よく指示を飛ばしながら、私の持ってきた瓶―次元海月(じげんくらげ)(にかわ)―を受け取った。瓶の中では透明な液体が、意志を持つかのようにゆらゆらと揺れている。


「虹色ウミウシのインクの固定化に、万年雪の結晶が本当は欲しいが、ギルドにもきっと無いだろう?ジャンお前ちょっと手伝えるか?」

 ジャンは緊張した面持ちで、でも力強く「やってみます」と言った。


「まず、優しく冷気出せるか?」

 ジャンが冷気を出すと。もう少し強く、弱くとおじいちゃんが注文を出す。ジャンは、必死で調整する。何とかおじいちゃんの納得のいく強さになったところで、さらに確認が続く。


「次は氷結魔法をスクロールの表面に薄く出してみてくれ……このスクロールで試してみろ?」

 おじいちゃんが近くにあった探し物のスクロールを差し出すと、ジャンが緊張しながらそーっと慎重に凍らせていく。

 おじいちゃんは満足そうに頷いた。

「いいな。これでも代用出来そうだな!」


「時空ウミユリの化石はめったに使わないからなぁ、ちょっと探してくるよ」


 おじいちゃんは、探し物のスクロールを片手に、地下の倉庫へ降りていった。


 ラルフさんは、困ったように笑った。

「朝からすまないね。得体のしれない巨大生物が、何度も家畜や旅人を襲っているようでね。騎士団も動いているが、大人数で動くと出てこないのか、すぐにいなくなってしまうそうなんだ。なるべく早く応援に行ってあげたいんだ。行けば力になれると思うんだ……」

「目撃者はいないんですか?」

 リセが聞くと、ラルフさんも頷きながら答えた。

「そうなんだよね。いる事にはいるんだ。巨大な狼のように見えたそうなんだ。だか、一瞬で消える。消えるときに地面に黒い影ができて、広がって行くように見えたと言ったやつもいる。足元でザワザワ小さいものが動いたのを感じたと言ったやつもいたようだ。何が起きているのかまだ分からない。自分の目で確かめたいと思う。」

 リセは「う〜ん」何か出来ることはないのかと考え込んでいた。その横で、ジャンも何か気になることがあったようで考え込でいた。


「巨大で、忽然と消えて正体が分からない魔物⋯⋯か」、ジャンが小さく呟いた。

「ラルフさん。絶対やっつけてきてください」


 ジャンは下を向いたまま、素振りの棒をきつく握りしめた。棒にミシミシと冷気が宿る――。



 ラルフさんは、ジャンを見て頷いた。


「任せとけよ。俺は強いぞ!……お前も色々あるんだな」


 とクシャっと笑ってジャンの頭を撫でた。

「そう言えば、ジャン、お前素振りやってただろう?剣をやるのか?魔法剣もいけそうだな?今度見てやるよ!なっ。この家には、爺さんとかわいい女の子だけだったからさ、用心棒が必要だと思ってたんだ」


 と、冗談めかしてラルフさんは言った。

 ジャンは、はっとして、ラルフさんを見て、背筋を伸ばして頭を下げた。

「是非お願いしたいです。」


 その時、おじいちゃんが、「あったぞ!」と嬉しそうに小走りで戻ってきた。


「あっ、リセそこの地図もとってくれ」

 リセは棚の一番左側に置いてあった地図を取り出す。

「で、どの辺がいいんだ?」

「二箇所設定出来ますか?」

「そうだな。ウミユリの化石の量的に二箇所までなら出来るよ。」

「辺境伯領の領都入口と、この山の麓辺りに設定して欲しい」

「おう。任せとけ。」

「リセ、ジャン。手伝って貰うぞ!」


「リセは、まず時空ウミユリの化石をすり鉢で粉にしてくれ。粉にすると劣化が始まるから、魔力も流し込みながら、虹色ウミウシのインクと混ぜるとこまでやってくれ。」

「出来たインクに、儂が更に魔力を加えながら、魔法陣のメンテナンスと位置の設定を行っていく。」

「ジャン、虹色ウミウシのインクは、固定化するまでは、温めちゃいかん。本当は、万年雪の結晶などの素材を混ぜる事で、温度を保つ。今日は冷気を当て続けてくれ。」

「最後に次元海月(じげんくらげ)(にかわ)で仕上げるぞ。ジャン、最後に氷結魔法で優しくスクロールの表面をしっかり冷やし固めてくれ」


 リセは手際よく、準備をした。おじいちゃんは横で地図を見ながら、設定する場所をもう一度確認している。


「おじいちゃん始めるね!ジャン、サポートお願い」

 声をかけると二人はしっかりと頷いた。

 リセは時空ウミユリの化石を手早くすり潰し、虹色ウミウシのインクを少しずつ混ぜ合わせる。横でジャンが冷気を当ててくれる。虹色のインクが微かに発光し始める。


 おじいちゃんが、修復師の銀のペンで吸い上げて、スクロールに新しい転移先の設定を書き込んでいく。

「リセ、次元海月(じげんくらげ)(にかわ)を出して」

 リセが瓶の蓋を開けて差し出すと、おじいちゃんは、鮮やかにスクロールの全体を覆うように次元海月(じげんくらげ)(にかわ)を広げた。ジャンに目で合図をし、ジャンも氷結魔法を繊細に発動する。

 氷結魔法が端まで届くと共にスクロールが発光した。


 おじいちゃんがスクロールの仕上がりを最終確認し、満足げに頷いてラルフさんに差し出した。

「ほら、受け取れ。完璧なはずだ」

ラルフさんは、両手で力強く受け取った。

「助かったよ、じいさん。恩にきる。……よし、これで今すぐ出発できるな」


「あっ!ラルフさん待って」

 リセはさっきから考えていた事を言い出す機会を逃しそうで焦って言った。

「あの⋯⋯。その巨大魔獣に氷結魔法って試してますかね?もしかしたら、凍らせたらバラバラにならないとか無いかなって⋯⋯」

 だんだん自信がなくなって声が小さくなってしまう。


「いや、氷結魔法を使える魔術師は少ない。氷結のスクロールも、そこまで出回っているものじゃない。たぶん、まだ試せていないだろう。可能性はあるな。」


 ラルフさんは考え込みながら頭を掻く。

「⋯⋯。いや、となると。」

「氷結のスクロールかぁ⋯⋯。一応あるんだけどさ、この間戦闘中にボロボロにしちゃってさぁ」


「⋯⋯⋯⋯これ、どうにかなると思う?」

無事に転移のスクロールは直りましたが、ラルフさんが取り出したのは、さらにボロボロになった「氷結のスクロール」。

巨大魔獣を倒す鍵になりそうなこの道具、果たして直せるのでしょうか……?


本日は3話更新予定です。15時台と21時台を予定しています。


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