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銀のペンと魔法の回路 ―見習い修復師リリスティアと氷魔法を使う謎の少年、ときどき食いしん坊精霊のモフモフな日々。―  作者: 海優璃


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14.お鍋の修復1

 リセは、例のお鍋の修復に行き詰まっていた。複雑に絡み合った魔法回路の、どこに熱を留め、どこで逃がすのか。その正解を見つけられず、何かヒントはないかと古い本を漁る日々が続いていた。


 その日の午後。ジャンはキッチンの隣にある食卓で、一冊の魔導書を広げていた。背表紙には『魔力操作の向上のコツ 〜それぞれの属性〜』と記されている。


「それ、どんなことが書いてあるの?」

 リセが背後から覗き込むと、ジャンは顔を上げて静かに答えた。


「今は火の属性のページを読んでいるところなんだ。魔法を発動する前に、魔法陣を頭の中に描くだろう?その時に、この部分に温度を意識するんだって」


 ジャンは、本の挿絵の魔法陣の中を指し示す。


「火力については放出する魔力量とかで変えられるって知ってたけど、炎の『温度』も細かく制御できるんだって。狭い範囲に攻撃するならその方が絶対に効率がいいよね。なかなか面白いよ」


「温度の制御……? それってもしかして、私がずっと探してた答えかも!」


 リセの瞳がぱっと輝いた。ジャンは少し驚いたように瞬きをして、机の上の本をリセの方へ寄せた。


「うーん、どうだろう。修復に役立つかは分からないけど……このあたりに書いてあるよ」

「うんうん。……あ、本当だ。ここ、お鍋の回路の構造と似てる部分がある! ここでお鍋の温度や中身の状態を感知して、その横にあった回路でたぶん自動で調整するのね!」

 勢い込んで読み進めるものの、やはり一筋縄ではいかない。

「あぁ〜。もうっ。分からないことだらけだわ!」


 リセはそう言って、勢いよく魔導書に突っ伏した。パサリ、と乾いた紙の音が食卓に響く。

 隣でジャンが「……リセ、魔導書に跡がつくよ」と、呆れたような、けれどどこか楽しげな声を出す。

 出会ったばかりの頃の彼は、まるですべてを拒絶するように尖っていた。けれど、この一ヶ月。共に魔鹿パウダーを作り、おじいちゃんの修復を見学し、同じ食卓を囲むうちに、彼が纏う空気は少しずつ柔らかくなっていた。

 今のジャンは、リセがこうして弱音を吐いても、困ったように眉を下げて笑ってくれる。

 そんな彼の変化が、リセは何よりも嬉しかった。


「もう、笑わないでよジャン! 私、真剣なんだから」

「分かってるよ。……一緒に考えようか?」

「えっ、本当に? ジャン、大好き!」


 思わず出た言葉に、ジャンは一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、すぐに視線を落としてペンを動かし始めた。リセは、ジャンの驚くほど綺麗に写し取られた魔法陣に気を取られていて、その少し赤くなった彼の耳には気が付かなかった。


「温度を感知するとか、解析系の魔法かな? リセ、もう一度、お鍋の魔法陣も確認したいな」

「待ってて、いま出すわ。ええと……あった!」


 リセは作業着のポケットをがさごそと探り、お鍋の心臓部を丁寧に写し取った紙を取り出した。何度も見返しては書き込んだせいで、端の方は少し丸まり、鉛筆の跡で黒ずんでいる。


「これよ。この部分が上手くつながっていないのが原因で魔力が空回りしちゃうのはわかるんだけど、繋げ方がよくわからなくって。たぶん、ここがさっきの温度を調整する場所ね。ここも単純に線を引けば良いだけって理由にはいかなそう……」


 二人は食卓に身を乗り出し、二枚の紙を並べた。


 ジャンは「うーん。やっぱり、解析系の本を、探してくる!」と言い残すと、勢いよく本を探しに立ち上がった。

 その背中を見送りながら、リセは二枚の紙を交互に見つめる。ジャンの書いてくれた魔法陣は、ため息が出るほど無駄がなく、流麗だ。


「……本当、パズルみたい」


 リセは修復用の銀のペンを、取り出してその線をなぞった。複雑に絡み合う回路の隙間……焼き切れてしまった部分で手をとめる……。その時、ふとリセの頭の中に、おじいちゃんがいつも口にしていた言葉が浮かんできた。

『道具の心を知れ。無理に繋ぐのではなく、魔力が流れたがっている道を見つけてやるんだ』

(……私、必死になり過ぎて無理やり繋ごうとしていたかな……。後で、しっかり、魔力の流れた跡を調べてみよう。)

 リセが紙を透かして重なりを確認していると、ドサッという重い音と共にジャンが戻ってきた。腕には、リセが手に取ったことの無い、分厚い解析魔術の専門書を3冊抱えている。


「少し調べてみよう」


 ジャンとリセは、温度や中身の状態を感知する方法が無いか、それぞれに専門書を捲る。


「リセ、これを見て。体の状態を解析する解析魔術の術式なんだけど、この一部が応用できるかもしれない。……もっとも、人間を診るためのものだから、お鍋に使うならもっと単純な構成に書き換えられるはずだ」


 ジャンが見つけてきたのは、高度な診断魔術の記述だった。一方、リセも一冊の古い実用書に指を止める。


「あっ、それなら私の見てた本の中にも『体温を調べる』っていう簡易術式があったわ。……これってこのままお鍋にも転用出来るかな?」

「……どうだろう。対象が人間か金属かで、魔力の通り方や抵抗が違う可能性がある。物質の違いを考慮しないと、正確な温度は測れないかもしれないね」


 ジャンの冷静な指摘に、リセは「なるほど……」と唸った。おじいちゃんがいつも言っている『素材の声を聞け』という言葉が頭をよぎる。


「じゃあ、もう一度お鍋に残っている魔力の痕跡を見てくるわ。どんな風に力が流れていたのか、お鍋と対話してみなきゃ!」


 リセはその本を抱えて立ち上がった。ジャンもまた、自分の見つけた専門書を手に取り、彼女の後に続く。二人はそのまま、一階の修復作業場へと向かった。

お鍋の魔道具の修理が始まります。修理が終わらなかったので、本日もう1話投稿予定です。9時過ぎになります。


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これからも、よろしくお願いいたします。

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