表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
最終章:『蒼の王女と不死身の剣士』
64/68

第六十三話

冷たい金属の感触が、こめかみに触れようとした、その時。


 ザンッ!!

 鋭利な風切り音と共に、金色の閃光が走った。


「……?」


 ニールが怪訝な顔をする。

 次の瞬間、シオンを掴んでいた彼の右腕が、肘から先で鮮やかに切断され、ぼとっと落ちた。


「……はぁ、はぁ……。汚ぇ手で……シオンに触るんじゃねぇよ」


 ドサリと落ちたシオンを受け止めたのは、満身創痍のフレデリックだった。

 彼は焦点の定まらない瞳で、しかし確かな殺意を持ってニールを睨みつけていた。

 その手には、激戦でボロボロになった「斬鬼丸」が握られている。


「フレ……デリッ……ク……」


 シオンは彼の腕の中で、安堵と共に意識を手放した。


「やあ、おはようフレデリック」


 ニールは切断された右腕を見ても、眉一つ動かさなかった。

 傷口から黄金のナノマシンが湧き出し、瞬く間に新しい腕を形成していく。


「その体で動けるとはね。……だが、見ていて痛々しいよ」


 今のフレデリックは、立っているのが奇跡のような状態だった。

 再生は終わっているが、精神の摩耗が限界を超えている。

 全身から冷や汗が噴き出し、呼吸は浅く、手足は微かに痙攣している。


「やはり、君の不死は不完全だ。死ぬたびに精神が削れるなんて、実に欠陥品らしい」


 ニールは再生した右腕を、巨大な黄金の剣へと変形させた。

 左腕は、高出力のビームガンへと姿を変える。


「今までありがとう。君のおかげで、私は完全な存在になれる。……せめてもの礼に、私が引導を渡してあげよう」


「……御託はいいから、さっさと死ね」


 フレデリックが吠え、斬鬼丸を構えて突っ込む。


 キィィィィンッ!!

 黄金の剣と、鋼の刀が激突する。

 パワーはニールが圧倒的に上だ。だが、剣技においてはずぶの素人。

 フレデリックはニールの豪腕を受け流し、死角へと滑り込む。


「オラァッ!」


 斬鬼丸の一閃がニールの脇腹を捉える。

 だが、硬い。

 黄金の装甲は、斬鬼丸の刃をもってしても数ミリしか食い込まない。


「無駄だと言ったはずだ」


 ニールは左腕のビームガンを至近距離で発射する。


「チッ!」


 フレデリックはのけ反って回避するが、回避しきれずに頬を焼かれる。

 即座に体勢を立て直し、銀のリボルバーを連射するが、弾丸は全て装甲に弾かれる。


 攻防は数十合にも及んだ。

 戦闘経験のないニールを、フレデリックの技術が翻弄する。

 だが、決定打がない。

 どれだけ斬っても、撃っても、ニールのナノマシンは瞬時に修復してしまう。

 対してフレデリックは、限界の体に鞭打って無理やり動かしている状態だ。一撃ごとに動きが鈍っていく。


「しぶといな。……だが、終わりだ」


 ニールが全身から全方位に衝撃波を放った。


「ぐわぁッ!?」


 回避不能の範囲攻撃。

 フレデリックは為す術なく吹き飛ばされ、シオンが眠るキャリコ号のハッチ付近へと叩きつけられた。


「ガハッ……!」


 口から血の塊を吐き出す。

 刀を握る握力すら残っていない。


 ニールが悠々と歩み寄ってくる。

 黄金の光を背負ったその姿は、まさしく絶望の象徴だった。

 万事休す。

 

 だが。

 うつ伏せに倒れたフレデリックの顔に、諦めの色はなかった。

 彼は血に塗れた唇を歪め、獰猛に笑った。


(……上等だ……いいことを思いついたぜ……)


 彼は隣で倒れているシオンを見た。

 彼女のまつ毛が震え、ゆっくりと瞳が開かれる。


「……ん、うぅ……」


 シオンが重い瞼を開けると、そこは戦場だった。

 鼻を突く焦げ臭い匂い。耳鳴り。

 そして、隣にはボロボロになったフレデリックが座り込んでいた。


「よお、シオン。……よく眠れたか?」


 フレデリックは血反吐で汚れた口元を拭い、ニカっと笑った。


「フレデリック!? ニールは……」


 シオンが慌てて顔を上げる。

 数メートル先。黄金の光を背負ったニールが、悠然と佇んでいた。

 無傷だ。フレデリックの決死の猛攻すら、彼のナノマシン装甲には届かなかったのだ。


「健在だ。……鉄壁のナノマシンが厄介でな。俺の剣も銃も、まるで歯が立たねぇ」


 フレデリックは悔しげに呟き、背中のキャリコ号の装甲板にバンと手をついた。


「おい、相棒。……聞こえてるか?」


 ザザッ……。

 外部スピーカーから、アルの切迫した声が響く。


『マスター……。現在、シャドウとの電子戦リソースが限界です。……これ以上の負荷は……』


「忙しいとこ悪いが、少しだけ手伝え。……一瞬でいい」


 フレデリックの声は真剣だった。

 アルは少しの沈黙の後、溜息交じりに答えた。


『……仕方ありませんね。少しだけですよ? ……本当に、手のかかるマスターです』


「ははっ、恩に着るぜ」


 フレデリックはニヤリと笑い、視線を横に向けた。

 そこで不安げに見上げている少女へ。


「シオン。……再構築の弾丸は、まだ撃てるか?」


「撃てるけど……」


 シオンは黒いリボルバーを握りしめた。


「当たる前に防がれてしまうわ。彼のナノマシンは、私の力すら解析して適応している。……ただ撃つだけじゃ、届かない」


「一度だけだ」


 フレデリックが、シオンの瞳を真っ直ぐに見据えた。

 その瞳には、揺るぎない覚悟と、彼女への絶対的な信頼が宿っていた。


「俺が一度だけ隙を作る。……ニールの鉄壁をこじ開けて、あいつの心臓への道を拓く。だから、そこに叩き込め。……やれるか?」


 失敗は許されない。

 外せば、次はもうない。

 だが、シオンは震えなかった。

 彼女はもう、守られるだけの姫ではない。レイオンの王として、そして彼の相棒として、その覚悟を受け止める。


「……もちろん。絶対に当てるわ」


「上等だ」


 フレデリックは、残った力を振り絞って立ち上がった。

 そして、小声でキャリコ号に囁く。


「……俺が合図したら、キャリコの主砲をニールにぶち込め」


『了解、マスター。……タイミングは任せます』


 ふらつく足取りで、フレデリックはニールの前へと進み出た。

 シオンもまた、彼の少し後ろで銃を構える。


「やあ。お目覚めかな、眠り姫」


 ニールは優雅に両手を広げ、二人を迎え入れた。

 その余裕は、圧倒的な力の差から来る傲慢さだった。


「最後の会話は楽しめたかな? それが君たちの遺言とならないことを祈るよ」


「ああ、楽しかったぜ。……おかげで目が覚めた」


 フレデリックは不敵に笑い、右手の斬鬼丸をだらりと下げた。


「それじゃ、おっぱじめるぜ! ……行くぞ、アルッ!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ