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XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
第十章:『星の記憶、レイオンの遺産』
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第五十五話

 フレデリックが一歩前に出る。

 500年の呪い。死にたくても死ねない、地獄のような時間の正体。


『其方の肉体には……かつて滅びた星一つ分のリフルが、無理やり詰め込まれ、封印されている』


「星、一つ分……!?」


 シオンが驚愕する。


『そうだ。通常、死と共にリフルは大海へ還る。だが、其方の体はあまりにも強固な「器」となり、出口を失った膨大なリフルが体内だけで循環し続けているのだ』


 神官が空中に複雑な図形を描く。円環が閉じたまま、高速で回転している。


『死んでも、リフルが外へ出られない。……故に、肉体を再構築し、何度でも蘇る。それは不老不死などではない。「閉じた循環」による、永遠の停滞だ』


「……こいつは傑作だな」


 フレデリックは乾いた笑いを漏らした。


「俺一人が、歩く星だってのか。……どうりで体が重いわけだ」


『その停滞はいずれ限界を迎える。……停滞した水が腐るように、其方の精神は摩耗し、やがて自我を失い「生きた厄災」となるだろう』


「……ッ」


 フレデリックの笑顔が消える。それは彼が最も恐れていた末路だった。

 死んでリセットされる度に自分がすり減る感覚……漠然と感じていた遥か遠くで待つ終焉……考えないようにしていた。

 それを意識してしまうと自分が壊れてしまいそうだったから。


『だが、解く術はある』


 その言葉に、フレデリックの心臓がドクンと大きく鼓動した。


『今のシオンの力、そしてこの神殿の増幅機能を使えば……其方の体という「器」の蓋を開け、内包されたリフルを大海の循環へと還すことができる』


「!」


 シオンが弾かれたように顔を上げる。


「本当ですか!? フレデリックを……助けられるんですか?」


『うむ。リフルが還れば、彼はただの人間に戻る。……呪いは消え、人として老い、人として死ぬことができるだろう』


 シオンの瞳に涙が溢れた。

 ずっと探していた答え。ニールに頼らずとも、相棒を救う方法が、ここにあったのだ。


「よかった……! フレデリック、よかった……!」


 シオンがフレデリックの腕にすがりつく。


「……ああ……ああ!」


 フレデリックは短く、噛みしめるように頷き、シオンの頭をポンと撫でた。

 その表情は、歓喜ではない。

 だが、500年間張り詰めていた糸が、ようやく緩んだような――深い安堵に満ちていた。


「ようやく、終わらせられるのか」


『だが、猶予はない』


 神官の声が厳しくなる。

 ドームの映像が赤く染まり、不吉な影が銀河を覆い尽くす図が示された。


『白亜を統べる者が成そうとしている業……。それは、リフルを強制的に停滞させ、永遠に固定化する行為だ』


「停滞させる……?」


『彼はそれを「永遠の命」と呼ぶだろう。だが、それはリフルの流れを止める行為と同義。……そんなものが広がれば、リフルは循環を失い、この星々の大海そのものが壊死して崩壊する』


 シオンの背筋が凍る。

 ニールの計画は、救済などではない。宇宙規模の自殺行為だ。


『シオンよ。調律者として覚悟を決めよ』


 神官が問いかける。


『あの者を止めねばならぬ。……だが、奴はすでに巨大な力を手に入れている。それを止めるには、我らレイオンの「全て」を賭ける必要があるかもしれぬ』


 シオンは涙を拭い、顔を上げた。

 その瞳に、迷いはもうない。

 彼女は王として、そして調律者として、力強く頷いた。


「分かっています」


 シオンは腰の黒いリボルバーを握りしめた。


「私は、レイオンをこの世界を守る。……そして、フレデリックを人間に戻して、一緒に帰るわ」


「まったく、頼もしい限りだな」


 フレデリックが腰の刀に手を添える。


「呪いを解いてもらうお代はニールの計画阻止だな」


『二人だけで盛り上がらないでくださいよ』


 二人の間に割って入るようにアルがホログラムの姿を現す。


『私も混ぜて頂かないと。ねぇ、マスター、シオン様』


 厳しい戦いになる。神官はそう思いつつも、蒼の王女、不死身の剣士、電子の精霊……この三人であれば乗り越えられるはずだと優しく見守るのだった。


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