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XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
第九章:『白亜の虚像、見果てぬ夢』
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第四十九話

 白亜の部屋に、重苦しい沈黙が流れていた。プロジェクト・ノア。人類を選別し、不老不死の種へと作り変える計画。あまりにも現実味のない、狂気じみたその構想に、フレデリックとシオンは言葉を失っていた。


「……呆れたな」


 フレデリックが乾いた笑いを漏らす。


「神になるだと……? 科学者であるアンタとは一番正反対に位置する、非科学的な存在だ……。1000年も生きてると、科学と妄想の区別もつかなくなるらしいな」

「ふふっ、確かに共和国の凡庸な科学者ならそう笑うだろうね」


 ニールは気分を害する様子もなく、紅茶を一口すすった。


「だが、フレデリック。君自身がその『非科学的な存在』の証明者ではないか?」

「……なに?」

「君のエコーズでの任務を思い出して見たまえ。私が君に命じたのは、銀河共和国が解明出来ていない未確認のエネルギーの調査だ。……現地のシャーマンが使う呪術、古代遺跡に残る魔法陣、あるいは特異点によるサイコキネシス現象」


 フレデリックの眉がピクリと動いた。確かに、彼が派遣されたのはそんな胡散臭い案件ばかりだった。命じられるままに調査し、時にはその不可解な力に直面してきた記憶が蘇る。


「銀河共和国のアカデミズムは、それらを『未開の迷信』や『集団幻覚』として切り捨ててきた。……だが私は違う」


 ニールは熱っぽい瞳で語り始めた。


「私は長年の研究で、一つの仮説にたどり着いた。魔法も、超能力も、そして『魂』と呼ばれる概念も……すべてはこの宇宙に偏在する『未知のエネルギー』が発現した形態に過ぎない、とね」

「……未知のエネルギー?」


 シオンが怪訝そうに尋ねる。


「そう。物理法則を超えて事象を改変する力。私はこれを『根源エネルギー』と呼んでいる」


 ニールは空中に新たなホログラムを展開した。そこには、銀河の星々と共に、目に見えないエネルギーの波長が網の目のように描かれていた。


「エネルギーの存在は証明できた。だが、問題はどうやってそれを『制御』し、私が意図した形に構築するかだ」


 ニールはフレデリックの方を見た。


「そこで私が最初に出会ったサンプルが、君だ。フレデリック」

「……俺か」

「ああ。君は『根源エネルギー』が奇跡的な確率で肉体に凝縮され、定着した結果だ。不完全ではあるが、君の肉体は時間を超越している」


 ニールは少し残念そうに首を振った。


「だが、君はあくまで『結果』でしかなかった。君が死に、リセットされるたびに採取されるデータをどれだけ分析しても、エネルギーが定着したメカニズムそのものは解明できなかった。……君は、偶発的に生まれた特異点に過ぎなかったんだよ」


 フレデリックは忌々しげに舌打ちをした。自分が戦場で死に、生き返るたびに感じていたあの不快な悪寒。それは、死の淵から蘇る際に、ニールによってデータを吸い上げられ、分析されていたからだったのか。


「行き詰まっていた私が見つけた、新たな希望。……それが君だ、シオン王女」


 ニールの視線が、シオンへと移る。


「君の持つ、蒼の力。……『無から有を生み出す』その特異性こそが、私が探し求めていた答えだった」

「私が……答え……?」

「そう。フレデリックがエネルギー定着の『結果』なら、君はそのエネルギーを自在に操る『鍵』だ」


 ニールは確信に満ちた声で断言した。


「君の力は、根源エネルギーに干渉し、自在に形を与えることができる。……君の因子を使えば、根源エネルギーを制御し、完全なる不老不死を完成できる。そして『選ばれた人類』を新たな領域へ…神へと進化させる」


 シオンは背筋が凍るのを感じた。この男は、自分を人間として見ていない。ただの便利な「変換装置」として見ているのだ。


「その確証を得るために、私は調査員としてフレデリックを派遣し……脅威に直面した時に君の力がどう変化するのかを観測させてもらったよ」


 その話を聞いた瞬間、不快感と怒りでシオンの目の前が揺らいだ。

 この男は脅威に直面した時の変化を観測したと言ったのだ……それはつまり……。


「じゃあ……ガレッゾがレイオンにやってきたのも……両親が命を落としたときも……」

「傍観していたさ。あの状況を作ったのは私だからね。ご両親は残念だったが、その代わりにレイオンの復興には全面的に協力させてもらっている。何せ君は人類救済の鍵なのだから」


 ニールは悪びれもせずに言った。


「貴様----ッ!!」


 シオンは叫びながらブラック・ガルムをニールの眉間に突きつけた。両親の死も、故郷の喪失も、彼の手による実験の一つでしかなかったのだ。


「怒ることはない。むしろ感謝してほしいくらいだ」


 眉間につきつけられた銃口など意に介さず、シオンに対処しようとしたシャドウを手で制しながらニールは穏やかに続けた。


「私は君の覚醒を待っていたんだ。……だからこそ、ガレッゾやカルマンディといった『適度な脅威』を君たちにぶつけ続けた。命の危機こそが、君の眠れる力を呼び覚ますと実証されたからね」


 フレデリックの拳が、ギリギリと音を立てて握りしめられる。


「結果は予想以上だった。……君はカルマンディの実験場で、見事に『再構築』の力に目覚め、フレデリックの精神と肉体をリセットとは違う完全な形で修復して見せた」


 ニールは慈愛に満ちた満面の笑みで拍手をした。乾いた音が、部屋に響く。


「シオン王女。君の力は奇跡だ。……これで人類の救済を成せる。『プロジェクト・ノア』の始動によってね」


 ニールはゆっくりと立ち上がり、両手を広げた。その背後には、白亜の都市が広がっている。だがシオンの目には、その景色が死体で築かれた墓標のようにしか見えなかった。


 これ以上の言葉は不要だった。フレデリックの手が、電光石火の速さで斬鬼丸に伸びる。


「おっと」


 ニールが制するように片手を上げた。その顔には歪んだ笑みが浮かんでいる。


「焦ることはない。……その前に、最大の功労者を労わないといけないな」

「……何?」


 フレデリックの手が止まる。


「君たち二人の詳細なデータ……フレデリックの『リセット』時の生体情報や、シオン王女の覚醒時の波動データ。……それを余すことなく記録し、私に送り届けてくれた協力者がいなければ、この研究は完成しなかった」


 ニールが横に控えるシャドウに目配せをする。シャドウが無言で頷いた。


 ブゥン……。


 空間が歪み、ニールの隣にホログラムが強制的に実体化させられた。ノイズ混じりの青い光。そこに現れたのは、苦悶の表情を浮かべた青年の姿だった。


 シオンが息を呑む。


「……どういうことだ……?」


 フレデリックが呻くように言った。そこに映っていたのは、まぎれもなく彼らの相棒――SSO-008 TYPE-α……アルだった。


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