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XROSSPHERE~クロスフィア〜蒼の王女と不死身の剣士  作者: 東山小月
第九章:『白亜の虚像、見果てぬ夢』
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第四十七話

 白亜の回廊の突き当たり。重厚な自動扉が、音もなく左右にスライドした。


「どうぞ。マスターがお待ちです」


 案内役のシャドウが、うやうやしく一礼して道を空ける。手錠を外されたシオンとフレデリックは顔を見合わせ、小さく頷き合うと、その部屋へと足を踏み入れた。


 そこは、執務室というよりは、巨大な美術館の一角のようだった。壁も床も天井も、すべてが純白。家具は最低限しか置かれておらず、部屋の中央に豪奢なティーテーブルと、数脚の革張りソファがあるだけだ。そして、壁一面の巨大なガラス窓の向こうには、グリントアークの完璧な街並みと、その彼方に広がる銀河の星々が一望できた。


「やあ、待っていたよ。元気そうで安心した」


 窓際に立っていた男が、ゆっくりと振り返った。


 ニール・E=ターメル。銀河共和国の上院議員であり、「エコーズ」の創設者。


 彼は上質なスーツを完璧に着こなし、その手には湯気の立つティーカップを持っていた。顔には穏やかな微笑みを浮かべている。まるで、休日の午後に親しい友人を招いたかのような、あまりにも場違いな空気だった。


「さぁ遠慮なく座りたまえ、今日はゆっくり君たちと語らおうと思ってね」


 ニールはソファを勧めた。テーブルには、すでに二人分の紅茶と、美しく盛り付けられた茶菓子が用意されている。


「……随分と余裕だな」


 フレデリックは低い声で唸り、ドカッとソファに腰を下ろした。遠慮も作法もない。ただ、いつでも動けるように警戒は怠らず、鋭い視線でニールを射抜く。


「俺たちをハチの巣にするんじゃなかったのか? ここは処刑場にしては上品すぎるぞ」

「処刑場?何を言ってるんだいフレデリック。君たちのこれまでの働きを労い、未来の話をしたかっただけだよ」


 ニールは優雅な所作で対面の席に着いた。その背後には、シャドウが影のように音もなく控えている。彼女の無機質な瞳は、一瞬たりとも二人から離れることはない。


「シオン王女、君も遠慮なく座りなさい。君が紅茶好きだと聞いてね。なかなか手に入らない高級茶葉を用意したんだ」

「……結構です」


 シオンは座らず、テーブルを挟んでニールを睨みつけた。


「お茶を飲みに来たわけじゃないわ。……貴方の企みを全て話して頂けますか?」

「ハハハ。企みか……相変わらず威勢がいい」


 ニールは苦笑し、自身のカップに口をつけた。カチャリ、とソーサーに置く音が、静寂な部屋に響く。


「まずは労わせてほしい。アラクネでの脱出劇、アビスマーケットでの死闘、そしてカルマンディの実験場での決着……。君たちの旅路は、私の予想を遥かに超える素晴らしいものだった」


 ニールは心底感心したように、拍手をするような仕草を見せた。


「フレデリック、そしてシオン王女。それぞれがこちらの想定通り…いや想定を超える成長を見せてくれた。私はとても感動しているんだ。」

「……成長だと。そのために裏でコソコソと悪だくみをしてた訳か?」


 フレデリックが冷ややかに返す。


「悪だくみ?何を言ってるんだい。これは君たちの能力を引き出し、人類の未来を切り開くための崇高な計画の一部だ。多少の犠牲は出てしまったが、プロジェクトを完遂できれば大業の礎となれたことを彼らもきっと誇ってくれるだろう。」

「……いい加減にして!」


 シオンが叫んだ。ドンッ、とテーブルを叩く。


「貴方は私たちを追い詰め、もてあそんで……一体何がしたいの? こんな回りくどいことをして!」


 彼女の瞳には、怒りと共に、底知れぬ恐怖への問いかけがあった。ニールが、なぜ執拗に自分たちを狙うのか。その真意が見えないことが、何よりも恐ろしかったのだ。


「もてあそんでなどないさ……ただ、何も知らなければそう感じてしまうのも無理はない。では、順を追って説明しよう」


 ニールは穏やかな口調のまま、窓の外へ視線を向けた。


「この銀河共和国は……死にかけている」

「……?」


 シオンが怪訝な顔をする。


「何を言っているの? 共和国は繁栄しているわ。外の街並みだって、あんなに……」

「綺麗だろう?」


 シオンの言葉を遮りつつ、ニールは立ち上がり、窓ガラスに手を触れた。眼下に広がる白亜の都市を見下ろす。


「塵一つなく、犯罪もなく、貧困もない。すべてがシステムによって管理され、最適化された世界だ。……だがね、シオン王女。それは『進化の袋小路』なんだよ」


 ニールは振り返り、淡々と語り始めた。


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