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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第99話 勝尾城攻め

1571年5月 勝尾かつのお城  龍造寺隆信(たかのぶ)


 筑紫め、手こずらされるわい。

 支城である朝日山城は一日で落として見せたのだが、本拠地である勝尾城の方は明らかに備えがされていた。


 弥生の月から攻城を開始し、二カ月が経過している。田植えの時期にも入ってしまった。あとひと月も経たぬうちに梅雨になろう。長引くのは面白くない。


 ただ多少苦戦しているものの、まだまだ想定の範囲内ではあった。順当にいけば近日中に攻略できるはずだ。


 勝尾城には博多から兵を吸収して二、三千ほどの兵が詰めておるらしい。だがこちらは一万五千。ゆっくりではあるが少しずつ攻城は進んでいた。


 一枚岩でできている不思議な城壁は高さがありやっかいではあったが、博多に同じような物があるという空閑くがからの知らせのおかげで、高さに合わせたハシゴを用意できている。

 城壁の前には逆茂木が敷かれていたが、これもほとんど取り除かれた。


 とうとうハシゴをかけようかという所まで来たのだ。


 それを防ごうとして筑紫の兵は分散しており、城門の守備がおろそかになっている。というのが前線からの報告を受けての儂の見解だ。

 今日の攻撃はそれを確かめるものだ。


 「殿っ!」


 と伝令が要件を伝えてきた。まさに城門を攻めさせていた江里口が戻ってきたようだ。

 すぐに自分の元まで通すように返事をした。


 江里口は孫四郎(鍋島直茂(なおしげ)のこと)の元にいた武勇に秀でた中堅だ。今回、孫四郎を連れてこれぬので代わりに前線を差配させている。


 城門の様子を見るように攻めろと沙汰を下したが、はてさて結果を聞くのが楽しみじゃ。果たして儂の睨んだ通りであろうか。


 儂への目通しの許可を得た江里口が陣に入ってきた。すぐさま膝をついて畏まっている。どうであったかと尋ねた。


「はっ、木槌を手にして城門まで辿り着き、これを叩いて参りました。殿の睨んだ通り、城門守備が手薄になっておりまする。鉄砲が少なくなっており申した」


 よしよし、狙い通りじゃ。顔がにやけるわい。江里口も離れて見るだけでなく門を叩くまで進んだとはやりよる。


「城門を叩いた様子はどうであったか」


「はっ、いくらか鉄板で補強されてございました。しかしあの程度であれば二、三人で叩き続ければほどなく破れるかと」


「ようやった!」


 どうやら上手く事が運んでいるようだった。正面から攻めるしかないとは思うてはいたが、狙い通り城門の守りを薄くすることに成功した。

 これならば城を落とし能うだろう。


 筑紫の勝尾城は兵糧攻めには向かない城だ。背後に背振山地があり、ここを通って博多に通じていて兵糧を確保しやすい。

 毛利との戦で山道の補給路はずいぶんと整備されたようだ。


 背振が大きな山地であるので、山を全て囲んで補給路を塞ぐのは不可能だった。力攻めしかないのは懸念の一つだったが、見ての通り堅城という程ではない。


 まず勝尾城がある場所が山のずっと奥深くにあるわけではない。特段に険しい場所でもなかった。もちろん容易くはないが多少の無理で届く範囲であった。

 しかも大勢を中に入れられるほど大きな城でもない。


 所詮は元は七千石程度の国衆の城にしかすぎぬのだ。


 筑紫はこの弱点を補強するために、代々にわたって小さな出城を山々にちらばるように築城している。

 広門が山ふもとに作った一枚岩の城壁もそうした弱点を補強するものであろう。


 多少苦戦させられているが、突貫で作られた堀もないただの壁である。大人数で攻め立てれば破ることも可能だ。


 孫四郎め、回らぬ口で慎重にといさめてきたが、儂にかかればこのように容易いのだ。


「一日休みをおいて総攻撃をしかけられますか?」


 江里口の顔は自信に満ちていた。早く沙汰を下してくれと犬のように儂を見ている。


「甘いのぉ、そんなものこれから攻撃するぞと敵に教えるようなものだ。明日仕掛けるぞ。今日は早めに撤収し、十分に食わせるのだ」


 明日もまずは城壁に攻撃をしかけ筑紫の兵を分散させる。その後に城門に兵を集中させ、門が破れたところを待機させておいた兵に突貫させるのだ。

 さすれば瞬く間に敵の傷を広げられるというものだ。


 また山に入っているため連絡は取れないが、西の背振山地を所領とする神代が山道を通って攻撃することを提案してきていた。

 そろそろ途中の支城あたりまで足が進んでいるはずだ。これも敵兵の分散に役立っているであろう。


「殿、一つご懸念が」


「なんじゃ、言うてみろ」


「筑紫は騎馬を使ったかく乱を用いまする。佐嘉城でもそうでありました。攻城の際に背後を襲われる恐れがありまする」


 なるほど、確かにそうであったな。

 現時点でも紹運の騎馬五百ほどが数里離れたところでこちらの様子を伺っていた。筑紫の騎馬も合わせればかなりの数になる。無視できる兵力ではない。


 総攻撃、という訳にはいかぬか。背後に備える兵が必要だ。


 城壁を攻撃する者、城門を攻撃する者、城門を破ったのちに中に突入する者、背後に備えるもの、そのように兵を分けるのが良いだろう。


 報告では当主の広門は博多に逃げずに勝尾城にいるらしい。これを捕えるか、首を得られれば、娘の於安おやすの身の交換することも能う。

 しかしもし広門に逃げられ、娘を取り戻せない事態になっても、逆に都合の良い一面もまたあるのだった。


 むしろ娘が敵方にいれば助けることを口実にして本家を動かすことも可能だ。今回の本家は実に儂の言う事を聞いてくれた。なんと便利な駒であるか。

 今後も筑前へ兵を進めるのであれば、本家は自由に動かせそうであった。


 娘が殺される心配は無かった。それはどちらかが亡びるまで戦うという意思表明だ。講和という選択肢を残しておきたい限り殺されることは無い。


 それに……助け出すことが出来れば本家の信認は得られるが面倒事もあった。


 後継者を欲しがっている本家はすぐにでも於安の次の嫁ぎ先を求めてくるであろう。これは上手く差配せねば揉める事は間違いない。

 まったく面倒であるものよ。


 ふふふ、一番儂に都合が良いのは不幸な事故で『筑紫に』殺されることだ。そうすれば本家を完全に己の手にできる。

 儂は明日の戦闘の準備を支持しながら細く微笑んだ。


 忍びからの報告で、いまだに於安が勝尾城にいることは分かっている。


 筑紫め、降伏勧告なぞせぬぞ。

 その結果不幸な事故が起きても筑紫のせいであるのだからな。

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