第96話 原田新五郎親種②
1571年3月 勝尾城 筑紫館 筑紫俊介広門
「皆も知っていると思うが新五郎殿は糸島を治めている原田氏の当主である。わざわざ出向いて此度の戦に助力してくれることになった」
俺は当主、という言葉を強調して皆に紹介した。家臣の中にはまだ嫡男だと勘違いしている者もいるかもしれない。
間違えて応対して恥をかかせてはならない。念のため言っておかねば。
本人はお飾りだと自虐していたが、これだけ積極的に動ける男がお飾りであるはずがない。あるいはこれから主導していくのかもしれない。
皆の反応を伺うと驚きつつも喜んでいるようだった。戦の前に戦力が増えることを歓迎してくれている様子だ。
今回の原田氏の助力は大友にとって判断に困るところだと思う。
攻めてきてた敵から守るため近隣の国衆と協力する。それは大友の助けと考える事ができる。
しかし主家である大友に黙って勝手に協力するのだから、独立を図る独断専行とも解釈できる。
ただ独断専行に関しては情状酌量の余地は大いにあった。
何しろ原田氏の兄弟である草野氏の城が落とされたのに、大友は何も助力をしなかったからだ。
また他国に攻め入るならともかく、守るための戦だ。
そういう背景があるので大友も原田氏を強く非難することはできないだろう。
おそらくだが、結果に追認するはずだ。
勝てば大友のためによく戦った。
負ければ自業自得だ、というわけだ。
それでも戦に参加するリスクはあるし、大友からの心象が悪くなる危険性もある。数週間前に新五郎が密かに訪れてこの話を持ち掛けに来たのだが、一見無償とも思える助けをなぜ行ってくれるのか尋ねた。
「俊介殿のおかげで糸島における臼杵の横暴を止めることが出来申した。そして此度は城を落ち延びた兄を受け入れていただき申した。まこと感謝の念に堪えませぬ。その恩人の危機を黙って見ているのは原田の名折れ。ぜひとも助太刀させていただく」
恩を返すという理由で手助けしてくれるとは、戦国時代には似つかわしくない男だ。
少し青い感じはするが印象が良い男だった。
臼杵の話は博多の隣領土が混乱していたら困るからという理由だし、草野氏については長年の友好があった事と、手元に置いておけば龍造寺を誘えるからで親切心からではない。
いずれも思惑があってのことだ。
新五郎があまりにも真っすぐに話すので、俺はそんな感じで考えを隠さずに教えた。
「俊介殿、某らも原田の益を無視した助力ではござらぬのです。遠慮なく手足のごとくお使いくだされ」
「原田の益とはなんだ?」
「恩人を相手に御不快にさせたくありませぬが……」
新五郎は困った顔をしたが知っておく必要がある。タダより高いものはない。
「言ってくれ。そうでなければ安心して使うことができぬ」
「おっしゃられる通りでございますな」
なれば、と言いながら新五郎は身を正した。
「筑前を代表して大友に意見を物申せる強者が必要なのです。某の父も、亡き立花殿も、そして恐らくは俊介殿の父君も、大友はあまりにも筑前の事情を考慮せずに搾取が過ぎました。それゆえに毛利に誼を通じた事情が御座いまする」
キリッとこちらを見て話す。嘘ではなさそうだ。
「なるほど、俺を担ぎ上げようというのか。筑後の蒲池殿のようにか」
蒲池氏は、大友本国から遠い筑後の戦国大名だ。筑後川を越えて現在の柳川市の土地を治めながらも、百年近く長い間、忠実に大友に仕えている。
蒲池の当主は大友当主から名を一字もらうのが代々の通例となっているほどだ。
そして大友の庇護下で家を大きくし、一族は筑後十五家とも呼ばれ、全ての所領を合わせると二十万石にもなるほどだった。
大友配下で最も力のある大名だろう。
現在の当主は鉄の義心を持つと言われるほどの仁徳者で、蒲池宗雪という。
龍造寺の九十歳を超えた爺さんが本国に舞い戻った時に、兵を貸りた相手がこの人物だ。
落ち延びて助けを求めてきた近場の城主を、切って首をその敵対勢力に渡し、争う気はないと示すのは戦国で良くある普通の話だ。
だが蒲池宗雪は助けを求めてきた人物を必ず助ける。
これがたとえ主家である大友の敵対者であろうが助ける。
だからこそ鉄の義心なんて少し恥ずかしい異名を付けられるのだが、つまるところ大友に物申せる程の実力者でもあるという事だった。
余談になってしまうが、1980年代のトップ オブ トップの、ある超有名アイドルのご先祖様でもある。
高良山で宗雪に会ったが目がキラキラしていた。まぁキラキラは俺の先入観かもしれない。
目が大きくてパチクリ二重まぶただったのは間違いない。
そして現龍造寺当主の龍造寺隆信も、お家争いに敗れた時にこの蒲池氏を頼って助けてもらっている。
大友方なのに二度も龍造寺の当主を保護して復活に手を貸したわけだ。
ほんと聖人みたいな大名だな。
これほどの人格者が二十万石もの所領を得たのは奇跡に近い。
「まさにその通りでござる。蒲池という強者がいてこそ筑後の国人衆は大友に物申すことができ、結果、筑後は戦が少ない土地になっておりまする。筑前もそのようになればと、拙者と父は俊介殿に期待しておるのです」
新五郎が話す期待は俺も高良山で様々な国衆と話していて感じていたことだ。
目の前の原田氏、草野氏、俺の家臣となった立花氏、姉の夫である宗像氏、そしてもしかしたら高橋紹運も、筑前の利害関係をまとめて調整して欲しいと、暗に俺に期待していると感じていた。
俺という人物の評価とは思ってはいけない。筑前の中心である博多を治めているから自然な流れなのだ。
大きくなるという事は頼られるという事なのだろう。




