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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第86話 穴を埋める

1570年9月 立花城  筑紫ちくし俊介広門


「で、俺らに相談しに来たってわけですか」


「茶化すな五郎太っ!」


 島に頭を叩かれた五郎太が、顔をしかめながら痛そうにふるまった。


「いってぇ、というか殿、その首巻はなんですか?」


 俺はマフラーみたいな、というよりマフラーだな。紫の布を首に巻いていた。


「これで傷を隠すように言われたのだ」


 琴音に首の傷で正体がバレたらしいという話をしたら随分と心配をさせてしまったようだ。

 しばらくしてこの首巻を貰った。


「良きかと思いまする。殿の首の傷は少々目立ちましたので」


 島がそう言ってくれた。他の周防組のメンバーもいいんじゃないか、みたいな反応だ。


 江戸時代を題材にしたドラマや時代劇だと手ぬぐいを首に巻いたり、おしゃれな感じに首巻を付けているのを良く見たことがあるが戦国時代だと見たことがない。


 周りからどう思われるのか心配であったが、これは好評なのかな。

 天女の羽衣みたいな女物のイメージ持たれたら嫌だと思っていたが、とりあえず好評のようで良かった。


 僧兵の頭巾が首元だけになった感じで、それで違和感がないのだろうか。

 俺が唯一知っている戦国時代の首巻や襟巻えりまきの話だと、一休さんの歌くらいか。


 襟巻えりまきの あたたかそうな 黒坊主 こやつが法は 天下一なり


 という歌が残っている。

 御木像に襟巻えりまきが巻かれており、一休さんらしくそれを『こやつ』と言いながらも、立派な故人を天下一と称えている歌だ。


 だから俺が知らないだけで首巻文化は珍しくないのかもしれない。首元が寒いから保護しようというのは自然な発想だ。


 これから琴音に言われたコーディネイトは全部従おう。昔って大きな鏡なんてないから自分でオシャレする難易度が高い。

 人に見てもらった方が安心感があるのだ。


 あれ、待てよ。鏡って作ればいいんじゃないか。

 火薬作りに使っている硝酸に銀を溶かして、アンモニアは尿を発酵すればいいし、還元剤は水飴で代用できそうだ。


 だけど大量のアンモニアが難しいから商売は難しいかな。だけど作ってみたい。こういうのは思いついたらやってみたくなる。

 あとで考えよう。


「殿?」


「すまん、話がずれたな。もうすぐ四十九日だ。死んだ仲間があの世に旅立つ前に何か言ってやりたい」


「残された家族の面倒はまかせろー、とか。仇は取るぞー、とか。筑紫の名を広めてやるぞー、とかですかね」


 五郎太は懲りずに茶化すように話した。


「言いたいことは分かるがしっくりこないな。そういうのは言わんでも互いに承知している事だろう」


「殿、改めて口にすることや、内外に示すことも大事かと思いまする」


 島らしく真面目な物言いだが、そういう事なんだろうな。だがそれだと俺が満足できないんだ。

 俺が少し不満そうな顔をしたせいか、ちょっと重苦しい雰囲気が流れた。


「あーっ!」


 突然、何か思いついたのか五郎太が叫び、してやったりという顔をして前へ飛び出して、皆の顔を覗き込むようにして話し出した。


「俺いいこと思い付きましたぜ。今山になんか立てましょうや。墓とか石碑とか、なんかここで戦があったって分かる様なやつを。どうですかね」


「馬鹿者っ! 今山は龍造寺の所領だ。そのような事が出来るはずなかろう」


 島がゲンコツをしようと近寄ったが五郎太はひるまなかった。


「チッチッチ、だからですよ。龍造寺をぶっ倒して、勝ったことを皆に教えてやる記念碑を建てるんです」


「なるほ……いやいや、それは龍造寺と再び戦をするということだ。和約を結んだばかりだぞ」


 島が納得しかけたが問題点を述べた。その通りだ、それは和約を破って龍造寺と戦い、勝つということだ、だが……。


 いいな、それはいい。

 俺は最後のパズルのピースが埋まる思いがした。


 頭で想定して考えていたものの、躊躇してなかなか踏み出せなかった一歩があった。

 人はたくさん死ぬし、上手くいってもいかなくてもリスクがある道だ。


 だが仲間のためなら踏み出してもいい。

 どうなっても後悔はしないだろう。


 やっと覚悟が決まった。

 死んだ後もこうやって後ろを押してくれるとはな。


 そう思えると、もはややらないという選択肢はなかった。


 自分の口元がニヤリとしたのが分かる。


「龍造寺は来るぞ。すでに肥前の城をいくつも落としているのだ。勝尾城に来ないとは思えん」


「殿?」


 俺の声が急にハツラツになったからか、島が心配そうに声をかける。


 いつもと逆だな。俺が戦いたがっている様に見えるのだろう。

 その通りだ。だが大人しくしておけば戦にならない、という状況ではない。


「あの龍造寺が大人しくしているものか。必ずこっちまでちょっかいを掛けてくる。俺たちはそれを追い返す。それで今山まで取ってしまう。問題あるまい」


 史実通りであれば来年にも攻めてくるはずだった。


 だが史実と違って俺は博多の所領も得ている。だから龍造寺は警戒して攻めて来ないかもしれない。


 誘い出す必要があるな。


 大友には救援を求めるつもりだが、これも史実だと助けは来ない。しかしこれも博多の所領があるので、もしかしたら助けてくれるかもしれない。


 もうこの辺りの史実は半分くらい役に立たないと思った。その方がいい。

 弔い戦は俺たちの力で勝ってこそだ。


 大友の救援にはもともと期待していない。独力でもやる。


 筑紫に博多の所領を加えても龍造寺の石高の方がずっと大きい。周りの国衆も従えて攻めてくるからな。

 苦戦するかもしれない。


 ただ、しっかり準備を整えれば戦えない戦力差ではないと思った。


 人数が劣勢でも、戦の前の備えが十分であれば勝機はある。それは今までの戦いで十分に経験したことだ。派閥や跡目争いを気にしながら戦うより、ずっと勝てる気がする。


 勝つつもりだった大事な今山の戦いで負けてしまった。俺の油断もあった。周りを気にしすぎてガムシャラに戦えていなかった。


 毛利を追い返し博多を手にして、余裕が出来た気になっていたな。

 実際には税収は大友に取られるし、普通の十万石の所領にすぎないのだ。


 まだまだ後先を考えずに全力で戦う時期だろうに。


 次の目標を定め、家臣らに方向性を示す時期だとも思っていた。

 打倒龍造寺が目標だ。


 これは筑紫の安定にも必要な事だ。

 決めたぞ、龍造寺をぶっ叩く。


 大友のためじゃない。俺と筑紫と仲間のためにだ。

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