第68話 織田の意向②
1570年2月 立花城 筑紫俊介広門
俺の表明に全員が僅かに頭を下げて同意した。そして最初に頭を上げたのは宅之丞だ。
「殿、では如何様にいたしましょうか」
俺はもう一度考え込むが、やはり今から言う提案以外に良い方法が思い浮かばない。ベストではないがベターな選択だと思う。
「仕方あるまい。弐の里にも銭作りをさせよう」
弾正、宅之丞、薦野が怪訝な顔を見せた。三人とも咲弾を知らんからな。それらを作っている二つ目の片隠れの里のことも教えていないのだ。
「その方らは知らぬが、密かに二つ目の片隠れの里を作った。何をさせておるのかは言えぬが、一の里と同じように銭作りをさせることができる。規模は同程度だ。これでおよそ二倍の銭が作れるな」
弾正、知らなかったことで結構ショック受けているな。最初から居た古参なのに除け者だものな。
ただ弾正が侍大将で、銃より馬を扱う武将だったから話す機会がなかっただけだよ。信用しているから心配しないでくれ。
って感じでニッコリ笑って合図を送ったけど上手く伝わらなかったようだ。しかたない後でフォローしよう。傷ついている時の弾正はだいたい馬房にいる。
「殿、それは……」
島が心配しているのは、弐の里が銭作りにかかりきりになる弊害。すなわち火打銃、咲弾、早号の製造ができなくなることだろう。
「弾は十分にため込んでおるな?」
「はい、殿のご命令通り最低一年、それ以上の量を持たせておりまする」
「ならば問題ない。火打銃は諦めろ。どのみち少量でしか作れておらぬのだ」
作った時は必要量を確保していたので誰にも言わなかったが、咲弾を使う火打銃には実は重大な欠点があった。
咲弾のスカートの広がり方が不均一だと、弾が真っすぐに飛ばないのだ。それこそ普通の種子島の方がマシなくらいで、どこに飛んでいくのか分かったものではなかった。
この問題を防ぐためには銃身の中を精密かつ均一に整えるか、ライフリングを付ける必要があった。現代の戦車は前者のつくり方をすることが多く、後者は近代の銃のつくり方となる。
ライフリングは銃身の中に溝を付ける製造方法だが、俺の技術では再現不可能だ。そのため火打銃ではもう一つの方法、とにかく銃身の中を精密かつ均一に作る方法を採用し、何とか性能を保っている。
そしてそれを実現するには精密な銃口仕上げが必要となる。リーマ加工とも呼ばれるこの仕上げは機械を使わない場合は手作業だ。ドリルのような工具や、槍の先端のような変わった工具を上手く使い分け、少しずつ本当に少しずつコンマ0ミリ以下の精度で銃口の中を削って整える。
この作業と必要な道具について、俺は知識でしか知らなかった。昔の技術の再現じゃないからな。管轄外だ。
お陰で歩留が悪すぎる。経験を積めば改善されると思っていたが、全く改善の気配がなかった。
銃は結局、大量に運用しないと効果が薄い。
咲弾を使った火打銃と鍛えられた兵が二千もいれば天下を狙える。そんな風に妄想していたが簡単にはいかないようだ。製造は凍結するしかない。
全てを捨てて腰を据えて作ろうとすれば出来るかもしれない。だが出来ないかもしれない。一番怖いのは概念だけ盗まれて、他国で先に量産されてしまうことだ。
ロマンを求めて取り掛かるにはリスクが大きく、目の前の現実もそれを許してはくれなかった。
「島、分かったな。製造は止める」
「……承知いたしました」
島がいかにも無念そうに言葉を絞り出した。水城で一緒に戦った島は咲弾の恐ろしさに気付いているな。
だからこそ戦のあとは非常に熱心に歩留改善の開発に取り組んでいてくれた。俺より熱心だったかもしれない。残念そうに目の前でうなだれている。
島との話が終わったのを見て、引き続き宅之丞が俺に確認をする。
「殿、堺からの要求は三倍となりますが、不足分はいかがなさいますか。先ほどの話だと生産量は二倍程度になるかと思われます」
そうだな、堺には諦めて二倍なら対応できる、という返事をしてもいい。そのくらいならば織田も許容してくれるかもしれない。
だが一つ考えがあった。
「孫大夫、俺の前に来い」




