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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第60話 竹筋コンクリート②

1570年1月 博多近郊  筑紫ちくし俊介広門


 早くドラム缶もどきを開けて中を確認したいが我慢だ。

 直ぐに開けると細かくなった粉が大量に舞ってしまって、いかにも健康に良くないのだ。すでにドラム缶の蓋の隙間から粉が煙のようにモクモクと出ていた。自然に落ちるまで少し待つ必要がある。


 マスクがあれば多少は安全なんだけどな。

 炭も綿もあるんだから作ればいいのか。あからさまに健康に悪そうなんだから付けろと強制しなくても付けてくれるだろう。


 俺がいい加減だから、劇薬や高温の炉といった直接命に係わる以外の安全に意識がいってなかったな。鉱石の粉砕は細かい金属粒子が肺に刺さるから、蓄積して年を取って肺が弱くなると大変辛い生活になることがある。

 子供の孫大夫は特に注意しないと。


 すぐ横にいる孫大夫は、装置が止まっても目をつぶって耳を塞いでいた。

 彼の手を掴み、耳から離してやる。

 終わったのか? といった感じで恐る恐る目を開けるので、終わったぞと声をかける。

 どうやら安心したようだ。


 こういう音は聞きなれないとやはり怖いものだろうか。

 薦野こものは目を白黒させているが怖がってはいない。


「どうだ薦野こもの?」


「聞いたこともない雷鳴のごとき音ですな。近くで取れた石を砕いているので?」


「そうだ。あとはけい石も少し入れているな。で、だ。水車がこの働きをしてくれているわけだが、その水車も普通であれば十年ほどで壊れてしまう」


「それは、木材が常に水に触れているから、という事ですな」


 ご明察。

 水車は結構壊れるし寿命が短い。大雨でも壊れたりするし、砂が貯まったり、木の枝が挟まる事もある。メンテナンスが必要な装置だ。

 だから水車がある村はそうした経験が蓄積されて結構優秀な職人がいる。この村もそうだった。


 水を高い所から小さな水道橋のようなものを作って水車まで導き、上掛うわがけ水車という、水車の上から水が流れて馬力が高くなる改造をした。この改造は反発されると思ってたのに説明すると村人らは理解を示してくれた。


 流れる川の流れを水車の下側で受けて回るより、上から小さな滝のように落ちてくる水を受けて回る水車の方が馬力が高い。人によっては感覚的に分からない事も、水車と一緒に生活していた村人たちは分かる様だった。


 あとは大雨で砂や木材が流れてきて壊れないように小さな貯め池も作る必要があったんだが、反発もほとんどなく村人は慣れた姿を見せてくれた。

 水利権の保証がやっぱり効いたのかな。


 この村、水車に関する理解力が半端ない。昔の日本の物作り現場を見た気がしてちょっと感動した。

 近くに博多という都会があって刺激や情報もあったのも良かったのかもしれない。

 大陸の最新の技術も入ってきやすそうだ。


 水車の改造を喜んで手伝ってくれたのは、水利権や賃金の支払いという飴もあったのだろうが、その根本には彼らに自力で直せる自信があったからだろう。領主が何かヘマをしても大丈夫という自信があるのだ。

 なにしろ村にたった一つしかない水車だったのだから。


 ちなみに彼らは既にもう一つの水車作りに取り掛かっている。今ある水車は俺が買い取ったから、作っているのは自分達で使う水車だ。しかも今回改造した水車そっくりだった。

 冷たい水の中で作業する彼らの姿には、たくましさや貪欲さを感じた。


薦野こものはよく分かっているな」


「外にあった水車が黒く塗られていれば気づきまする。タールなるものを付けているのですな。それで、このような轟音をとどろかせていったい何を作っておられるのでしょうか」


「孫大夫、大坊、例の道具と材料を持ってきてくれ」


 しばらく待つと、大坊が袋を担いで道具を持ってきた。

 隣にいる孫大夫は胸に木箱を抱えている。


「この木箱に砂と砂利と、先ほど砕いた鉱石の粉、それに水を加えて混ぜる」

 そう言いながら大坊に混ぜ混ぜさせる。


 コンクリートって重いし、機械ならば三分くらい混ぜてればいいのだが、人が混ぜるとそれなりに時間がかかる。今回だけでなく技術開発って単純に力が欲しいことが多く、大坊がいると助かる事が多い。


「先ほどから泥遊びをしているようにしか見えぬのですが……」


「まぁ、待て。よし、そろそろ良いだろう。これで完成だ」

 木箱を渡すと薦野こものは困った顔をした。


「そのまま数日置いておけ、木箱の中身が固まって石になる」


 駄目だ。薦野こものの垂れ眉に拍車がかかっている。疑っている顔だ。

 そう思っていると孫大夫が助けを出してくれた。


「本当に、この泥の様なものが石になるんですよ。俊介様はこの泥を使って立花城のへいを建てるおつもりです。一刻もすれば変化が起こるので分かりますよ」


 孫大夫が言うと薦野こものは多少信用したようだ。俺が言うより純真そうな孫大夫が言った方が説得力があるのか……。ショックは受けないぞ。妥当な見方だ。


「あとは昨日見せてたかまを作るのにも必要になる。乾いて石になる土壁の様な物だと思ってくれ。形を自由に定めることができるから窯作りにも、様々な接着にも非常に重用する」


「なるほど、少しばかり分かってまいりました」


「うむ、立花城は最低限のものは揃って来たから、薦野こものにはここで鉱石の粉砕を進めて欲しい。それで出来た分から川を下って立花城まで持って来てくるように。それが終わっても窯用に欲しいからずっと作り続けねばならん。誰かに任せられるようにしておけ」


「はっ、お任せを」


 これでへいができれば、住居も立花城に移すことができるな。

 筑紫館で待っている琴音も呼び寄せないと。

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