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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第58話 チートのために煙を集めんとす

1570年1月 筑紫館  筑紫ちくし俊介広門


 木炭、とても便利なものだ。

 その便利さで江戸時代の頃から徐々に消費量が高まり、なんと昭和に入っても日本の家庭の主なエネルギー源だった。


 筑紫では断熱に優れたかまの見本を作って、それを元に所領のあちこちに小さな窯を大量に作っていた。

 エネルギー効率は大きな窯の方がもちろん良いのだが、それだと人と物を集約する必要がある。それより村々に置いて地産地消できた方がメリットが大きいと判断した。


 エネルギー効率の問題は、筑紫から西へ70kmほど行ったところにある腰岳こしだけからたくさん黒曜石が手に入ったから、だいぶ緩和されているはずだ。

 黒曜石は1000度ほどまで加熱するとパーライトという、見た目は発泡スチロールに似た物質になり、これが断熱材として非常に優秀なのだ。

 多孔質体であり、中の空気の層が優れた断熱効果を持つ。


 これを砕いてモルタルに混ぜると窯の熱を閉じ込めてくれる。


 そうやって出来た窯を使って作られた木炭は売ってもいいし、自分たちで使ってもいい、そのように領民たちの自由にさせていたら囲炉裏いろりが農村で急速に発展した。


 木炭は煙と臭いが少ないにも関わらず長い時間安定して熱を発する良質な熱源だ。どうせ使うなら効率よく使いたい。そう考えた領民が工夫を重ねたのだろう。


 土床に石を囲って置いただけの簡素な囲炉裏が、現代の古民家であるような板で仕切って灰で整えられた囲炉裏に変わるのに時間はかからなかった。


 いつの間にか筑紫館にあった囲炉裏がそんな風に変わったからビックリしたよ。思いつかなかった俺もだいぶバカだと思ったものだ。


 悔しいから七輪とか火鉢も作るか。

 コタツもいいな。炭を使ったコタツは江戸時代からある。

 安定した熱源は庶民を健康にし、生活を豊かにするのだ。


 そんなこんなをしていたから、領民の冬の暮らしは随分と楽になったらしい。余裕のある村はたくさん木炭を作って売るそうだ。主な売り先は銭作りで大量の燃料を必要としている俺たち筑紫家になる。


 銭の回り方をコントロールして一つに留まらない様にしたんだがマッチポンプみたいだな。


 割れ銭を集めて商人達から儲ける。儲けた銭で木炭を買う。銭が手に入った領民たちは商人から何か買う。

 俺と商人だけでお金が行き来するよりずっと経済効果が大きい。


 それで実のところだが、木炭で領民が豊かになったり、冬の死者が減るのは狙いの一つにしかすぎなかった。

 こうやって特に管理せずとも農村が自発的に炭を作り、そこから筑紫家が燃料を得られる様にする、それも狙いだったのだ。全部自分たちでやってたら大変だからな。


 そして更にもう一つの狙いがある。だから一石四鳥かな、

 一番の狙い、それは炭作りで発生する煙だ。


 木を無酸素状態で燃やすと発生する煙、この煙を集めて冷やすとタールと様々な溶媒になる。領内の窯は煙を集めてもらう条件で作って回ったおかげで、十分な量のタールや溶媒が手に入った。


「煙を集めるとは……正直言って良く分からぬ部分が多いですな」


 俺は以上の事を一通り説明していたのだが、薦野こものは最後の煙集めが分からない様だ。

 商人の宅之丞たくのじょうもそれに同意するように肩をすくめる。


 宅之丞と新たに家臣となった薦野こものに博多周辺の使えそうな職人を集めてくれと命じたら、どういった事をさせたいのか知りたいと言うので片隠れの里へ連れて来たのだ。

 今はそこで実際やっているところを見せていた。


「参考になったか?」

「はい、たいへん参考になり申した。これは単に腕の良い職人では駄目ですな。いっそのこと熟練の職人よりは、何も染まっていない若手を連れて来た方が良いかと思いまする」


「このかまを筑紫だけでなく博多周辺にも作りたいのだ。で、それにはモルタルというものが大量にあると便利なんだが、それも明日見せる」


 商人らしく好奇心旺盛な宅之丞は、聞きながらその辺を物色していた。


「煙を集めるとは確かにけったいですな。それで作られたタールと溶媒というものは何に使われるので?」


 宅之丞は質問しながら真っ黒なタールが入った容器を見つけ蓋を開けた。中の匂いを嗅ぎ、見たこともない嫌そうな顔をして、咳き込みながら容器を片付ける。


「そのタールは水からの腐食を防ぐ効能がある。船に塗れば何十年、大事にすれば百年でも腐食を防いでくれる。以前に船乗りと話したが、普通の船は十年程度で腐ってしまうそうだな」


 ペリーが黒船来航で日本に来た時、黒船に塗られていたのがタールだ。黒船の黒はタールの色。船を長く使い、長期航海するには重宝する物質だ。

 煙を集めるとかいう変な発想さえ出来れば簡単に作れる。


「軍用の質のいい船を大事に使って二十年程度なので、漁村の小舟はその程度かもしれませぬな。しかし百年も使えるようになるとは……」


「なんだ、薦野こものは分かるのか?」


「生まれも育ちも博多に御座いますので、軍船については多少は知っておりまする。これは船に必要な銭が大きく減りますな」


 よく分かってそうだ。やっぱ港町の人間は筑紫とはちょっと違う人材がいるな。

 宅之丞みたいな商人も大きな町じゃないといない。


薦野こものは明日これを使っている所を見せるから付いてこい。博多の近くだ。良いな」


「ははぁ」


 明日は孫大夫も大坊も連れてお出かけだ。しばらく筑紫には戻れん。琴音に挨拶しておかねば。


 これで工業化の影くらい踏めればいいんだがな……。



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― 新着の感想 ―
ここまでの技術だとミニエーもそうだけど完全に日本史は書き換わるな。 どんな未来にたどり着くのだろうか?
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