第57話 立花家の家臣たち②
1570年1月 立花山城 筑紫俊介広門
垂れ目の薦野はやはり大友陣営に加わることは、手放しで喜んでいないようだった。
「確かに大友家に仕えることに拒否感を示す者は多くおりまする。しかしながら陪臣であれば、とみな自分を納得させておりまする」
「それにしては道雪殿の元に仕えた陪臣は多くないようだが?」
道雪からの紹介文には目の前の薦野以外の名も何人か書かれていたが、城に集まった人数は百人近い。
「道雪殿はまさに大友そのものでござる。陪臣であっても心持は直臣と変わりありませぬ。対して筑紫は大友の中では新しき血であられる。そして何より立花と同じ筑前にある家でござる。お仕えするのに何も含むところはございませぬ」
なるほど、嘘はなさそうだ。
「そうした中で薦野殿が道雪殿の元へ下っていたのは、いかなる理由なのかな?」
なんだか学生に面接している気分になってきたぞ。
「誰か上の者が行き、道雪殿に下った兵たちをまとめねばなりませぬ」
うん、いいな。責任感もある。
「なるほど、よく分かった。だが生きるだけなら筑前から出て行っても良かったのではないか? 龍造寺や毛利、反大友を掲げている家の方が都合が良かろう。これは別に責め立てようと言っているのではないぞ。何か他に当家でありたい理由があるのではないかと思っただけだ」
そう聞くと、まさにこれを話したかったのだろう、声のトーンが一つ上がってまくし立てられた。
「俊介様、我ら大友憎しよりも重んずべきものがござる。それは立花の名を残すことでありまする。立花の姓は大友の庶子から始まり、古き伝統ある姓ではござらぬ。されど! 立花の名を世に鳴らしめることこそ、亡き殿の今際に託されし願いにござる。それこそが我らの望み。そのためにはたとえ大友の臣下に下ろうとも、この地を離れては叶いませぬ。何卒、我らを召し抱えてくだされ!」
凄い勢いで平伏された。熱い、こういう熱い男は嫌いじゃない。
うちの親父と周防組もだが二度も裏切るというのは相当に覚悟がいる。それは当主だけでなく付き従う家臣らもそうなのだろう。
亡くなった立花氏と遺臣らの間にはまだ強い繋がりが残っているのだ。
史実で戸次道雪が立花姓にこだわり、晩年に姓を改めたのも、こういう所から始まったのかもしれないと思った。
なにせ立花は明治維新、第二次世界大戦を生き延び現代でも続く家系だ。
名を残そうとする根源となるものがあったのならば、もしかするとこういう想いが始まりなのかもしれない。
俺はこいつらの主人であった立花氏のことは詳しく知らない。だが今までの話を聞いてシンパシーを感じる部分はある。こいつらも俺に対してそうなのかもしれない。
立花という姓でしか繋がりが残っておらず、それでも必死に名を残そうと踠く様子は哀れにも思えた。
「わかった。誰かに立花姓を襲名させたいのだな。何も約束はできぬが、それでも良いか」
「構いませぬ。元より無理は承知でございます」
「よし、お主たちを召し抱えよう」
「ありがたき幸せ!」
後で弾正に聞いたら、うちの組頭と騎馬隊の半分以上が元立花の兵だったらしい。
「殿が周防組を離しませんので」と嫌味ったらしく言われてしまった。
つまり弾正は他家の者が兵の中心になりつつあることを憂慮していたが、その原因は俺の我がままだった、という訳だ。
本来であれば周防組の一人一人を組頭にして編成する予定だったそうだ。仕方がないだろう、咲弾は半端な者には持たせられない。
まぁ言い訳だな。俺はその状況を知らなかったんだから。
「さて、さっそくだがお主たちには良い知らせと、悪い知らせ、そして更に、恐らく悪い知らせがある」
仕えたばかりなのにいきなりの宣言で目の前にいるが薦野身構えた。悪い知らせとか言われたら身構えるよな。だが隠すわけにはいかない。
「悪い知らせから伝える。……残念ながら立花山城の廃城が決まった。立て続けに戦で落とされ守りが不安視されたためだ」
薦野はあからさまに残念がった。だが守りに不安があると言われては反論できない。それは城の守備に就いていた彼らが身に染みているのだろう。
「よ、よき知らせの方をお聞かせくだされ」
「うむ、博多から一里ほど西に行った場所に丘がある。ここに城を建てる。俺だけでなくお主たちもここに務めることになる。守りの城ではないぞ。博多をよく治めるための城だ」
俺は分かってるのか、とでも言うように扇子を薦野に向けた。
「それで、だ。この城を立花城と名付けたいと思う。どうだ」
本当は馴染みがある福岡城と名付けようと思っていたんだけどな。話を聞いて立花姓が残せるかどうか分からない今、俺に出来るのはこれくらいだ。
「ご配慮のほど、かたじけなく存じまする。安心いたしました。それでは最後の恐らく悪い知らせとは?」
「その立花城だが、すでに縄張りに入ろうとしている。だが人手がおらぬので縄張りが適当でな。素人が口を挟むよりは良いだろうと大工に任せている様な状況だ」
不安そうな顔をしないでくれ、筑紫関係者には城どころか館を建てた人でさえ一人もいないんだ。城造りをしたことがある大工がいただけ御の字だ。
「で、だ。縄張り前だから今から行けば色々と間に合うんじゃないかな。つまりお主たちの最初の仕事は立花城を作ることだ。急ぐべきは町民からの訴えに対応できるようにすること。寝食の場所も、矢倉や堀も壁も後だ。立花山城も直ぐに廃城にはせぬから、しばらくはここから通えばよい」
「わ、我らにお任せくださると」
「当たり前だ。このあたりの土地を知っているお主ら以外に適任はおらぬ。最初は城というには寂しい物になろうが徐々に大きくするつもりだ。仕えたその日にこのような重い仕事を頼んで悪いが、人がおらぬのだ。すまないが頼んだぞ」
その様に俺が頼むと、薦野は深く頭を垂れてから答えた。
「ははっ。しかし恐れながら殿、立花の名を冠する城を建てるに悪い知らせであるはずが御座りませぬ。これは良き知らせぬござる」
「そうか、そう言ってくれるか。禄はお主たちの仕事ぶりを見てからとする。楽しみにしておるぞ」
話した感じだと薦野は島と爺を足して割って若くした感じかな。
仕事ぶりは分からないから見てのお楽しみだ。道雪の紹介状があるし悪くはならないだろう。
嬉しそうにやる気に満ちた薦野を見て、俺も嬉しい気持ちになった。




