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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第48話 筑紫孫大夫は反抗期

1569年某月 勝尾かつのお城筑紫館 筑紫孫大夫(まごだゆう)


 先端が洗濯ばさみで手元がペンチのような鋳型いがたを手にして咲弾を作る作業に入る。洗濯ばさみやらペンチが何かよく分からない、と言ったら、造ってみるかと殿が仰ってくれた。

 ペンチは昔からあるバテレンの鍛冶道具で、洗濯バサミは簡易的な物なら木だけで作れて見せてくれた。


 その洗濯バサミは勢福のおばちゃんが喜んでいた気がする。もしかするとまた沢山作られるのかもしれない。



 咲弾の鋳型いがたはペンチの手元を離すと先端の洗濯ばさみがパカッと開く作りになっている。

 鉛を流し込んで冷えて固まったら、パカッと開いて固まった弾が外せる仕組みだった。

 弾の形状が単純な丸でないため工夫された鋳型だ。


 この時に出来た咲弾の底には窪みがあって、この窪みにちっちゃな鉄の塊を入れるとひとまず完成だ。


 そして出来た咲弾を使って次は早合を作る。

 まずは油を浸した紙を丸めて筒を作る。その筒に咲弾、火薬の順で詰める。

 これで完成だ。


 一個作るだけならそんな大変じゃない。だけど何千発も作るとなると……。気が遠くなる作業だ。だからみんなで作る。


 だけど人によって作りに癖が出る。しかも弾の形が少し変わるだけで真っすぐ飛ばなくなるらしい。

 そこで殿は同じ人がひたすら作るように御命令なされた。

 つまり鉛の部分だけ作る人、鉄の部分だけを作る人、筒だけを作る人、そして最後にそれらを組み立てるだけの人。四人で一組となる。

 これは作り方の秘密を守る意味でも重要らしい。


 だけどこの作り方は正直言って凄くつまらなかった。

 唯一楽しめるのは十に一つの出来の良い物が作れたら、それだけ別に分けておくよう言われている事だ。上手く出来がいいものが作れると少し嬉しいし、認められた気になる。

 そうした一級品は一番銃の扱いが上手い人だけが使う特別な弾になるらしい。きっと厳しい訓練を課した立派な人なんだと思う。


 僕が上手く物を作ると殿はとても喜んでくれる。咲弾だけじゃない。鍋底の余った材料からシャボンを作って送った時はとても喜んでくれた。それで色々試したんだけど殿の好きな香りはツバキなんだ。これは僕だけが知っている。



 殿の小姓こしょうになってからは楽しい事ばかりだ。知らない事を知る事は楽しい。殿は内緒だと言って特別な計算方法をいくつも教えてくれた。

 それにちょっと言えないけど殿に仕えてからお爺様が五月蠅いことを言わなくなった。


 僕がお爺様に期待されている事は幼いころから分かっていた。父母が亡くなった後は特にそうだった。厳しくも大事に育ててくれたお爺様は嫌いではない。だけど期待されるのは少し、いやかなり嫌だった。


 殿は凄い人だ。何倍もの大友軍を破って気難しいお爺様を振り回している。お爺様が僕に何も言わなくなったのも殿に振り回されて余裕が無くなったからだと思う。

 


 仕事の後、鍜治場で汚れた体を井戸で清めスッキリ良い気分でいると、背後から、ひょいっと顔を覗き込んできた人がいた。


「ねぇ孫大夫さん、ちょっといいでしょうか?」


 琴音様だ。殿の奥方様。

 近い。近すぎる。甘い匂いがして、思わず一歩引く。……ツバキの匂いだ。


「な、なんでしょうか……用があるなら、離れてください」


 そう言うと琴音様は不思議そうに首を傾げて笑って言った。


「実はちょっとお願いがあるのですが」


 お願い、という言葉に嫌な予感がする。


「たかが小姓の僕に、頼むではなくて命令すればいいんです」

「だけど孫大夫さんは未来の名将だって聞いたから敬意を持たないと、ね」


 そういう適当なおべっかは大嫌いだ。


「誰がそんな事を言ったんですか」

「俊介様がそう仰っていましたよ。孫大夫は立派だ。きっとそうなるって」


 うぅ、そんな言葉で喜んでいる自分が憎い。


「……それで、お願いって何でしょうか。話だけなら、お聞きします」

「ほんと? ありがとう!」


 ぱっと明るくなった表情をされて、なんだか自分の顔が熱くなった。


「実はね俊介様に贈り物を差し上げたいのだけれど、何がいいかわからなくて。やっぱり俊介様のことなら孫大夫さんが一番詳しいと思うし」


 そうだ。殿の事なら僕が一番良く知っている。だけど少し胸がちくっとした。


「殿はお茶がお好きです。しかしずっと素焼きの茶碗をお使いになられています。博多に何度か同行しました時に茶器を眺めておりましたので、釉薬ゆうやくがかかった実用性に優れた茶碗など如何でしょうか」


 そう答えると、琴音様は嬉しそうに手を叩いた。

 笑顔が眩しいなんて殿から教えてもらった初めて聞いた表現だったけど、なるほどこう言う事かと思った。眩しくて顔を直視できない。

 やっぱり琴音様は苦手だ。でも――頼られるのは、悪い気がしなかった。



――― ◇ ――― ――― ◇ ―――



 今回はおまけ話です。


 皆さまたくさんのポイントとコメントありがとうございました。

 これほど多くの応援を頂けるとは思っておらず、大変うれしく、胸がいっぱいになる思いです。

 重ねて御礼申し上げます。 


 次回から第二章が始まります。


 厚かましくもしばらくの間、宣伝させてください。

 引き続きお楽しみいただけましたら幸いです。

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