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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第45話 反撃の時がきた!

1569年10月 博多  吉弘よしひろ紹運じょううん


 風が冷たくなり始めたこの時期、大友の主だった将が博多に集まり軍議となった。

 相変わらず毛利との戦はにらみ合いだ。だが入道公の右腕たる斎藤殿が来られたことで、此度の軍議がいつもの退屈なものではない事を予感させていた。


 最後に軍議の場に来た臼杵うすき殿が席に着いた時には、皆せかす様に強い目線で斎藤殿を見つめていた。


 からになっている総大将の席近くに立つ斎藤殿も、いつもより落ち着いておられない様だった。左右に並ぶ我々の様子を何度も何度も確認しておられた。


 御義父上おちちうえにしては珍しいことだ。


 そしてようやく全員が揃ったところで斎藤殿は口を開かれた。


「吉岡越前(えちぜん)入道様のお言葉を伝える。撤退する毛利を徹底的に叩くべし。軍における全権を道雪に与える」


 おぉ、と歓声が上がる。仔細は聞き及んでいた。毛利本国で謀反の動きがあり、それで毛利は九州から撤退せざる得なくなったのだ。


 限界まで引き寄せ十分な矢玉が揃った頃合いで敵の背後を襲うとは、流石の入道公のはかりごとよ。

 毛利であれば私の腕を試すに十分な相手だった。仕事がしやすいのも結構なことだ。


 入道公が決戦の場面で、経験豊富な雷道公へ全権をゆだねた事も潔いと思った。盤面は整えた、後は汝らの活躍次第である、とでも言うような御采配だ。

 両軍合わせて十万ほど、決戦の時が迫り味方の士気は充分であった。


「それで、なぜ大事な軍議に外様の若輩者が紛れ込んでいるのだ」


臼杵うすき殿、口が過ぎるぞ。筑紫殿は斎藤殿の婿だ」


 家老の一人である臼杵殿の水を差すような言葉に、軍議に参加している外様の若輩者……と呼ばれた俊介殿の顔が険しくなっていた。


 その若輩者に臼杵殿が入道公に次ぐ家老である事を気にする様子はなかった。

 不敵にたたずんでいる。噂通りの狂犬やもしらぬ。上手く扱ってやらねばな。


「呼ばれて参じたのですが……水城みずき、宝満城を落としただけでは不足でしょうか」


 無論そんな事はない。筑紫は妻の妹の夫、私の義弟ぎていでもある。仕方あるまい。擁護せねばなるまい。


「臼杵殿、此度の戦では兵糧の重要性は言うまでもありませぬ。それを差配されているのが筑紫殿であります。なおざりにして再び矢玉に困る事になれば臼杵殿も迷惑されるのでは」


 そう話をしても臼杵殿の不満気な顔は消えない。

 やれやれ、相変わらず戦しか頭にない御仁だ。


 すると様子を見ていたに雷道公がガタッと席を立ち、ゆっくりと空いてた総大将の席にお座りになられた。宗麟そうりん様も入道公もおられない中、誰も異議を挟まない。

 座るべき人が座るべき場所に座ったのだ。


「わしが呼んだ。異論あるか」


「むぅ」

 雷道公の言葉に臼杵殿が黙る。場が締まったように感じた。発言するだけで威容を感じさせる雷道公ならではであるな。


「さて、ぼちぼち軍議と参ろうかの。毛利には二度と九州の土を踏ませまいぞ」


 雷道公の決意に皆が頷く。戦を終わらせる時が来たのだ。


「まずは正面、中央は――紹運殿。敵の腹を真っ直ぐ裂いてもらうじゃが、やれるな?」


 光栄にも私にお声がかかる。

 問題ない、こなして見せる。返事は一つしかった。


「喜んで」


「左翼は臼杵殿」

「はっ」


「右翼はわしが務める。毛利が退くとの報が入り次第、戦端を開くけえ。各々(おのおの)方、準備を怠ってはならぬぞ」



――― ◇ ――― ――― ◇ ――― 



 軍議の後、気になることがあり雷道公と二人になる機会を待った。

 天幕を離れた雷道公を探していると先約がいた。先に雷道公と話しをしている人間が二人いる。

 御義父上(ちちうえ)とあれは義弟殿か(斎藤と俊介)。


「誰ぞ近づいて来ると思いきや紹運殿であったか、ならば問題あるまい」


 私が近づくと雷道公がこちらを見つけて口を開いた。


「御三方そろって何か秘め事でしょうか」


 どうやら内々の話らしいが私が聞いても良い話のようだ。


「先ほどの軍議では兵部少輔ひょうぶのしょうゆうは口にせなんだがな。実のところ――すでに毛利の後方では尼子も大内も蜂起しとる。本来であれば毛利はとっくに退いておってよい頃合いじゃ。だが未だ退く気配もなく、浮き足立っておる様子すら見えん。妙じゃろう。如何にすべきか思案していた所だ」


「なるほど?」


 それでなぜ筑紫の義弟殿が一緒に居るのだろうか。疑問に思っていると、その義弟殿が切れ長の目をこちらに向けてきた。


「実は宗像むなかたに嫁いでいる姉からの文で、毛利が船を集め兵がせわしなく動いていると連絡があったのです」


 宗像氏か、宗像氏は宗像大社の祭祀を司る国衆だ。博多と北九州の間にある玄界灘の海路を押さえている。大友の威光にひれ伏した国衆の一つであったが、此度の戦では圧倒的な毛利の軍勢に対して戦わずに降伏していた。


「昨今の状況をかんがみると撤退の動きやもしれませんな?」


 私が言うと雷道公は


「じゃがな毛利の前線にゃ退く気配が見えん。吉川元春も小早川隆景(たかかげ)も前に居座ったままじゃ。あの二人が腰を据えたまま撤退の支度などあり得ると思うか? 誰が差配しておるのだ」


「罠だと疑っておられるのですね? 宗像を通じて撤退と思わせ、我らが前に出たところを毛利の両川(吉川と小早川のこと)が準備万端に待っているのでないかと」


「そのとおりじゃて。あの毛利だ。考慮せねばならん」


 安全を見るなら様子見だな。いずれ毛利が撤退することは確実なのだ。だが淡々と撤退準備をされてしまっては、簡単に逃げられる可能性がある。

 入道公の命令は『撤退する毛利を徹底的に叩くべし』だ。

 逃げるところを叩き成果を挙げねばならない。


「ですから私が宗像まで直接出向き確認して参ります。密かに撤退しているとしても後方まで行けば動きが分かるはずです」


「どうやって宗像まで出向くのだ」


 義弟殿が姿に似合わない積極性を見せるので指摘した。海岸沿いの道は完全に毛利の支配下だ。


「宝満城を落としましたから尾根沿いに宗像まで密かに向かう事ができまする。宗像からは案内人を寄こすと返事があります。まさか筑紫ごときを罠に嵌めることはありますまい。少数で向かいますので兵糧の警備はこれまでどおり行いまする」


 なるほど、危険だが良い案だ。確かに一万石以下の筑紫をはめるのに、わざわざ大きな罠を用意するとは思えない。


 当たり前だが宗像も完全に毛利に従っているわけではないのだ。毛利と大友、どちらにも良い顔をしておきたい。

 そこで筑紫を頼ったか。


 それでも危険なことには変わりはあるまい。


 ふふふ、若輩者ではないな。子供の面影がある細身の体つきからは信じられぬ程の自信を有しているようだった。戦を考える程度の頭はあるらしい。入道公が目にかけるわけだ。


「よかろう。筑紫は宗像へ行き毛利の後方を探れ、そしてわしらが打って出るべきであれば狼煙で伝えよ。それを合図に総攻撃をかけちゃる」


 ほう、雷道公は五万近い大友の軍の突撃を筑紫に委ねるのか……。

 実力はあるようだが父親が二度も裏切った家だぞ。外様のまだ十代前半の小僧に、危険ではないかな?


 尊敬する雷道公の言葉でなければ意見を挟んでいたに違いない。


「それで、紹運殿はわしに用向きがあってのことと見たが?」


 義弟殿との話が終わった雷道公は今度は私に向き合った。そうであった。確認せねばならない事があったのだ。


「はっ、右翼を務める雷道公と相対するはあの吉川であります。敵の最も分厚い陣です。失礼でありますが果たして突破できますでしょうか?」


 左翼は海岸沿いで突破しても危険が多く、得るものが小さい。中央か右翼に本陣を置くべきだが雷道公は右翼を選んだ。

 中央で私が敵を引き付け、その間に右翼を突破する策だと見た。


 だが敵もそれは警戒している。だからこそ雷道公が相対するは無敗の将、吉川元春が待ち構えているのであった。

 軍議の場では雷道公の面子を潰す恐れがあるので意見できなかったが確認する必要はある。


「入道様が儂らに物申せる若者はお主ら二人くらいだと仰っていたのが良くわかるわ。心配無用よ。仔細は申せぬが策を用意してある。それよりぬしの中央の相手は小早川じゃ。遅れるでないぞ」


「ははっ、流石は雷道公です。私の杞憂なぞお見通しでありましたか」


 二人? あと一人は誰だ。まさか隣にいる義弟殿か。


 まぁ良い。準備は整ったと思った。何の憂いなくひたすら自分の武勇を振るう時が来たのだ。

 私の前は小早川か、噂の父親譲りの軍略、見せてもらうか。

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