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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第40話 水城攻略作戦

1569年9月 水城みずき  筑紫(ちくし)俊介広門(ひろかど)


 正午になった。時間だ。

 雨が突然降った時には中止の狼煙を上げる予定だったが、幸いその必要はなさそうだ。本日晴天なり、と。


 空がきれいだ。この時期なら黄砂もない。

 朝の太陽に照らされて黄金に輝く稲穂がここから良く見える。無理やり招集された敵の百姓達は刈り入れしたいだろうな。


 土塁の上からでも稲穂が目に付くから、これなら少しでも不利になれば逃げだすんじゃないかな。

 そうなってくれると楽に戦えるが……。


 彼らの故郷では女子供と老人だけで稲刈りをしているはずだ。どさくさに紛れて帰れるなら帰りたいのが百姓の本音だろう。こっちは半分以上が常備兵だからそういった心配はない。


 稲穂から水城に視線を移す。


 俺たちが今いる場所から百数十メートル先に水城の端があって、その上に敵兵が十人ほどたむろっていた。


 以前に水城みずきを万里の長城に例えたが、こうした長大な壁、もしくは土塁の弱点は端にある。

 万里の長城の端は海と崖になっていて上手く弱点を隠す構造になっていた。かの始皇帝が作った建築物だ。この辺は抜かりがない。


 だが水城の端はなだらかな山裾やますそがあるだけだ。崖じゃないぞ、ただの裾だ。そして俺たちはその山裾にいる。ここから下るだけで水城の土塁上に簡単に着地することが可能だ。弱点を上手く突くわけだな。


 この弱点が古代の建設者に無視された理由は、異国の敵を想定していたからだと思う。日本の国土を知らない異国人が山に入って、そこから水城攻略の足掛かりを得ようとする可能性は低いと見たんだろう。異国の山林なんて国力差があっても普通は入り込まないものだ。入ればジャングルでベトナムにやられた米国のようになる。


 そんなわけで異国人でもない地元の俺たちが山裾を歩いて土塁の上に降りるのはとても簡単だった。


 敵さえいなければね。


 作戦の時間になり少し待っていると、水城の南北に兵を置いていた、義父殿と弾正の軍が動き出し始めた。

 敵兵が落ち着かなくなりそちらに注視している様子も分かる。油断しているな。こちらも動くか。


 手を挙げて周防組に目線を合わせる。当たり前のように全員こちらを見ている。訓練の成果だな。百姓の兵だと大きな声を出さないと敵ばっか見てこっちを見てくれないんだ。


「構え! 放て!」


 俺が手を振り下げると、いくつもの銃声と共に土塁上の敵兵が倒れる。


「島! ほら貝だ」

 ほら貝の音と共に兵らが水城へ駆け下りた。


 打ち合わせ通りまずは島が数十人引き連れ、最初に降り立つ。するとゾロゾロと追加の敵兵が十人ほどやってきた。


「構え、放て」

 山裾で待ち構えていた俺は再び撃つように命令した。近づいてくる敵は上から狙える良い的だ。敵はあっけなく全員倒れる。


 山の中にはまだ味方が数百人隠れている。一気に大人数が行ったら渋滞するから慎重に、少しずつ山から降りる。


 島たちが倒れた敵にトドメを差し、死体を下へ落としている間、土塁の先で敵兵が集まり始めている。


 そして先ほどより多くの敵がこの場所を取り戻そうと近付いて来た。全員槍を構えた弓も銃もない雑兵にすぎない。

 だが今度は五十人ほどだ。降りた島達よりは多い。このまま島達に近寄らせるわけにはいかない。


 島まで百五十メートルくらいまで接近したところで同じように命令した。


「一番、二番、放て」

 七、八人が倒れた。銃から白煙が出ているのに山裾にいるこちらに気付いていない。混乱しているな。


「三番、四番、放て」

 また倒れたと思ったら残った兵たちが恐怖にかられ前へ走り出す。


「五番、六番、放て」

 走っている敵兵が何人か倒れる。続いてまた一番、二番隊に撃たせようとしたら下から別の銃声が鳴り響いた。島だな。島の方は通常の種子島と早号を持っているから、射程に入ったところを撃ったのだろう。数だけなら俺よりずっと多い。


 完全に敵兵の足が止まった。もう遅い。可哀想だがこちらの方が兵数が少ないんだ。慈悲をかける余裕はない。

 再び一番と二番隊に撃つように命じる。


 部隊を分けて順番に撃たせる動きが訓練通りにできている。準備してきたことに対して手ごたえを感じた。


 五十人もいた敵のうち、運良く当たらなかった一人だけが土塁から飛び降りて逃げ始めた。

 土塁は三階くらいの高さがあるものの斜面がある。大丈夫かな。大丈夫みたいだな。元気で逃げて行く敵を見て何故だかホッとする。

 なんか俺サイコパスみたいだな。


 近くに敵が居なくなったことを確認して俺は周防すおう組と共に山裾からくだった。島たちに死体を片付けさせて、今度は俺たちが一番先頭に立つ。


 撃つときは一番隊が膝をつき、二番隊は立って構える。この密集隊形が基本隊形になる。

 そして撃てば入れ変わる形で三~六番隊が順次前に出る。合計三十人、このたった三十人で主導権を取らなくてはならない。


「前進」


 列の間隔を維持しながら横幅五メートルの狭い道をひたすら一定の速度で進むと、途中で見かけた敵は逃げて行く。


 さらに数百メートル進むと西門と、門の両脇にいる数百人の敵兵が姿が見えた。土塁の上にも百人くらい敵がいる。


「止まれ」


 さて、どう仕掛けてくるかな。銃声を聞いて北と南からは弾正だんじょうと義父殿の兵らが距離を詰めて圧力を加えてくれている。


 土塁に陣取っている俺たちは鉄砲が主力だから敵が来るまで待つか。だがお互い待って我慢比べになると嫌だな、と考えていると、北の兵の一部が分かれてこちらに移動しはじめた。

 全員手に弓を持っている。側面から俺たちを狙うつもりだろう。残った敵は弾正率いる騎兵へけん制かな。


 来るのは北の兵だけだ。南は何やら混乱している。越前入道殿に依頼した秋月と高橋の離間工作が効いているのかもしれない。これは好都合だ。


「島、側面の弓兵は任せたぞ」

「はっ」


 側面の敵を島が蹴散らそうとしている間、俺たちは正面の敵を警戒していた。たぶんタイミングを合わせて来るはずだ。


 側面の戦いは始まろうとしていた。


 弓兵が近づいて来たところを島は素直に種子島で撃とうとしている。


 戦国時代の雑兵の弓なんて有効射程は五十メートルくらいだ。ましてやこちらは十メートル近い高さの土塁の上にいる。

 敵弓は俺たちを狙うためにかなり近づく必要があるだろう。対して島が持っている種子島の有効射程は百メートル。相手は何倍もいるが余裕だな。敵はこちらの種子島の数を把握しきれていないようだ。


 種子島の銃声が轟くと、とうとう正面の敵が鬨の声を上げ動き出した。今までとは違う連動した動きだ。ようやくまともな反撃か。


 正面からやってきたのは高橋の軍だ。さっきまで戦っていた秋月じゃない。数は百人以上、しかも明らかに雑兵じゃない。装備が良い。大声を出して指揮を執る大将もいる。銃兵も僅かだけどいる。


 ごくりと唾を飲み込む。


 ザッザッザッ、先ほどまでとは打って変わって規則正しい敵の足音。やはり精鋭だ。銃兵が一番先頭にいる。


 敵が二百メートルまで近づいたところで命令を下した。


「一番、二番、構え、放て」


 敵銃兵が倒れる。慌てて生き残った銃兵がこちらに撃ち返して来るが、通常の種子島でその距離で撃っても当たるはずもない。


 すぐさま次の隊に撃つように命じる。再び敵銃兵が倒れる。当たるはずのない距離でやられ混乱していた敵将は、すぐに立ち直ったようだ。


「かかれぇ!」


 かなり離れたここまで号令が聞こえた。こちらが装填している間に距離を詰める作戦か。


 敵は向かってきているが、走り出してまだ二十メートルも進んでいない。

「五番、六番前へ、敵将は打つなよ。構え、放て」


 五、六人倒れたか。だがまだ百人近くいるな。戦意も失っていないようだ。

 次の隊が構えるのを確認して再び撃つように命令する。今度は七、八人倒れた。


 次の隊が前に出る、撃つ、また倒れる。


 敵の足が鈍ったか。こちらの装填が異常に早いことに気付いたな。だがまだ野球場の端から端くらいの距離があるぞ。逃げずに立ち向かって来れるかな。


「三番、四番前へ! 構え、放て!!」


 敵が倒れる。敵将が狂ったように叫んでいる「突撃じゃぁ!!」


 覚悟を決めて来たか。敵は全力ダッシュだ。


 焦るな。

 五、六番隊がしっかり構えるまで待つんだ。そして一呼吸待ってからに撃つように命じる。


 敵が九人倒れる。距離は百メートルくらいだ。この距離で外した兵がいるな。訓練では外さなかったのに。相手の気迫に押されたか。


 再び一番隊、二番隊を前に出して撃たせる。

 今度は全弾命中。敵は半分以下になっているのにまだ突っこんで来る。普通は三割で敗走。精強な軍でも四割だ。相当な精鋭か、もしくは……。


「五番、六番前へ、構え、放て」


 まだ突っこんで来るのか。


 この距離になると顔の様子が分かる。恐怖を感じて必死の形相が見てとれる。

 あんな顔の敵が一塊になって武器を構えて走ってくるんだ。気迫に押されるのは仕方がないのかもしれない。

 だがそれでも同じことを淡々と繰り返さなければならん。そのために訓練したんだ。


 次でトドメだ。


「一番、二番前へ、敵将を狙え。……構え、放て」


 敵が五十メートルを切るまで近づいたところで敵将を撃った。倒れる。この距離で十人の銃兵に狙われたら普通は即死だ。


 将が倒れた事で完全に敵の足が止まった。


 ここからはもう大混乱だ。半分が飛び降り逃げ出して、何人かが狂乱して突っこんで来る。残り何人かが倒れた大将に駆け寄った。


 この後に及んでまだ突撃してくる敵をまず片付ける。


「撃て」


 突っ込んで来た敵は全員倒れた。

 大将を治療しようとしていた者達は諦めたのか、大将の体を肩で担ぎ始めた。これも撃つ。


 そして静かになった。叫んで走る敵はもういない。銃声もしない。白い硝煙が風に流されていく。


 側面の敵も島が引かせたようだ。


 ふぅ、と一息つく。手のひらにじっとりと汗をかいていた。

 これを二、三回やれば勝てそうだな。出来るか? 想定よりずっとギリギリだった。


「殿! 敵将の首を確認してくだされ!」

 島が静寂を破り叫んだ。


 わかった、わかった。起き上がってくる敵がいないか念のため様子を見ていただけだ。敵将の首だろ。わかっている。六割も損耗して戦い続けるなんて異常だからな。たぶん島もアレだと考えているんだろう。


「一番隊、敵将の首を、いや遺体を持ってこい」

 この距離なら首を切るより遺体を担いだ方が早い。


 すぐに体は運ばれてきた。四十歳くらいの壮年の男だった。


「誰か顔を知っている者はいるか?」

「殿っ! それは高橋鑑種(あきたね)で御座る!」


 高橋鑑種、高橋氏の当主だ。やはりそうだったか。妙に頑強な集団だと思ったんだ。当主直卒(ちょくそつ)の兵隊だったのだ。

 だから大将がやられるまで崩れなかった。


「殿、勝鬨かちどきを上げましょう」


 まだ秋月の兵が残っているが、勝鬨を上げれば士気を落とせるか。少なくとも残った高橋の兵は逃げ出すだろう。


「島、勝鬨を上げよ」


「はっ! えいえいおう!」

『『えいえいおう!』』


 轟く声が山野に響きわたる。兵らは武器と旗を掲げて、勝利のときの声で喉を震わせた。

「おお――勝ったぞ!」


 さて、残った秋月はどう出る?

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