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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第35話 最強のチート! ミニエー弾②

1569年7月 筑紫地方 勝尾カツノオ城  島珍慶シマチンケイ


「孫太夫、寄越せ」

「はっ」


 背負っていた長い包みの中から孫太夫が種子島を取り出して殿に渡した。

 何を持っておるのか気になっていたが新作の銃のようだ。普通の種子島ならばあるハズの火皿が無く、何やら別の仕掛けが施されていた。


「フリントロック式銃という。火縄の代わりに火打石で発火する。この金槌のような部分の先端に火打石が付いている。見ろ」


 殿が某らに銃についている火打石を指し示した。鳥の頭の様な形になっており、くちばしの部分に火打石が固定されていた。


「引き金を引くとこの火打石が金属板をこすりながら火花を出し火蓋が切られ点火する」


 殿が引き金を引くと、カチッ、っと音が鳴り、なるほど火打石が火花を出しながら叩きつける様子が感じられた。


「射撃時に火蓋を開く必要がないので、早合よりさらに次の発射が早くなる。そしてもう一つの利点だが兵の密集がより可能になる。種子島では火縄が邪魔で隣の兵と半歩以上間隔を取らねばならなかったが、フリントロックは肩が触れ合うほど隣に居ても引火する心配はない。火打石だからな。つまり密集隊形ができる。水城ミズキの土塁の上は狭いからこれが大きな意味を持つ」


 なるほどと思いながら頷く。

 殿はいつもこうしたご説明をされる時は実に楽しそうにお話をなされるのだが、今はそのような様子が見られない。何やら深刻なご様子だ。

 気になるがしかし御説明をしっかり聞かねば。


「そして一番重要な点だ。弾が違う」


 殿が懐から弾を出して、某とジジイにお渡しになられた。

 両手で受け取り観察する。


 従来のような鉛を固めた丸い弾ではなく、少し細長い形状をしている。底には穴があって、色の違う金属で穴が埋められていた。弾は従来通りの鉛で、底穴を埋めているのは鉄のようだ。

 鉛を少しでも減らす工夫だろうか。某にはその程度しか思い浮かばぬ。


「ミニエー弾という。鉛は柔らかく鉄は固いだろ? だから火薬がハジけると弾の底の鉄が柔らかい鉛を押すので鉛弾が僅かにスカートの様に広がる。すると弾と銃口の間にあった隙間がフサがりながら発射されるな。さて孫大夫、そうするとどうなる?」


 スカートが何かはわからなかったが、殿が教師と生徒の様に孫太夫に声をかける。ジジイは孫太夫を側仕えにするのを渋っていたが、殿との仲は良好のようだ。


「はい、従来の種子島でありますと火薬のぜる力が弾と筒の隙間から抜けておりました。しかしミニエー弾であれば隙間が塞がり十分に力が伝わりまする」


「そうだ。あとはそうだな。隙間があると弾が筒の中を傷つけて十発も撃てば命中率が下がるが、ミニエー弾はそういう事はない」


「それと僅かに弾が小さいですかな?」


 ジジイが指摘すると、よくぞ気付いたという風に殿が嬉しそうに答える。良かった

いつもの殿である。


「スカートが広がって隙間を埋めるからギリギリの大きさである必要が無いんだ。今までは装填時に引っかかり易かっただろ? 弾が少し小さくなるのでこれも装填時間の短縮につながる」


 さらに、と言いながら殿は懐から早号を取り出した。おそらくミニエー弾なる弾が中に入った早号であろう。


「弾が細長くなり重心が前になったので安定して飛ぶ利点もある。そしてこの早合にはその弾が入っている」


 殿はそう言うと立ち上がり、手にした早合を種子島ならぬフリントロック式銃に装填した。

 いつのまに孫大夫が用意したのか、広場に的が置いてあり、殿はそちらに体の向きを変えた。


 いかん、種子島は低確率だが暴発の危険がある。試射であれば殿にさせるべきではない。


「殿、某に試させてくだされ」

「そうか、すまないな」


 すまない、と殿が言った。某の心配と気遣いを分かってくださっている。心地よい余韻を感じながら殿から新作の種子島、フリントホック式だったかの銃を受け取った。

 金属の仕掛けがある故か、わずかに重い。重い銃は兵から不評が出るだろうが、はたして納得する性能を見せられるだろうか。


「それでは、試させていただきまする。ここからで宜しいでしょうか?」


 的まで一町半といったところか。某の腕では十のうち三つ当てれば上出来な距離だ。普段の訓練で使われる距離より遠い。


「うむ、そこから撃ってくれ」


 やはりか、先程の御説明の通りだと新作は命中率か射程に秀でているのだろう。

 ふむ、構えてみると火縄がないのは違和感であるが、火を付けないで良いのは便利だ。

 従来の種子島だとこの距離で狙う時は的の随分上を狙って撃っていたが、殿の説明の限りだとそうした必要はなさそうだった。風はない。素直に目当てに的を合わせる。


 ターンッ!

 銃声が鳴り響いた。立てかけていた木の棒から的が割れながら飛んで行った。


「お見事でございます」


 孫太夫が壊れた的を走って持って来た。

 この距離で当たった。偶然か? 偶然ではあるまい。


「種子島は距離が二町にもなると命中率は一分以下だが、このミニエー弾を使えば四倍の四分は当てられる。このフリントロック銃とミニエー弾を来月までに三十丁用意する。今ある種子島を改造するだけだから間に合うはずだ」


 なるほど、これがあれば何倍もの敵にも勝ち目はあるやもしれぬ。

 離れた敵が近づくまで何発打てるか計算する。装填も早くなっている。二町から狙えるとすると槍兵が近づくまでに六か? 七か? 途中で恐怖で足が止まるに違いない。決死の部隊であればどうだ。止まらない同数の敵であっても打ち破れるだろうか……。火縄がないのならば雨でも有効か? 弱い雨ならばどうであろう。


「っ」


「まっ」

「しまっ!」

「島っ! ボーっとしてどうした。さっきから呼んでいるぞ」


 しまった。思案にふけてしまったか。


「申し訳ござりませぬ。如何ございましたか」

「試射が一度ではわからぬだろう。続けて撃て」


 確かに、と思ったがここはニヤリと笑い返した。


「それでは某の腕をご覧いたしましょうぞ」


 いつの間にか孫大夫が追加の的を置こうとしていた。小さな顔が更に小さく見える。

 先ほどと同じ距離、孫大夫が戻って来るまで二十数える程度だ。軽い具足を付けた大人でもそのくらいであろう。

 ……やはり遠い。先ほどの試射が偶然でないとしたら。


 的が三つ設置されたので、追加の試射は三発だ。


 一発目を放つ。ど真ん中を抜いたのか支えていた木の棒ごと的が割れる。

 これで二発連続で当たったことになる。

 続けて撃つ、また当たった。


 慣れて落ち着くはずの鼓動が早くなってきた。

 これまでの全てが命中しているのだ。顔の判別も大変なこの距離で。もしこの銃と弾が大量にあれば……。


 次が最後だ。呼吸が落ち着かぬ。落ち着くのだ。

 落ち着く暇もなく殿に催促される。致し方あるまい。震える手で狙いを定めた。

 ええいっ

 

 ターンッ!


 外れた……。ホッとした。外れる事もあるのだ。必中の天狗の弾ではなかった。あまりにも良く当たるので馬鹿な事を考えていた。

 使用者の腕が悪ければ外れるのは当たり前ではないか。


「うん? 外したか。だが四の三、大したものではないか」


 違う、四の四だった。最後は某の腕だ。

 この距離で……まさか百発百中であるまいな。これは、もしや凄まじい銃と弾なのではないか。


「これは素晴らしい銃ですな」


 ジジイめ、分かっておらぬ。全く分かっておらぬわ。そんな一言で済ませられるほど生易しい物ではない。上手く使えば敵を、一方的に殺す事が出来る。殿は、殿は分かっておられるのだろうか?

 顔を上げると殿がぼそりと述べられた。


「これは取り扱いを注意せねばならぬ。当然ながら他言厳守だ。周防組以外には渡さぬし、片隠れ衆にも新参には扱わせぬ。何を作っておるのか分からぬようにひと工夫もする」


 某は深刻な顔で頷いて見せた。こんなもの他国に使われては大変なことになる。


「それでこの戦が終わるまで、製造も取り扱いも全て俺が指揮する」

「殿! それでは政務が滞ってしまいまする」

「爺、戦が始まってしまったからには戦が優先だ。なに、俺が見て問題ないと思えば任せるさ。城に戻る暇もなくなるのが残念だがな。すまないが頼んだぞ」

「ははぁ」


「……」

「なんだ、島は不満か」

「ご信任頂けなかったことを口惜しゅう思うており申す」


 正直に言った。任せて頂きたいと思った。これだけの銃だ。扱ってみたい。


「そう言うな。島も突然このような銃を渡されてもどのように運用すべきか迷うであろう」


 凄まじい銃だ。それは分かる。もし大量に、数百もあれば今までと同じように使うだけでとてつもない結果を出すだろう。

 だが此度は三十丁しか用意できないという。如何に扱うべきか。数がなければ敵の突撃は止められぬ。通常の種子島に混ぜ精度が高い銃として取り扱った方が有効であろうか。わからない、それが答えだった。


「俺は戦ではミニエー弾を持った周防組に集中したい。島には他の、歩兵、弓兵、通常の種子島兵。それら全てを同時に指揮して貰われなばならぬ。俺には出来ぬ、適材適所なのだ。頼んだぞ」


「はっ」

 そう言われてはそういう返事をするしかなかった。

 もしや殿には、どのような戦にするのかお考えが既にあるのかもしれぬ。殿はいつ如何なる戦を起こすのか。水城の兵はこちらの十倍近い。

 多少の不満はあれど巨大な敵との戦いは楽しみな事であった。

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