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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第25話 お前ら花嫁無視して盛り上がるな!

1569年3月 筑紫館 吉岡越前守(えちぜんのかみ)長増(ながます)入道(にゅうどう)


 小僧が懐に手を入れ毛利からの誘い状を渡してきた。


 目を通すと筑紫の所領安堵に加え、太宰府と宝満城を割譲すると書いてあった。

 しかも元就もとなりの直筆で両川の連番まであるではないか。

 目の前で誘い状を破り捨てる。


「なかなかの条件ではないか」


 この誘い状で毛利が筑紫の重要性を理解している事に確信が持てた。


「まだまだ不足でございます。博多を寄こすならば考えてやっても良いのですが」


「はっはっは、毛利相手に豪胆だの」


 豪胆な若者は嫌いではない。大友では儂に大口を叩ける若者は随分と減った。


「……某、海が欲しいと思っております」


「それは難しいの。博多は今や戸次べっき殿が治めておるし、龍造寺相手によほど大きな功を立てればあるいは佐賀の津を頂けるやもしれぬが」


「やはり龍造寺に攻め込みますか?」


 む、龍造寺攻めの言質を取るつもりであったか。まぁ良い、来月すぐに兵を動かす予定であった。知られても問題はない。


「他言無用だが豊後では既に兵を集め始めておる。宝満ほうまん城と古処山城はなかなか落ちぬ故な。龍造寺の佐賀城(当時の正式名は村中城)であれば大友の威を示すのに都合が良い」


 真意を話すわけにはいかない。佐賀城攻めの真実は毛利を誘い出すための罠である。毛利が来る知らせがあれば城攻めの最中でも素早く軍を反転させ、博多に兵を向ける予定だった。


 これが古処山城を攻めておった場合だと難しい。山中だと撤退時に被害を受ける可能性が高いのだ。昨年は実際に痛い目にあっておる。

 そして宝満城だと今度は博多に近すぎて誘いにならぬ。

 毛利の釣り餌に色々と都合が良いのだ、佐賀城は。


「越前入道様、実は『古処山城を攻略するため、大友が兵を集めているようだ』との噂を佐賀城で流す準備が出来ております。差し支えなければこの虚報、流してよろしいでしょうか」


 ほう、そのような準備がされているとは、しっかり佐賀城攻めを予想しておったか。

 明確に敵対している宝満城と古処山城を無視して、嫌がらせ程度しか反抗の意思を示していない龍造寺佐賀城へ向かうは常道に反しておる。


 その常道でない行動を儂は取ろうとしているのだ。にも関わらず小僧は準備しておる。文で戦の用意をしておくようにほのめかしていたが、先を見通す目にけていると思った。

 儂の考えを読んでいなければ出来ないことだ。


 この様子だと博多で毛利と雌雄を決しようとしている儂の策も察しておるやもしれぬ。確認せねばなるまい。


「俊介殿、佐賀城攻めをどう見る?」


「城攻め自体は油断せねば難しくありませぬ。しかし城攻めの隙をついて毛利が博多に来るかと思いまする。その前に総攻撃を行い直ぐに落とすべきで御座います」


 即答だ、分かっているな。背筋に冷たいものが流れる。


「俊介殿はまことに毛利が来るとお思いか?」


「毛利元就(もとなり)は死ぬ前に少しでも国を大きくしたいはずです。しかも長年の間、北九州に反乱の種をまいてきたのです。それが実りつつあり博多という馳走まで付けば、これを放って置くことが出来ませぬ。いわば飢えた老犬の前に肉があるようなものでございます」


 むぅ、小僧如きに看破されているならば毛利にも看破している可能性がある。簡単に看破される策ではないのだが……。


「毛利は誘いに気づいていると思うか?」


「わかりませぬ。ですが気づいていたとしても自信があるのです。充分な兵を持たせた両川りょうせん(吉川元春と小早川隆景(たかかげ)のこと)が負けるはずないと。なにしろの将は負けたことが御座いません」


「儂も条件が互角であれば道雪が負けるとは思えぬ」


 道雪が負ける時は必ずこちらが無理を言った時だけだった。そして大負けは絶対しない。

 それでいて二つに一つは無理なはずが勝ってしまうのである。おかげで何度も無理を命じることになったのだが……。


門司もじ城で大友毛利で戦になった事が御座いましたな。道雪殿は小早川と対峙したと聞いておりまする。であればその時と同じ痛み分けになりましょう。そうなれば敵陣深くで戦っている毛利はいずれ帰るしかありませぬ」


 痛み分けか、ならば良しだ。

 博多から撤退するところを叩くことができる。


「クックック」


「どうか致しましたか?」


 盃の酒を飲み空けると小僧が直ぐに注いできた。

 祝言を挙げたばかりの小僧が儂と『会話』が出来ることが可笑しかった。


「良き夜、良き祝言、良き話ができた。心ばかりの礼に一つ忠告をしてやるわ。切れすぎる刃は身を傷付ける事もある。気をつけることじゃ」


「……」


 何か言いたそうな顔じゃな。そこは御中説ありがとうございますと頭を下げる所であろう。


「どうした?」

「まだお話したいことがあったのですが、爪を隠そうと思いまして」


「はっはっは……殊勝しゅしょうな心がけじゃ。切れる人間は騙す側に慣れすぎる。なかなか騙されているとは考えぬものだ。ああ、忠告が二つになってしまったな」


 愉快な小僧じゃ。

 酔いが回ったのかもしれぬ。

 どうもこの焼酎は酒の精が多いようだ。


「先程の海の件。褒美を約束することはできぬがの、戦功を上げやすい布陣にするくらいならば儂の一存で出来る。後で申すがよい」

「ありがとうございまする」


 さてさて、どこぞに布陣したいと申すのか楽しみが出来たわ。たかが数百の兵、戦局には影響はしまい。好きにやらせてみるのも一興かもしれない。


「それと殿から祝儀である」


 儂が兵部少輔ひょうぶのしょうゆうに目くばせすると、兵部少輔が「こちらだ」と小僧に目録を差し出した。

 渡された小僧は驚いておった。久方ぶりの譜代と外様との婚姻だからの。大友と結びつきを強めることの利益を示した方が良い。渋る殿に儂が差し出させたものだ。

 名のある太刀と錫、鉛、それと奥方好みの反物が目録に記されているはずだった。


「過分なお気遣いを頂きましたること、誠に感謝致しまする。殿には深く御礼をお伝えください」

「お伝えしておこう。だがまた殿と面会が叶う機会もあるじゃろう。その時に直接お伝えするがよい。殿も気にかけておる」

「承知いたしました」


 頭を下げる小僧は本当に感謝している様に見えた。殿と小僧の初会合の時に、儂が殿に一芝居打たせたのが効いておるのやもしれん。酒の代わりに菓子折りを絹の端切れに包ませて渡すだけの小芝居だったが、こうしたさり気ない行動が効くものだ。


 ようやく横で会話に加わった兵部少輔に「良い婿を得たではないか」と褒める。

「勿体ないお言葉を……」


 その様に話をしているとふすまが開いて姫君の侍女が声をかけてきた。


「琴音様がいらっしゃいます」


 話が終わるのを見計らっておったのだろう。どうやら気を使わせてしまったようだ。ふむ、新婦の緊張が解けていると良いのだが……。


 必要なことは小僧と話し終えた。父親のように毛利に寝返ることはなかろう。あとは酒を堪能するとしようぞ。

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