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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第24話 挙式の合間に悪巧み

1569年3月 筑紫館 吉岡越前守(えちぜんのかみ)長増(ながます)入道(にゅうどう)


 屏風に映る影がユラユラと揺られていた。

 板間の上には畳が敷かれ、祝いの酒と肴が並んでいた。


 酒は米焼酎か、珍しいものを。

 そして酒がそそがれているさかずきは白い陶器だ。こちらはもっと珍しい。

 白磁は明からの輸入でしか手に入らぬ。それを儂らの分と契りに使う分、一(そろ)いで揃えていたのだ。


 小さい国衆にしては過分な装飾であった。無理をしているようには見えない。無理をしているならば誇示のために盃に言及するはずだ。

 何も言わずにただ当たり前の様に置かれている。博多に近いゆえ良いものが揃うとはいえ、どのように買い揃えたのか。

 銭だけではない。こういった揃いの品は商人との付き合いがなければ入手できないはずだった。



 先ほど新たな夫婦が酒を飲み交わして契りを結ぶ三三九度を終え、新婦は衣替えに部屋を出て行った。


 姫君はだいぶ緊張している様子だったが、事情を知っている儂は逆に心穏やかになっていた。

 悲壮感が感じられなかったからだ。


 祝言ではいくらでも緊張してよい。緊張で礼を失する事があっても仲人が儂なら取り持つ事が出来る。

 だが婚姻に気乗りせず、生気の抜けたような新婦であったならばどうする事もできぬ。武家であれば政略結婚は致し方ない事ではあったが……。


 兵部少輔ひょうぶのしょうゆうの娘もここに来る前に様子に伺った時には心あらずという様子であった。追い出されると感じていたようだ。


 外様に嫁いだ例が身近にいないのだから不安に思うのも致し方無い事である。

 だが望まれて嫁ぐのだと、その証拠に儂が出向いておるのだし、供の人数が多いのだと、そうした話をとうとうと説明した。


 戦乱の世であるから大友だけにこだわっておると万一の際に血が途絶えること。

 外に血を残すための立派な御役目であること。であれば嫁入り先は家格よりも実力のある当主でなければならず、姫の嫁ぎ先はまさに儂と父君が認めた若者であること。


 何度も静かに諭した。

 今の様子を見れば何かしら心の折り合いが着いたのであろう。

 幼い頃より顔を知った娘だった。心配が杞憂に終わったようで何よりであった。




 筆頭家老である儂がこのように筑紫家と斎藤家の婚姻を気にかけるには理由があった。


 一つ目。

 毛利との戦が差し迫っていること。これが最も肝要である。


 毛利の石高はおそらく百五十万石を超えており大友家より幾分か多い。

 その毛利はこれまで何度も博多を狙って来襲していた。


 博多の利権が欲しいのだろうし、近海を支配していることから攻めやすいのであろう。


 特に下関の海峡を手にしていることが毛利の大きな利になっていた。

 大友にも海軍はあるが、豊後から博多に船で行くには毛利支配の海峡を通る必要があった。


 ただ不利な状況ではあったが絶望的という訳ではない。有利な点もあったのだ。それは敵の狙いが博多であることが明確である事だ。


 どこを攻められるか分かっておれば準備もしやすい。


 この優位を活かすため博多で確実に戦を起こしたかった。儂はあえて隙を見せて毛利を博多へ誘い出そうと考えていた。

 これは殿にもお話ししておらぬ、儂だけの秘中の策であった。


 そして博多での戦の肝要な点であるが、博多へ運ぶ兵糧は南からしか運べない、ということだ。


 残念ながら海は毛利優位であるから北の海岸からの兵糧は期待できない。

 西は昨年裏切りを働いた原田氏が健在であるため頼りにするには危険だった。なにより大きな家がないので万の兵糧は確保すらままならないだろう。

 東は毛利軍の通り道だ。やはり安心して兵糧を運べぬ。

 つまり南だ。兵糧は南に頼るしかないのだった。南ならば大友に臣従して長い二十万石を持つ蒲池氏がおり、筑後川を使って容易に兵糧を運ぶことが出来る。


 そして博多の南には筑紫がある。

 ここを毛利に寝返られては兵糧が途切れてしまうのだ。


 わずか七千石の国衆である筑紫だが、何としても大友につなげておく必要があったのはそういう理由があったのだ。

 可愛い知人の娘のためにという思いも否定せぬが、儂にとってこの婚姻はそのためのものだった。



 盃を手に取りながら影で揺れる筑紫の新郎を見る。

 新婦と違って緊張の表情はカケラも見られない。


「俊介殿、元服の際に毛利からの誘い状を儂に見せてくれたことがあったな。感心なことであった。誘い状は再び送られておるのだろうか」


 誘い状を儂に見せてくれれば裏切ることがないと示すことになる。

 毛利のことだ、おそらく何度も裏切りをそそのかしているはずだ。


「はい、こちらに」


 懐から文を取って差し出してきた。

 用意していておったな。儂が気にしていることを分かっておる。

 小僧ではあるが此奴こやつはやはり儂と『会話』ができる。


 最初に顔を合わせたのは小僧の元服の時、その時に何故大友に忠誠を誓う気になったのか問いただした。


 問いに対する答えは毛利元就(もとなり)は御年七十一、いつ死んでもおかしくないとの事だった。そして後を継ぐはずだった毛利隆元(たかもと)は五年前に急死。その子供の輝元てるもとは十八になっても良い評判は聞こえてこない。

 跡を継ぐ輝元は安堵状(土地の所有権を認める書類)を自分の名で出すことすら出来ず、今だに祖父の名で出しており、つまり家臣に頼りにされていないのだ。


 であれば家督相続が万全とは思えず、さらに畿内では織田信長が足利義昭(よしあき)を奉じて上洛。畿内統一の気運が生まれつつあり、毛利の東はこれまで以上に剣呑である。例え毛利が博多を手にしても長く続くはずがない、と自信をもった表情で話したのだ。

 既に決定しているかのような話し方であった。


 よう分かっておる。儂も同じ見立てじゃ。

 小身しょうしんの身で畿内の様子まで把握しているのは、毛利に身を寄せていた時に学んだのであろうか。


 それに兵部少輔ひょうぶのしょうゆうの寝所まで仕掛けた話を聞けば戦場での勇気も十分である。

 祝言の豪華さを見るに領内もよく治めている事も見てとれた。


 こうした優秀さを見せつけられれば小僧は身内に取り込んでおきたくなる。これが婚姻を進めたい理由のニつ目だった。


 そして三つ目。

 大友領内で裏切りや反乱があまりに多いことだった。


 領内がまとまらない理由は様々だが、毛利の調略や当主である宗麟様への反発、そして外様との血のつながりが薄いということが主な要因と儂は見ている。


 もともと大内領だった北九州地方が、大友の領土となったのは十数年前からだ。


 歴史が浅い上に、戦続きでまともに治めていたとも言い難い。

 故に反大友の国衆が多いのは致し方がないことではあったが、悪い事にその間に婚姻による血のつながりを強化できていなかった。


 良い相手がいなかったのもあるが、まだまだ大友譜代の間の結びつきが弱かったのでそちらを優先したのだった、


 というのも宗麟様の家督相続の際に、当時の当主であった父君が、側室の子を後継者にしようとしたため二階崩れの変と世に呼ばれる争いがあり、その混乱が収まっていなかった。

 再び譜代でまとまるために譜代間の婚姻を優先するのは当然の事であった。


 しかしそのせいで外様に娘を送りたがらない、という頭の痛い風潮が出来てしまったのだ。


 そうした理由から兵部少輔ひょうぶのしょうゆうが筑紫に娘を差し出すと言ったことは、実は願ったり叶ったりの話であった。

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