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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第18話 信長のえり銭令

1569年2月 博多津   筑紫(ちくし)俊介広門(ひろかど)


 割れたりした銭が熱で溶けて一塊になった元商品を見ながら商談が始まった。

 買うと決めた訳じゃ無いから元商品だ。


「全てこのような塊に?」

「はい、申し訳ございませぬ」

「数はそろっているのか?」

「はい、全て掘り起こしました。それで壊れた銭のお支払いですが、当初お話した通りでお願いできませぬでしょうか」


 俺が買った商品は破銭われぜにという悪銭の一種だ。悪銭にも色々あり、錆びついたり小さかったりペチャンコだったりするのはビタ銭で良銭の五分の一ほどの価値。他に欠けている欠銭というものもあり、これは欠け具合で評価が分かれるがおおよそ五の一以下の価値。割れてしまった破銭と、めいがない無文銭はほぼ金属と同じ価値しかなく、良銭の十分の一ほどの価値だった。

 この破銭われぜにを七十キロほど購入した。前払いで二貫、受取時に一貫を支払う約束だった。つまり溶けて塊になった破銭に三貫払ってほしい、そういう話をされている。


金槌カナヅチはあるか? 塊を割って見せてくれ」

「お持ちします」


 宅之丞タクノジョウが直ぐに用意すると目の前で割ってくれた。割れなければ大坊に叩いて貰おうと考えていたが、意外に簡単にバラバラになる。

 塊の中にも破銭が見えた。特に誤魔化しはないようだ。小さくできるならウチの炉にも入れられる。デカイと炉の入り口に引っかかって面倒なのだ。


 さて正直言って破銭は溶かして良銭に変えるから塊でも問題ない。だから俺にとって難癖をつけて安く値切るか、それともそのまま話を受けるか、という話になる。


「よかろう。大坊、背中の荷物を下ろして渡してやってくれ」


 大坊は背中に最大で二十貫入る大きめの木箱を背負っている。大きく不便な財布だな。言い値で支払う事にした。


「ありがとうございます。確認させていただきます」


 宅之丞たくのじょうが丁稚と共に銭を数えている間に考える。俺にとってこの取引は重要ではない。問題は優秀であろう、目の前の商人を失うことだ。今までは手に入りやすいビタ銭を集めていたが、これからは破銭を安く仕入れて良銭に変え、その金でまた破銭を安く仕入れる、そうした商売を俺を考えていた。

 だが破銭をまとめて仕入れるのが思ったより難しかった。唯一集めてくれたのが目の前にいる商人の宅之丞だったのだ。


 宅之丞は商人としては小規模だった。伝手がないから種子島や馬、鉛や硝石などは頼んでも十分な数を揃えられない。だが破銭を集められるなら俺にとっては重要なパートナーになる。

 破銭なんてどこにでもあって集めるのは難しくないと思ってたんだがな……。


「確かに一貫頂きました」


 普通の商人が使う天秤は焼失してしまったのだろう。銭を一枚一枚、ようやく数え終えたようだ。


「それで、今後はどのようにするつもりだ?」

「店は御覧の有様でございますので、実家に頼ろうかと思います」

「良いのか? 奥方と過ごすために実家を出たと聞いていたが」

「しかし、他に頼るものもなく」


 苦渋の顔を見せる。


 正直俺は人を見る目に自信がない。宅之丞は優秀だと思うが、援助すべきだろうか。可哀そうが先行して施しの様な援助になれば歪な関係になる気がする。それは俺の思う人間関係ではない。

 そもそも宅之丞の価値をどれほどに見積もればいいのか判断が難しかった。他の商人は破銭を多くそろえる事は出来ないと言っていた。変な商人に頼んだわけじゃない。島井宗室という親父の代から付き合いのある博多の豪商にも頼んだんだ。

 だからいくらでも集められると言ったのは宅之丞だけなんだ。それが本当なら宅之丞の価値は俺にとって大変高いものとなる。宅之丞は先程話した島井宗室の親戚で、その紹介で知り合った。変な嘘は吐かないと思う。


 だからどちらかと言うと信用できると思う。こいつを偽金作りの一環に巻き込みたい。隠し事だから慎重になる必要はあるが、どこかでリスクわ取らないと大きくなれん。戦争と一緒だな。

 破銭は良銭の十分の一ほどの価値しかない。集めて良銭に変えられれば価値は十倍にもなる。今までのビタ銭より儲かるのだ。

 カネに目が眩んでいる自覚はある。

 だが様子見で数貫頼んだら、焼けたものの確かに納期通りに用意してくれた……。


「宅之丞」


 名を呼んでジッと目を見る。俺は絶対に目をそらさない。大事な話なんだと気づいて貰えるまで見つめる。向こうが目をそらすようなら援助はなしだ。


「いかが御座いましたでしょうか」

「今でも破銭をいくらでも集めることは能うのか?」

「……はい。店さえあれば」


 目を逸らさない。嘘を言ってるわけではなさそうだ。たぶん。


「俺がいくらでも買うと言えば店は再建できるのか?」

「店を再建するのに百貫、利息が三割、真にいくらでも買っていただけますならば再建(あた)いますが……」


 宅之丞が話を止めて考えるそぶりをみせる。


「申し訳ございませぬ。お侍様の言質げんちだけで再建は難しゅう御座いまする」


 なるほど、俺にそこまで信用がないということだな。何のために破銭を買い漁ってるのか説明してないもんな。もちろん今の段階で偽金をつくっているとは話せない。


「ならば百貫は俺が払ってやる。利息が幾らならば引き受けるか?」

「申し訳ございませぬが……」

「ダメか」


「はい、恥を晒しますが勘当の理由が良くなく、私は座から良く思われていないのです」


 ああ、神屋って大きな商家ショウカの坊ちゃんだったのに嫁さん目当てで勘当されたと話してたもんな。色々やっかみとかありそうだ。


「もしや今回の火事もそれが原因か?」

「わかりませぬが、隣に飛び火しないように上手いように商売所だけ火事になりましたので……」

「怪しいか」


 宅之丞が頷く。

 単純に金は払うし、損もさせないから店を再建しろ、では難しいか。


「なぜ破銭をいくらでも集められる?」

「……」


 話したくない様子だ。店が無くなったとは言え商売の種だもんな。だがそうもいかん。


「話せ。俺が納得いく答えなら損にならぬように取り計らう。納得いかなくとも、そうだな、買い取った破銭と同じだけの量の良銭を支払ってやる」


 宅之丞は今までで一番長い沈黙を挟んでようやく口を開いた。



「……俊介様は織田信長をご存じでしょうか」


 ここで信長が出てくるの? なんで? 声を出しそうなほど驚いたが顔には出さない。


「尾張の当主で、将軍足利義昭(よしあき)の後ろ盾だな。義昭様が上洛できたのは信長の力によるものだとか」


「よくご存じで、今、畿内を支配しつつある御侍様です。その信長様が悪銭の価値を良銭の五分の一とする撰銭えりぜに令を定めるそうなのです」


「悪銭全部をか? ビタ銭はいいが、欠銭、破銭、無紋銭はだいぶ価値が高くなるだろう」


 少し乱暴な政策だがわかりやすくはあるか。破銭なんか絶対量が少ないからな。無視して構わんという判断か。


「はい、そして織田領内の御用商人共は定められた値段で商売しなければなりませぬ。それが例え他領の商人との取引でもです」


「いやいや、他領の商人はそんな破銭で支払われても受け取らんだろう。織田以外で使えば価値が半減してしまう」


「その通りです。そのため破銭は他領とでは取引しにくいのです。そんな貨幣を持ちたい商人は織田領の何処にもおりませぬ」


「なるほど、それを買い取るわけだ。いくらで買い取る?」

「信長様の定める価値で」

「買いたたかんのか?」

「五分の一の値段で取引しろというお達しですから、それでなければ商売できませぬ」

「なんだか損したような気になるな」

「そこは条件次第です。銭を運ぶ運送費、護衛代や保険費用も織田商人に支払ってもらいます。ついでに他の商品もタダで運ばせたりと、こちらに有利な条件を付けられまする。そのようにして破銭を集める段取りを進めておりました。御納得していただけたでしょうか」


 大変納得できたよ。そうか、今年は信長が撰銭令を発令する年か。そうだよな。中央の支配者になりつつあるんだから他領にも影響するか。それにしても遠く離れた九州にいる俺と信長がやること、その二つが繋がるのか。なんだか感慨深いな。


「いいだろう。ならば俺が俺の店として金を出す。お主は雇われ店長だ。うちの侍大将と同じだけの賃金を出してやる。この条件でどうだ? それとも家臣として正式に雇った方がいいか?」


「いえ、家臣ではかえって警戒させまする。あの、ありがとうございまする。店をお任せください」


 よく分からんが良い条件だったらしい。本当にいいのか、という顔をされた。


「よし、頼んだぞ宅之丞」


 破銭を集めて商売になると考えているのは俺なんだからリスクも俺が取らなきゃな。ちなみに商人と武将の両方を曖昧に兼任していたのは、豊臣の小西行長とか、徳川の茶屋四郎次郎とか前例はいる。

 爺は反対するかもしれないが、たぶん何とかなるだろう。


「さて、俺の店だから俺が方針を定める。金がある限り破銭を集めろ。欠け銭もな。それ以外はお主の好きに商売してよい。そして俺の店だからな。商人なんぞに燃やされてたまらん。用心棒を置いておく」


かしこまりました」


「それと店だが、直ぐにでも避難しておけ。おそらく春には博多で戦だ」


「またで御座いますか!?」


 博多は昨年に立花氏が反乱して戦になり、その九年ほど前には焼き討ちにあってる。ちなみに犯人は俺の親父だ。


 親父はその後に大友に反撃にあって、天拝山テンバンザン城を包囲され、一度は数倍の敵を打ち破ったものの数に負け、幼い俺を連れて毛利の周防まで逃走、満を持して帰って来て城を取り返したんだけど、再び大友に敗れて自害。俺が家督を継いだ、という流れだ。


「宅之丞を家臣共に紹介せねばな。今日このまま一緒に来れるか?」


「ご一緒させて下さい。用意いたしますので半刻ほどお待ちいただけますか」

「馬はいるか? 必要ならば金を出すが」


 歩いて帰っては日が暮れてしまう。山道には獣もいて危険だ。


「伝手があるので借りて参ります。少々お待ちを」

「わかった」


 やっぱり馬はいいよ。一日で博多を往復することができる。ちなみに博多を往復できるのが、筑紫にとって優秀な馬の証明だそうだ。


 大坊の体力は大丈夫かな。爺が大丈夫だと言っていたから連れてきたが……。無理そうなら途中に島に任せている所領があったからそこで休ませてもらうか。


 島は俺の祝言しゅうげんの挨拶に結婚相手の斎藤家まで出向いている。そろそろ帰って来ていてもおかしくない。会えるかもしれないな。

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