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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第17話 博多津

1569年2月 博多津   筑紫(ちくし)俊介広門(ひろかど)


 博多湾は三方を陸に囲まれ港口が狭くなっているため外洋の高い波が届きにくく、湾が巨大だから大きな船舶でも安全に停泊できる。日本が古代からここを玄関口にして大陸と交流することになったのは当然と言えるほどの天然の良港だ。


 俺は商人からトラブルの連絡を受けてこっそりと朝が暗いうちに城を抜け出し、愛馬の松風にまたがって博多へ向かっていた。所領の外へ遠出になるので護衛の大坊を叩き起こして傍らに付けている。馬で2~3時間くらいの距離だ。


 護衛の大坊は乗馬した俺の肩までの背丈があり、なかなか恐ろしい風貌の男だ。何というか、今まで警戒して片隠れの里へ向かう時などは護衛を避けていたのだが、博多まで行くとなるとそうも言っていられない。


「大坊よ、走り続けて辛くはないか?」


 最近ようやく全力で馬を操る事ができるようになった俺は、それよりは遅い速歩はやあしで馬を進めていた。マラソン大会を目指すような人のランニングくらいの速度だ。


「ダ、大丈夫ダス」


 30km近く走ってやっと息が切れてきたか、馬に乗れないから護衛に向かないと思っていたが大坊の体力は底無しのようだ。


「そろそろ町へ入る。ここからはゆっくり向かおう。俺も尻が痛くなってきた」

「ハ、ハイ……」


 ふぅ~っと大きく白い息を吐き出す大坊を見る。これだけの巨漢だから長距離を走るのは苦手かと思ったがそうでもなさそうだ。バスケット選手の様な体格をしていて力も強いんじゃないかな


「大坊は強いのか?」

「ハ、ハイ……?」


「爺に言われてお主を護衛にしたが、俺はお主がどれほどの者かを知らぬ。いか程に強いのかと思った」

「ス、相撲では負けたことがないダス」


「村の相撲か?」

「そ、それもあるダガ、もっと人がたくさんの相撲でも負けたことがないダ」


 大坊の話を聞いていると、ちょっとした生い立ちの話が始まった。たどたどしい口調であったが要約するとこうだ。


 大坊は村で負けなしだったため、ある時に代表として大きな寺が催した相撲大会に出場したらしい。そこで認められそのまま坊主として寺に置いてもらう事になった。しかしながら村と違う寺の風習が合わず、結局は追い出されることになった。


「さ、酒を飲んだらならねぇ、と言うからオラは我慢しただ。だけんども飲んでる坊さんはいっぱいおっただ。オラは何でなんじゃろう、と聞いて回ったら、け、煙たがられてしまったダ。そんで入っちゃならねぇ女子おなごがおったから追い出したら、お、オラが追いだれてしまっただ」


 話していると思い出したのか大層落ち込む様子を見せ始めた。体は大きいが子供っぽい。


「お主は悪くないぞ。ところで大坊は歳はいくつになる?」


 落ち込んだまま博多に入ると困るので、話を変えるついでに気になった事を尋ねる。


「じゅ、十七になるだ」


「なにぃ!? 俺と四つしか変わらぬではないか」


「む、昔から大きくて、だからウドの大木と馬鹿にされてるだ」


「何を言うか。ウドは疑問を口にしたりせぬぞ。何故だ、どうしてだを口にして考える者を俺は好ましく思う。お主の疑問はもっともなことだ。おそらくお主を追い出した僧は悪さをしている自覚があってバツが悪かったのであろう」


 俺はそう言って馬を寄せて大坊の肩をバンバンと叩いて元気づけてやった。筋肉が岩の様に固い。


「何にせよ相撲で負けたことがないとは実に良い。頼りにさせてもらおう」

「た、戦いになるだか?」

「わからぬ」


 商人から届いた文には、店が焼失してしまった。お渡しするはずの商品も被害を受けている。このまま保管しておく事ができないので受け取りに来て欲しい。また今後の取引については断らせてほしい、という内容が書かれていた。

 なぜ焼失したかは書かれていなかった。文を返して詳細を尋ねることも考えたが、事情が事情だ。直接出向いて商品の受け取りと一緒に問いただした方が早い。


 博多の入り口に着くと驚いた顔をしている門番をしり目に関所を通り抜け、金を払って松風を預ける。大友の庇護下に入って大友領内の関所に馬を預けられるようになったのは便利だ。そして海の近くにある目的の店へ歩いて向かった。


三十分ほど歩いたところ、なるほど半分ほど焼けている店に着いた。隣に延焼しなかったのは幸いか。丁稚でっちと共に焼け跡を掘り返している男がそこにいた。


宅之丞たのくじょう、大変な目にあったな」


 こちらを振り返る男の顔はひどく瘦せ細って焦燥した様子だった。


「俊介様!? わざわざこのようなところまで」


 慌てて炭で汚れた手を作業着でふき取る仕草をするが、顔にも炭が着いている。大変であるのだろう。


「何もおもてなしが出来ませぬがようこそ御出で下さいました」

「体が無事なようで何よりであった。奥方は大事ないか?」


「幸いに皆無事でした。しかしながら店は御覧の有様です。ご注文を頂いていた品も焼けてしまいました。申し訳ございません」


「何があったのだ?」

「……まずは商品のご確認を」


 あまり話したくないのか大変な目にあった自分の事は棚に上げて注文した商品を見せてくれるようだ。


「どうぞ、こちらならお座りできます。お持ちしますので少々お待ちください」


 焼け跡でもっとも綺麗な場所は店の奥の土間だった。この時代の店の形は道路に対して奥に細長く作られており、手前が店、奥側が生活する場所だ。土間が残って店側が燃えて無くなったということは、少なくとも台所から出火したのではないらしい。

 土間を観察すると比較的綺麗に残った木板を壁から剝がして床に引いたのだろう。土間の半分ほどは木板が引かれ、端が焦げた座布団が置かれてあった。


 そのたった一つの座布団に座るように促されると、持参しているのでお構いなくと話したのに、丁稚が隅にある水瓶からしゃくで水をすくい茶碗に入れて渡してきた。


「こちらになります」


 茶碗には手を付けずに待っていると、宅之丞たくのじょうが風呂敷をいくつも小分けして重そうに『商品』を持ってきた。重量があるから普通は木箱に入れて保管して運搬するものだ。木箱は焼けてしまったのかな。これだと商品も半熔解してそうだ。


 宅之丞が包みを広げると、欠けたり割れたりした銭が熱で溶けて一つになった塊、『商品』が出てきた。破銭われぜにだ。


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