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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第14話 おじいちゃんはツンデレ

1568年7月 筑紫地方 勝尾かつのお城筑紫館   筑紫四郎貞治(さだはる)


「ジジイ、話がある」


 評定を終え広間を下がると声がかかった。二人だけだと呼び方に遠慮がない。


「島か。構わぬよ」


 島の足が主殿しゅでんから離れ外に向かうので付いていく。はて客間に赴くと思うたのだが。


 庭を通り過ぎ、足を止めたところは館から勝尾かつのお城へと続く道の入り口じゃった。今は土砂で埋まってしまっている。まだ片づけがすんでおらず危険であるため周囲に人はいない。手が空いたら以前のようにまた土砂で埋められる仕掛けを施すのだそうだ。


「あの日の夜,この崖上から飛び降り敵将の寝所まで忍び込んだのだ」


 腕を組み、崖を見つめながら感慨深そうに話す。島にとって衝撃だったのじゃろう。あれから島の殿へ見る目が劇的に変わった。

 子供から大人へ変わった程度ではない。

 子供から敬愛する主人へ見る目が変わったのだ。


「聞いておる」


 話を聞いてなんとも思い切ったことをしたと儂は思った。戦は人の本性ホンショウの様なものが出る。殿にそのようなご気性があったことを初めて知った。


「殿は腹がすわっておられた。武家の大将に生まれたものは様々な資質を求められるものでござろう。しかし武家である限り武こそ第一に肝心でござる」

「そうじゃな」


 当たり前の事だ。興味なさげに返事をした。島らしくない迂遠な言い様じゃ。何が言いたい。


「そうじゃな!? 全くわかっておらぬ! 殿は我等われらの望外に武に長けた気配を見せておられる。それだけに飽き足らず、お主、殿にぶんの才を求めておるな。なぜ斎藤殿のご息女へのフミに気づかなんだ! 殿を試したか!」


あるじの器量を見定めるのはお家のためじゃ」


「主を支えるのが家臣のお役目だ! 殿の器量を見定めるために支えを怠ってなんとする!」


 むむむ、島の癖に言葉が回りおる。


「まだあるぞ! なぜジジイの孫を殿の側仕えにせぬのだ。魂胆はわかっておるぞ。殿が暗愚であれば家を割る腹積もりだったな? だが愚かではないことなど当に承知しておろう」


 まだまだ若いのぉ。しかし図星を指されていては無礼だとは言いにくい。孫を傀儡に立てるくらいは考えておったのは本当だしの。長年の付き合いとはやっかいじゃ。


「年寄りに説教とは信じられぬ奴じゃ」


 己の中に認めたくない心の内があった。認めることが出来ずに対応を誤ってしまった。だが受け入れるしかあるまいて。

 歳を取ると頑固になる。それを防ぐには意見をヒラヒラと軽率に変えるくらいでちょうど良い、と言うのは百まで生きた儂の曾祖父の言葉だ。


「如何なることか説明してもらうぞ」


 崩れた崖を見上げる。

 雨の夜に敵に向かってこの高さを滑り降りたか。

 降りたら戻れぬ道だ。


「……殿の器量が測れなかったからじゃ。果たして暗愚なのか大器なのか。あれからもう一年にもなるというに、儂の目ではとうとう定まらなかったわ。分らぬものは恐ろしい。恐ろしいものに孫を預けたくはない。恐ろしいから支えるよりも測ろうとした。笑うてくれてよいぞ?」


 多少は自虐めいた気持ちが芽生える。だが島が憐れむ目でこちらを見ておったので、そんな気持ちは吹っ飛んだ。

 奴め、だいぶ殿に入れ込んでおるな。全く失礼な! そのような目で見るでないわ。儂は耄碌もうろくしたわけではない!


「銭作りは他所でもやっているところはあるじゃろう。だが殿はあっという間に本物と区別が付かぬ程の銭を作り出したな? どこで覚えた? 殿はお話ししようとせぬ。大殿と奥方様を亡くしてから人が変わったようじゃ。狐がついたかとも思うたの」


「馬鹿なことを、案外どこぞで天狗に教わったのかもしれぬぞ。源義経は鞍馬天狗を師匠としたのだ。周防すおうの奥山で人知れず修行をしておっても某は驚かぬ。まだ幼かった殿の事など誰も見る余裕がなかったのだ。隠れて何を学んでおっても不思議ではない」


 ふふふ、狐に天狗か、それほどまでに殿の心替えは大きい。


「それだけではない。作った銭で悪銭を集めてもっと多くの銭を作っておる。銭で銭を集める様子はまるで商人のようじゃ」


 手が空いた銭職人を見ると借銭して悪銭を集め銭をまた作って、そうした事を繰り返していた。その様子を見ると武士とは思えなかった。


「それに殿の鍛冶場は見たか? あれでは鍛冶師じゃ。城主が自分の鍛冶場を持つなんぞ聞いたこともないわ」


 いくつも鍛冶場は見たことがあったが、殿の鍛冶場は今までみたどの鍛冶場とは違っていた。


「それで、どうするつもりだ」


 島が鋭い目でこちらを睨みつけてくる。やれやれ。


「じゃがのぉ、お主の話を聞いた戦場いくさばでの殿のご様子は武士そのものである。……大友軍を今すぐ佐嘉城に向かわせる案、お主はどう思った?」


 急に話を変えることになったが島は素直に答えてくれた。


「一理ある。だがそれよりも某が気にいったのは先手を取ろうとする殿の心得だ。城が一つ落ちたからと立ち止まっていては大きくはなれぬ。筑紫に万を超す兵がいないことが残念に思うほどにな」


「ふふふ、その通りじゃ。まこと武士に相応しいの。殿には武士のお心があるのじゃ。儂も思うところはあるが、お主と話して心づもりが付いたわ。殿の器は底が見えぬ。果たして大器である故か、はたまた底に穴が空いている故かわからぬがの」


 儂は大殿が亡くなっておくしていたのかもしれない。それではお家は保てぬ。


「もしや先程の評定で静かにしていたのは、その様な事を考えていたな?」


 静かに頷く。儂は武将としての殿を見定めようとしていた。


「儂はお主の様に戦場に出んかったからの。しかし殿はどうも作法や礼に穴が……不得手であるようじゃ。適当な指南役を見作ろうとするかの。勢福せいふく寺に大内が滅びた時に逃げてきた公家の未亡人がおったはずじゃ」


 西の都と呼ばれた大内の居城には応仁の乱で多くの公家が助けを求めて逃げ出してきていた。その大内氏が滅びた時に肥前に身を寄せた御仁がいた。


「それに孫の孫大夫まごだゆうも側仕えさせる。儂も殿には小姓が必要だとは思うとった。これでよいな?」

「それでこそジジイだ」


 まったく調子のよいものじゃ。多少は反撃してもバチは当たるまい。


「そもそもお主が殿に随分と入れ込んだのが悪い。儂が釣り合いを取るため殿を懐疑かいぎの眼で見るのも致し方のないことではないか。そうだ、お主が全部悪いんじゃ。お主もさっさと嫁を貰え。そうすれば殿も相談を持ち掛けたかもしれぬというのに」


「嫁なんかいたら戦場で死ねなくなるからな」

「お主は昔からそれじゃな」


 胸の支えが取れた気がした。


 これからの事を考える。

 尼に入った公家を連れ出すのだ、勢福寺には儂が直接いかねばなるまい。


 斎藤殿のご息女もどのような娘かお調べした方が良さそうだ。何しろ祝言の段取りも決まっていないのだ。何かあったか。殿の失礼だけとは思えなかった。

 斎藤殿との関係が良好であるから後回しにしすぎたわ。殿もあまり積極的になさろうとはしていない。面倒事と思うてる節がある。


 殿が気難しい斉藤殿とウマが合うのもよく分からなかった。大殿の命を奪った男だ。深くは考えまい。殿のことは測り難き器量だと思い支える事としよう。それこそがお家のためになるはずだった。



 ※  ※  ※



 結局、大友はその後に軍を解散した。

 殿は斎藤殿に文は出したが相手にされなかったようじゃ。

 後になって思うことがる。あの時に大友の軍勢が龍造寺に向かっておったら世の行く末は大きく変わっていたのではないか。そう、大きく変わっていたのではないかと思う。変わっていたはずじゃ。

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