第13話 爺こと筑紫四郎貞治
1568年7月 筑紫地方 勝尾城筑紫館 筑紫四郎貞治
いかん途中で別のことを考え込んでおったら殿に意見を聞かれてしまった。
何かお話しせねば。
「殿は娘婿でございますれば、斎藤殿に意見することは何ら不思議ではございませぬが……」
適当に返事をしながら頭を動かす。
未だ七月じゃ。冬までに時間はあるが秋になれば米の収穫をしたい百姓が浮き足立つ。
それは相手も同じであるから加味しないにしても、確かに勝てるのであれば直ぐに次の戦場に向かった方がよかろう。勝てるのであれば、じゃが。
果たして龍造寺についている国衆が簡単に大友に下るのだろうか。そうでなければ支城を一つ一つ落とさなければならぬ。そんなことをしておっては冬までに本拠地である佐賀城を落とせるのかは微妙なところじゃ。
殿は簡単に国衆が下ると見ているが、島は違う。
確かに殿のおっしゃる通り龍造寺への恩を感じている国衆も、血縁関係を持っておる国衆も多くはない。兵の差を見せつけられれば積極的に大友と戦おうとする者は殆どおりゃんじゃろう。
じゃが肥前は大友の本拠地から遠い。直轄地にするような本気度はないじゃろう。であれば勝ったとしても適当な大名を置いて間接的に支配するのではないかな?
その適当な大名になりそうなのが龍造寺になる。
龍造寺を叩いて、ほどほどに領地を削って人質を取る。そうして肥前を支配しようとするじゃろう。
そのような事態になったとすると、さっさと龍造寺を見限って裏切った国衆は龍造寺からどう思われるだろうか。
間違いなく良い印象は持たれぬ。それは大友の支配が薄まった時に災いとなる。
であれば形だけでも大友と戦っておこうと考える国衆がいてもおかしくない。
う~む、誰に聞いても意見が割れるところじゃろう。ならば
「判断が難しゅうございますな。であるならば斎藤殿に意見を伺うという形で具申いたしても良いのではないかな? ほれ、弾正殿が居づらそうな顔をしているではないか」
二人とも面食らっておる。立花山落城の知らせを持ってきた弾正が目に入らぬほど夢中になっておったな。
弾正が苦笑してそそくさと広間から出ていった。
ここにおって構わんのだがな。どうにも自信がなさそうなところがある。そういう態度でおるから殿と島に忘れられるのじゃ。器量は十分なんじゃが。
二人の意識が弾正に逸れたし、話を変える頃合いかの。
「そういえば奥方となられる琴音様からお返事はありましたかな?」
「それは……」
まずい、といった様子で殿が言いよどむ。
これはよろしくなさそうだ。いたずらが見つかった孫と同じ顔じゃ。
咎めず平然とご返事せねば。
「何かありましたかな」
殿が扇子で自分の肩を叩いて落ち着こうとしている。目が泳いでございますぞ。
「実はだな。ごほん、返事がない」
「はっ? 髪上げの儀と年始の祝辞で文をお出ししたと聞いておりますが。どちらの文にお返事がないのですかな」
思わず咎める口調になってしまった。
「あー、両方だ」
空いた口が塞がらぬ。
なかなか酷い状況だ。なぜ最初の文の返事がない時に相談してくれなかったのか。いや、今回も言わなければそのままだった可能性がある。
女人に興味がないのか。齢十二であればそれも御座ろうが。本当にそうだとしたら由々しき事態じゃ。同年輩がいれば女人の好みなぞ聞き出しやすいのだが。いかん、側仕えの小姓が一人もおらんのだった。
「やはりおかしいか? 奥ゆかしい姫君かと思ったのだが」
「殿、恋文では御座らんのですぞ。家同士を結び付ける大切なご挨拶になりますじゃ。その返事がないとなると、斎藤家は祝言を結ぶつもりがないと思わざるえませぬぞ!」
殿の文は少し変じゃからな。字は多少良くなったが……。
「斎藤殿からの文にはおかしな様子は御座りませんな?」
「ない。爺にもたびたび見せているだろう」
「なればこの度の事は琴音姫だけのお考えかもしれませぬな。斎藤殿に事の次第を問いただすのが良いかと思いまする」
「わかった」
弾正がいなくなって良かった。このような主人は見せられん。
「他にお話はございますかな?」
特に意見はでなかった。
お開きと相成り申した。




