第12話 俺ならこうする!
1568年7月 勝尾城筑紫館 筑紫俊介広門
「おぉ、弾正が来たか。ここへ通せ」
評定の最中、小姓にここへ通すように言うと弾正が部屋に入って来た。
「俊介様,帆足弾正ただいま仕りました」
「ご苦労だったな。暑かっただろう。水は飲んだか? 爺も島もそろっているゆえ詳細を聞かせてほしい」
下がろうとした小姓に水を持ってくるように伝えると、それを待たずに弾正は話を進めた。
「それには及びませぬ。それよりも立花山城が落ちましたぞ」
『『落ちたか!』』
島と爺が声を揃えた。
「城主の立花は切腹。援軍に来ていた毛利、原田の将は逃げ延びたようです」
原田は立花山の西、博多を少し超えた糸島を支配している国人衆だ。石高は少ないが博多へ続く道を支配していること、何より六百年以上も歴史ある家なので石高よりは重要視されている。先程まで話していた高橋も秋月も祖は原田氏だ。
「島、どう思う?」
「順当でござるな。立花山城は博多を守る城ゆえ手がかかっておるし、決して守りが疎かになっているわけではないが、やはり相手が悪うござる。寄せ手の雷神戸次道雪は名将名高い御仁でござる。二カ月で落ちても不思議はない」
「雷を切ったとかいう道雪か? 眉唾じゃろう」
「力量のことを言っているのだ」
二人の話がずれている。俺が知りたいのは空いた兵力をどうするかだ。戦仕舞いにするには早すぎる。
「まだ七月だ。そのまま宝満城へ兵を向けることはないか」
「宝満城へ? 確かに山ふもとまでなら二日で着く距離でござるが、宝満城は天険の要害でござる。人をそろえれば落とせるという城ではござらぬ。もし落とせねばせっかくの勝ち戦に水を差しますぞ」
そうだな。史実でも最後まで宝満城は落ちなかった。岩屋城にいた大将が玉砕してようやく開城したのだ。
修験者が修行に使うような、たどり着くだけでも大変な山頂にある城だ。
簡単に落ちるはずもない。それならば。
「龍造寺がいる佐賀城はどうだ? 距離は少し離れるが平城で落としやすい」
落とせるはずだ。俺が宗麟の立場ならそうする。
「龍造寺であれば兵を一万は集めましょう。そして城は佐賀城だけではありませぬ。周りに支城がいくつもありまする」
島が意見する。最もな意見だがそのくらいは考えている。
「龍造寺の周りは負けて仕方なく龍造寺に従った国衆ばかりだ。今すぐ三万の大友軍を向かわせれば驚きを与え、立ちどころに城を空ける。万の大軍を召集する暇なぞ与えぬ。そうすれば周りの国衆が龍造寺に付くことは無いだろう。そして龍造寺譜代の将だけで籠城するなら五千ほどだ。立花山城は一万だった。佐賀城であればもっと楽に落とせるはずだ」
扇子で立花山城と佐賀城を指し示すと、島と爺がお互いに顔を合わせた黙り込んだ。
「この議、越前入道殿にお話しして良いものだろうか」
「殿、お待ちください。一万石に満たない我が家が百五十万石になる主家に対して物言うので御座る。筑紫の立場が悪くなり申す」
慌てて島が言う。島は思ったよりは狂戦士じゃなかった。今も本気で俺を心配して意見してくれている。
「斎藤殿へならばどうだ? 娘婿の立場で隣の龍造寺が所領を荒らしに来るゆえ懲らしめて欲しいと。僅かな期間で立花山に続き龍造寺をも下せば、大友の威光が高まり高橋、秋月も反抗を諦めるに違いない。そのようにお伝えるならばカドは立たないのではないか?」
「そこまでする意図がわかりかね申す。来年ではご都合が悪いので御座いましょうか?」
「今攻めるから相手の準備も整っていないのだ。それに筑紫の周りは戦ばかりだ。倒せる時に倒さずして後で後悔しても遅い」
「……お伝えしても実際に軍が動く可能性は低いですぞ」
「それは分かっている。俺の様な若輩者の意見だからな。だが娘婿になるのだ。斎藤殿ならば意見書に目を通す事くらいはしてくれるだろう」
「そうではありませぬ。大軍という物は軽々しく動かせる物では御座いませぬ」
島が答える。
爺はさっきから何も言わない。いつもならこういう時に諌める爺が何故だか黙っていた。
「爺はどう思うか?」




