第11話 古処山城の秋月氏
1568年7月 勝尾城筑紫館 筑紫俊介広門
「秋月の古処山城は想定より多い一万以上もの兵が詰めていたそうだ。それで落とせなかった大友軍は去年の冬にやむなく撤退したところ、逆襲にあって大きな被害を被ったらしい。踏んだり蹴ったりだな」
これは義父になる斎藤殿からの文に書かれていたことだ。被害も教えてくれているので少しは信頼されてきたのかな。
去年あった事を最近の文で連絡して来たのだ。つまり去年は警戒されていたけど今はマシになった? のかもしれない。
筑紫に大友が敗れた事を知られると再び裏切るかもしれない、と去年は考えていたわけだな。仕方ない。正式な婚姻もまだだし親父の前例がある。
この感じだと筑紫は裏切らないということをアピールした方が良さそうだ。
「秋月の倅もなかなかやるな。一万以上も兵を集めていたとなると相当前から用意していたに違いあるまいぞ」
島が興奮したように言う。
秋月は父親が大友に殺されていて恨みが深かった。それが今回の用意周到な乱につながっている。だが二人ともそれを言うことはない。
俺が父親の敵討ちという大義名分を放り投げてしまったからだ。主人の批判に繋がるような話題は出さない。
古処山城は少し遠いが、高橋の宝満城は大宰府を挟んでここからすぐ北にある。うちの北の所領の山頂から見えるくらいだ。文が直ぐに届くから宝満城を攻めている義父との文通は盛んだ。
義父と殺し合った様子は文からは感じ取れない。顔を合わせた時はけんか腰で口調も荒い御仁だったが、手紙は非常に丁寧で丸い感じの字を寄こしてくる。
「立花が裏切ったのは苦戦する大友軍を見たからですな?」
爺が上目遣いで聞いてくるので頷いて返事をする。
そうだろうな。
宝満城を囲ったまま何もできない。古処山城は落とせないどころか撤退時にやられる。
それを見て博多の立花氏は城内に務めていた大友譜代の家臣を切り、海向こうの毛利の支援を受けて今年の春に独立を計った。
二度目の裏切りだった。覚悟は相当なものだろう。だが少し迂闊だった。大友は博多を重要視していたのだ。
知らせを受けた大友は古処山城の攻略のため集めていた兵をすぐに立花山城に差し向けた。
一万 対 三万
三倍の敵を相手に立花は二カ月戦いを続けている。
立花山城はかなりの城だが天然の要塞である古処山城や宝満城ほどではない。
博多を支配するための行政も兼ねている城だから防備はどうしても劣るのだ。今は耐えているとはいえ落ちるのは時間の問題だろう。
「我々へ召集がかかる様子はござろうか」
近くの宝満城へ俺たちが援護に入って、余裕ができた兵力を立花山城に送る、そうした事を島は想定していた。だが
「ない。知っての通り龍造寺が俺たちを挑発して所領へ入ることを繰り返している。すぐに対応できる兵がいなくては村々が荒らされかねん。これは越前入道殿もご存じだ」
龍造寺の挑発に対応しているのは島だ。だからこそ心配なのだろう。兵の数はあまり増えていないから召集がかかるとやっかいだ。
ただ迅速に対応できるように馬は多く買い揃えた。これからも増やすつもりだ。
今は知らせばあればすぐに駆け付けられる。
十分な数の騎馬を見れば龍造寺から舐められることはないだろうし、挑発は減ると見ている。
「我らの主となったのだから大友宗麟様には、しかと龍造寺へも対応して欲しいものだのぉ。今はこちらにちょっかいを出すだけじゃが、西にある城を多く落として破竹の勢いじゃ」
その通りだ。龍造寺を放っておけば巨大になるのは目に見えていた。実際に史実ではそうなって九州三国志の一柱になる。その前に大友が潰してくれれば助かるのだが……。
ただ龍造寺のいる佐賀城は大友本拠地から最も遠い。関心は薄い。
「あまり期待してはならぬであろうな。龍造寺討伐は立花、秋月、高橋を抑え込んだ後になるでござろう。何年も先になるやもしれぬ。越前入道殿も斎藤殿もそれが分かっておられる故、龍造寺の抑えのため我々に様々な便宜を図るのだ」
島が言う便宜は召集を見逃してくれたり,錫を送ってくれたりだな。
上司が現状を分かってくれるのは最高だ。今はちょっと我慢してね、という状況でも希望が持てる、素晴らしい。
だが心配事もある。当主である宗麟がこの状況をどこまで理解しているのか。
今の北九州の争乱の絵を描いているのは毛利だ。
立花、秋月、高橋、それに敗れた俺の父親にも毛利が援助していて大友領内で暴れさせていたのだ。もしかしたら龍造寺にも援助があるのかもしれない。
一代で中国の覇者になった毛利は手の長さだけじゃない。外交戦略の上手さ。何より遠大な絵を描ける器のデカさが現状から垣間見えた。
これが分かる人間からすると大友宗麟は毛利元就に完全に主導権を握られてしまっていると感じざるを得ない。
はたして宗麟がどこまでそれを自覚しているのか。
しかも毛利は生涯無敗の将、吉川元春という切り札を残したままだった。
俺は史実で知っているから絵の完成形を知っていた。小さな国衆の立場でできる事は少ないが手は打つつもりだ。
どうにかしないと裏切りだらけの人生になるからな。
大友家には強くなってもらわねば。
「ただ利用されている事を便宜などと言うでは無いわ。おんしもだいぶ大友かぶれになってきたの」
「四郎殿! 某はだな」
「わかっておるわい、冗談じゃ。儂が不満を隠してしまうと何やら悪いことを企んでいるように思われるではないか。大友は好かぬ、だが殿の差配に不満はない。これでいいじゃろう」
「まったく……」
二人のやり取りを見て口の口角が上がる。軽口で不満を言って諫言を口にするのが爺のスタイルだと分かってきた。
コンコン
「弾正様をお連れしました」




