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ブラック九州戦国時代〜修羅の国の小大名に染まったら〜  作者: 逆川水府


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第103話 紹運参戦

1571年5月 筑紫平野  高橋紹運(しょううん)


 けんに徹するつもりであった。


 まず試しに騎馬五百で龍造寺の背後を窺う様子を見せたところ、それを受けて龍造寺は城攻めの最中に二千の兵を背後に配置する差配を見せた。


 これが私が当初から想定していた動きだった。

 城攻めをする兵が減る、これだけでも義弟殿の役には立っているはずなのだ。


 口惜しいがこれ以上の支援は危険の方が大きい。義弟殿が事なきを得られれば良い、そう願うしかすべはないと考えていた。


 勝尾城の城門が崩された際には、もはやこれまでか、宝満城へ戻って落ち延びる義弟殿を受け入れる用意をしなければ、そのように思った。だがその後の展開は私の予想を良い意味で裏切った。


 勝尾城の城下が突然に炎に包まれると、焼かれた龍造寺の兵が投げ出されるように出てきた。だがその数は少ない。

 脱出できなかった人間がどうなったか、想像に難くない。


 その日のうちに龍造寺が撤退を始めたことで、中に入った者はやはり討ち取られたのだと知った。


 私は撤退を始めた龍造寺をひとまず追うことにした。多くを討ち取られたとはいえ、龍造寺はまだ半分近くの兵を残している。


 太陽が高いうちに撤退を始めたという事は、龍造寺が動揺している証左だ。恐らくは焼け出された兵を見た国衆らが勝手に撤退をしたのだと思われた。


 それを抑えられない龍造寺が、せめて撤退の時間だけでも共にしようとした結果、このような時間に撤退を開始したに違いない。


 これだけ早く撤退を開始されては、筑紫の追撃は恐らく間に合わぬだろう。守備に就いていた兵を編成しなおし、それから逃げる敵を追わねばならない。


 ……そう思ったのだが、この予想も簡単に破られる事となった。


 敵を背後から追って如何にすべきか思案していると、騒ぎが起き始めた。すると龍造寺の兵が割れて、中から筑紫の騎馬隊が現れたのだ。


「驚いたな……あらかじめこれだけの騎馬を伏していたのか」


 次の突撃を仕掛けようとしていた筑紫の騎馬隊が、私に気づいて突撃を取りやめる。そして騎馬の中から代表者が二人、率いた兵を突撃態勢で待機させ、私に顔を合わせに来た。


 私も率いた騎馬を待機させ、代表者の元へ馬を進める。


「高橋紹運だ」


「弾正」

「原田新五郎で御座る」


 弾正、以前に佐嘉城で騎馬を率いるところを見たことがある筑紫の将だ。動きが良かった。腕は信用できる。


 原田は助力に来ていたのか。義弟殿か、いつの間に……。驚いたが時間がない。私はすぐさま助力を申し出た。


「弾正殿、よろしければ助太刀するが」


 これだけの数の騎馬が揃っておるならば勝てる。

 追いかけてきた甲斐があったものだ。


「いえ」


 なんだと? 断るというのか。

 いや待て、弾正という男は否定した後もこちらをジッと見ていた。


 何を言いたい。さては口に出せない話か。


「まさか弾正殿、私にこの騎馬隊を率いろというのか」


 私の返事に弾正という男が頷く。どういう事だ。

 いや、まさかそうか……。


 この男、戦の先を見ているな。

 このまま順当に戦を終えれば、此度の戦で筑紫の功が大きいことは間違いない。単独で龍造寺を下したようなものになる。名声が高まるに違いない。


 だが大友はどうだ。ただ見ていたという結果になってしまう。それでは今後の筑前、肥前の統治に障りが起きる。


 私は大友本国に近い人間だ。今から私がここにいる騎馬を全て率いて追撃を行えば、大友が強く助力したとこじつけられるだろう。

 龍造寺の首を討つことができれば間違いない。


 この男、大友に気を利かせて武功を譲ってやると言いたいのだ。

 だがなるほど、本国に対して気を利かせてやるなどと言えるはずもないな。それで口を閉じていたのか。


「それは義弟殿の指示か?」


 弾正殿は一瞬困惑し、迷ったそぶりを見せたが何も言わなかった。言えぬか。

 つまり形の上で義弟殿の命令とするわけにはいかぬ。そんな理由があるのだろう。


 さては自らの責任のもとで実行したいのだな。


 万一に龍造寺を逃すような事態になれば、勝利したとしても粗を探して責め立てる者も出てくるやもしれぬ。

 勝手に指揮権を委任した事にすれば、自分が責任を負えるということか。


 この弾正という男、武だけでなく知恵も忠義もある、なかなか出来る様だ。


「義弟殿は優秀な部下を育て上げたようだ。ならば私も期待に応えねばなるまい。弾正殿、原田殿、私の指示に従ってもらうがよろしいか」


 弾正殿が頷くのを見て原田殿も了承した。

 これほどの数の騎馬を率いるのは私も初めての体験だった。広い筑紫平野があればこの数を十分に活かせるに違いない。血が湧くものだ。


 私の興奮を感じ取った愛馬がいななく。


「三方に分かれて繰り返し敵軍を引き裂く。せっかく将が三人もいるのだ。活かさねばな。好きなだけ敵を切り裂きたまえ。真っ二つに駆け抜けて良し、抉るようにして良し、より取り見取りだ」


 弾正の馬が返事をするように前足で地面を引っ掛けるように叩く。

 この男も気が立っているようだ。


「時間を置いては敵が立て直す。次々と仕掛けるぞ。初撃は私が南側から切り裂く。次に別の場所から弾正殿、最後に原田殿だ。兵数が少ない原田殿は背後から突くのがよろしいだろう。何かあれば私に合流するように。では参ろうか」

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