第157話:私もバカップル眺めてる立場が良かった。
「こ、これは……」
ウニリィは戦慄した。
明らかに一人前ではないトロピカルな雰囲気のジュースが巨大なグラスに満たされていて、そこには二股に分かれた一本のストローが挿さっている。しかもストローはぐねぐねと曲げられ、ハートの形を描いていた。
「これはまさか……」
「知っているのですかウニリィさん」
「これは世に聞くアベックストロー……!」
かつて、カクテルにストローとは別にマドラーの代用としてのストローを挿していたところ、あるカップルがその2本のストローを使って一つのグラスからカクテルをシェアして飲み始めたのがこのストローの起源である。
と、ウニリィは聞かれてもいないのにその始まりについて説明しだした。
「しかもこの形状、二人同時に吸わないと飲めないやつ……!」
2本のストローをハート型に組み合わせただけであれば、それぞれがストローを吸えばジュースが飲める。
だがこれは1本のストローを分岐させた構造である。2人で同時に吸わないと空気が漏れて吸えないのだ。
「どこで知るのですか、そういうのは」
「みんめ……いや、読んでた恋愛小説とかに書いてあって」
「恋愛小説に。なるほど、女性はこういうのに憧れるのですね?」
他の客たちを見れば、カップルに人気な店というだけあって、きゃっきゃうふふという擬音が出そうなくらいに、満面の笑みを浮かべて一つのグラスに顔を寄せてジュースを飲んでいる。
マグニヴェラーレは覚悟を決めたというようにふーっと深呼吸してウニリィを見つめた。
「さあ……!」
ちゃうねん。ウニリィは思わずツッコみたくなった。どっちかっていうとそういうのを読んで、登場人物たちがドキドキしたりしてるのをによによして楽しんでるだけであって、自分がそれをしたいかっていうとそういう訳では……!
「はっ!?」
ウニリィは立ち上がって周囲を見渡した。公爵家の令息のお出かけである。当然馬車には従者がついていたが、彼らはこの場にはいない。馬車で待機しているはずだが……。
だがしかし、この席が見える木の陰やら隣の建物の2階やらから視線を感じる。
彼らは遠くからウニリィたちをによによと見つめていた。
そのうちの一人が親指を立てて笑う。
「うう、私もバカップル眺めてる立場が良かった……」
ウニリィはふらふらと椅子につくと、ふーっと息を吐いて覚悟を決め、マグニヴェラーレに宣言した。
「やりましょう!」
「うむ」
二人は同時にストローをくわえて、ずぞぞと甘いジュースを吸った。
……想像以上に顔が近い。
赤面してるであろう顔の熱が伝わりそうだ。顔が良い。真っ直ぐな鼻梁、ジュースに落とされた視線を飾る長く伸びた銀の睫毛。
見つめていると視線が合う。逸らそうにもストローをくわえてるから逃げられない。
……ずずずずず。ごくり。
ぷはぁ、と息をついてウニリィは仰け反った。
「無理ぃ……!」
「無理ですか」
「目の前の顔が良すぎるぅ……」
今度はマグニヴェラーレが赤面した。
二人はこのカフェを出た後も宝飾品店に行けばカップル用のアクセサリー、ハートモチーフのペアリングなどを激しく薦められたりした。ランチにレストランに行けばカップル用シート、二人がけなのに半端に小さいソファに座らされたりもした。公園を散策し景色を楽しみ、ちょっと屋台でドリンクを頼めばまたアベックストローが挿さっていた。
「これが世の男女に人気のデート……!」
マグニヴェラーレは泉に面した瀟洒なベンチに腰掛け、少しぐったりした様子で言う。
「いやこれ絶対トリュフィーヌさんやリンギェさん、あとは侍女さんたちに遊ばれてますって」
その隣でウニリィは苦笑する。ここまでコテコテのデートコースを出されるとはと、もはや笑ってしまう。
「そうか」
「お嫌でした?」
「嫌ではない。嫌なものか、君と出かけているのだ。幸せだとも。ただ少し気疲れしただけで」
「私もです。今日は楽しかった。でも今度はもう少しゆっくりしたお出かけにしましょうね」
「そうだな」
マグニヴェラーレは立ち上がり、ウニリィに振り返る。
「さて、残念ながらデートはここまでです。自分は城に向かわねば」
「はい、お仕事頑張ってくださいね」
ウニリィはぐっと握りこぶしをつくるような仕草をみせた。
マグニヴェラーレはゆっくりと腰を折る。ウニリィは手の甲にキスしてくれるのかとドキドキしてそれを待った。
だがマグニヴェラーレはウニリィの手を取らず、ベンチの背もたれに手をつくと、そっとウニリィの柔らかな頬を唇でついばんだ。
「ひゃっ……!」
「では行ってきます」
マグニヴェラーレはそう言い残して去っていった。
「~~~~っ!」
ウニリィは内心で激しい悲鳴をあげ、しばらくベンチから立ち上がることもできなかったのだった。
若様が、若様がチューしたぞ!
うおおおお!
これは奥様への報告がはかどる!
ξ˚⊿˚)ξって感じの従者たち







