第158話:まあまあまあ!
マグニヴェラーレから初めて頬にキスをされて、ベンチでしばし呆然としていたウニリィである。しばらくすると、ぴくりとも動かなくなったかと思いきや、突然頬を赤く染めてみたり、ぐねぐねと身を捩ったりし始めた。
「ままー、あのおねーさんなにしてるのー」
「しっ、目を合わせちゃいけません」
通りがかりの幼児に、変な人がいると思われている様子である。母親は関わりたくないと思ったのか子供を連れてそそくさとその場を後にした。
少し離れてウニリィを護衛している従者たちは、彼女の反応をによによと見守っていたが、淑女の悪評を立てるわけにはいかない。
一人が近づき声をかける。
「大変恐縮ですがウニリィお嬢様、そろそろ冷えてまいりますので……」
「あっ、は、はい」
実際、もう夕方であるし公園のベンチでくねくねし続ける訳にもいかないのである。ウニリィは従者のエスコートで馬車に乗り込み、とても心が温かく、ふわふわとした気持ちでパカパカと馬車に揺られてミドー公爵邸に戻ったのである。
そしてふわふわとした気分でいられたのはここまでだった。
「ウニリィお嬢さんが帰っていらっしゃいましたー!」
馬車が公爵邸にたどり着くなりメイドが屋敷に向かって叫び、トリュフィーヌやリンギェ、それに公爵家の侍女たちがぞろぞろと馬車留まりに姿をあらわした。
その背後には巨大な緑色のスライムもウニリィの戻りを喜ぶようにふるふると揺れているのだが、それは護衛たちに押さえられている様子であり、ウニリィはそちらにただいまと言うまもなく女性たちに取り囲まれた。
公爵家の女性陣が総出でお出迎えである。たかが男爵令嬢の帰宅を公爵夫人その人が屋敷の前まで出迎えることなどあり得るべきことではない。
「えっと……、お出迎えありがとうございま……す?」
馬車の扉が開いたところで、ウニリィは思わず固まってそう言った。
「ええ、ウニリィさんおかえりなさい」
従者が馬車に取り付けた数段の階段を降りきる前に、トリュフィーヌがウニリィに声をかけ、その手をとって尋ねた。
「今日のデートは楽しかったかしら?」
公爵夫人は問う。まあ、アベックストローやらなんやら、色々と恥ずかしいこともあったし彼女たちが楽しむためのコースであって恋愛初心者のウニリィとマグニヴェラーレには厳しいコースであったような気もするが、楽しかったかと問われれば楽しかったのは間違いない。
ウニリィは笑みを浮かべて肯定した。
「はいっ、みなさまデートコースを考えていただきありがとうございました」
「まー、それは何よりだわ。詳しく話を聞かせてちょうだい。ささ、入って入って」
そして女性たちに囲まれて応接室へと連れ込まれたのであった。そして始まるのは今日一日の尋問である。
「ちぃ兄様のエスコートどうでした?」
「アベックストロー楽しみました?」
「宝石はどういったものを?」
皆、口々にウニリィに尋ねるので
「今日のヴェラーレさんは普段より軽やかな色の服で、普段とはまた違って魅力的で……」
「おぉぉ」
ウニリィの惚気に感嘆の声が上がる。
「アベックストローは恥ずかしくてダメですよ!」
「でも顔がぐっと近づくの良くないですか?」
侍女の言葉にウニリィは赤面して顔を隠した。
しかし、だからと言って追及は終わらない。トリュフィーヌは従者を呼んだ。
「報告を」
「はい、ウニリィお嬢様は最初の一口の後、仰け反って『無理ぃ』と」
「まあ、無理でしたか」
「いえ、『目の前の顔が良すぎ』て無理と」
「まあまあまあ!」
従者の報告に女性たちは湧く。
そして話は今日の最後、マグニヴェラーレが仕事に向かうために分かれるシーンにかかった。
「公園のベンチの雰囲気は良かったです」
「それでどうなったのかしら?」
「そ、それでですね」
ウニリィは口ごもる。女性たちに熱が籠る。
従者が咳払いを一つ。人の口から言われたい者でもない。ウニリィはか細い声で言った。
「私がお仕事頑張ってくださいと言ったら、ヴェラーレさんがその……別れ際にキスを……」
「まー! ヴェラーレからキスを!」
女性たちはどよめいた。
「くっ、やりますね……」
何人かの侍女がそう言って卓の上にじゃらじゃらと硬貨を置く。
「それでそれで? どこに口付けたのかしら。よもや指先とは言いませんわよね?」
「えっと、その……頬に……」
っしゃ、っとリンギェがガッツポーズを決めて、母は天を仰いだ。
「くっ、ヘタレめ……」
「ちぃ兄様がいきなり口はいかないですわ、お母様」
何人かの侍女と公爵夫人は卓上にまたじゃらじゃらと硬貨を置き、リンギェはそれを自分の側にかき集めた。
ウニリィは叫ぶ。
「ちょっと、私たちのデートで賭けてたんですか!?」
「こんな面白いこと賭けないはずがなくってよ」
まあ、賭け事は貴族の嗜みである。トランプ、ボードゲーム、決闘、競馬……そしてこういった日常の中での出来事も。特に恋愛絡みは女性たちにとっては勝っても負けても楽しいものだ。
翌日は賭けを総取りしたリンギェの差し入れで使用人たち全員に美味しい菓子が差し入れられて、ウニリィもその相伴に預かったのである。
ともあれこうして日々はすぎ、ついに祝勝会の日を迎えるのであった。
ξ˚⊿˚)ξ作家仲間で集まって飯食ってたから投稿が遅れました!(言い訳)
作家仲間に東京土産としてウニリィの一巻を渡すなどする。
みなさまもお土産にウニリィをぜひ!







