(9)拾った聖女の全肯定
静寂が戻った。
半分消し飛んだ森と、綺麗な青空。そして、泥だらけの金髪聖女。
「……ふぅ。さて、薬草、薬草と」
俺が何事もなかったかのように地面に落ちている草を探し始めると、背後から「ドサッ」と音がした。
振り返ると、少女が両膝をつき、祈るような姿勢で俺を仰ぎ見ていた。
「お、お救いいただき、ありがとうございます……! まさか、伝説に聞く『隠されし古代の賢者様』にお会いできるなんて……!」
「いや、だから俺はただのFランク――」
「いいえ! 詠唱もなしに、魔力光すら見せず、ただの一呼吸で相手の魔法と武装を無に還す……そんな御技、この世界の誰にも不可能です! あなた様こそ、濁った世界を救うために天から遣わされた、真の救世主様に違いありません!」
少女の目が、限界突破した熱量でキラキラと輝いている。
ギルドのセリアに続き、また一人、俺を全肯定してくる人材が現れてしまった。
「……あの、とりあえず足の怪我、見せてもらえます?」
「あ、はい……。これは第一王子の呪い魔具による傷で、通常の回復魔法では完全に治癒できず、じわじわと魔力を奪うものでして……」
「ふーん。じゃあ、その『呪いの概念』だけ消しますね」
俺が少女の太ももの傷口にそっと手をかざし、頭の中で(呪いだけ消えろ)と念じる。
一瞬、黒いモヤのようなものが這い出し、そのまま空気中に溶けるように消滅した。
直後、傷口がみるみる塞がり、元の白い綺麗な肌へと戻っていく。
「なっ……聖級の解呪呪文すら弾く呪いが、触れただけで……!?」
少女はついに感動のあまりポロポロと涙を流し始め、俺の手を両手で包み込んだ。
「決めました。私、エレノアは、これより生涯をかけてあなた様にお仕えします! あなた様が望むなら、世界の理を書き換える旅にでも、どこへでもお供いたします!」
「いや、俺が望むのは『働かずにダラダラ過ごすこと』なんだけど……」
「素晴らしいです! 『何もしないことで世界の調和を保つ』という、高次元の精神性……! どこまでも付いていきます、ダイス様!」
「話が通じないな、この聖女様……」
こうして、俺の平穏なFランク生活に、俺を神格化して全肯定してくる「元聖女」の美少女が加わることになった。
俺のスローライフ計画は、早くも軌道修正を余儀なくされていた。




