(7)トラブルは向こうからやってくる
「……えっと、大丈夫ですか?」
俺はできるだけ刺激しないよう、ゆっくりと少女に近づき、視線を合わせた。
金髪の少女は、傷ついた足をかばいながら、驚愕のあまり言葉を失っている。無理もない。目の前の森が半分消滅して、代わりに綺麗な青空が広がっているのだから。
「あ、あの……今のは、あなたが……?」
「いや、まさか。ただの自然現象ですよ。最近の異常気象って怖いですね」
「そんなバカな言い訳があるかぁぁぁ!!」
森の奥から、俺の雑な嘘をかき消すような怒号が響いた。
草むらをなぎ倒して現れたのは、重厚な黒鉄の鎧に身を包んだ、いかにも「悪役の私兵」といった風貌の男たち五人。その中央には、一際大きな魔力を放つ魔導師が立っていた。
「見つけたぞ、出来損ないの聖女め! どこへ逃げようと、王太子の婚約破棄からは逃れられ――ん? なんだ、この地形は……!?」
追手のリーダーらしき男が、突如として出現した「半円形の巨大なさら地」を見て、ピキリと動きを止めた。
「おい、森はどこへ行った!? ターゲットはどこだ!」
「あ、あの、あそこに……男と並んで座っています!」
部下の一人が俺たちを指差す。
金髪の少女――どうやら訳ありの『聖女』様らしい――は、恐怖で俺のローブをぎゅっと掴んできた。
「巻き込んでしまって申し訳ありません……っ! 彼らは第一王子派の暗殺部隊です。私の回復魔法では、彼らの呪いの刃には抗えなくて……。あなたはどうか、今のうちに逃げてください!」
自分が絶体絶命の状況なのに、見ず知らずのFランク(に見える)俺を逃がそうとするなんて、根が良い子なのだろう。前世のブラック企業で、手柄を横取りし合っていた同僚たちに見せてやりたい爪の垢、本日二人目である。
「おい、そこらの一般人! 運が悪かったな、聖女の逃亡を手助けした罪で、まとめて首を跳ねてやる!」
男たちが一斉に抜剣し、殺気を放ちながら突撃してくる。
背後の魔導師は、得意げに長々とした詠唱を始めた。
「――大気をも焦がす烈火よ、我が命に従い敵を焼き尽くせ! 『爆炎槍』!!」
約五秒。この世界にしては早い詠唱なのだろう。
魔導師の前に、直径一メートルほどの激しい炎の槍が形成され、俺たちを目がけて放たれた。
「危ないっ!」
少女が叫ぶ。
だが、俺は座ったまま、迫り来る炎の槍に向けて、ふっと息を吹きかけた。




