(6)Fランクの「庭掃除」
「よし、それじゃあ記念すべき初仕事といきますか」
俺がギルドの依頼板から剥ぎ取ってきたのは、最も簡単な『薬草の採取』。
場所は都市のすぐ裏手にある「迷いの森」の浅瀬だ。
時折、最弱の魔物である『ゴブリン』が出る程度のリハビリにはもってこいの場所らしい。
カサリ、と草むらが揺れる。
「ギチチッ!」
現れたのは、緑色の肌をした小柄な魔物。事前情報の通り、ゴブリンだ。
手には錆びたナイフを持っている。
「初戦闘だな。よし、今度こそ『極小』の出力で、周囲に被害を出さないように……」
俺は右手の親指と人差し指で、小さく輪を作った。
イメージするのは、デコピン程度の衝撃。これなら森も吹き飛ばないし、クレーターもできないはずだ。
「【概念消去】(デコピン版)」
パチン、と指を弾く。
ズガァァァァァァァン!!!
「……あ」
目の前のゴブリンが消滅したのは言うまでもない。
だが、その背後にあった「迷いの森」の約半分が、まるでスプーンで綺麗にくり抜かれたかのように、丸ごと消失していた。
あまりの風圧に、上空の雲まで真っ二つに割れている。
遠くの方で、都市の防衛警報が「ウゥゥゥゥン!」と再び鳴り響くのが聞こえた。
「おかしいな……これでも出力『一億分の一』くらいに抑えたつもりだったんだけど……」
俺が頭を抱えて座り込んでいると、草むらから「ひえっ……!?」という短い悲鳴が聞こえた。
しまっ、誰かに見られたか!?
慌てて振り返ると、そこには豪華なドレスを泥だらけにし、息を切らせて倒れ込んでいる、一人の美しい少女がいた。
輝くような金髪に、気品のある顔立ち。だが、その太ももからは血が流れている。
「あ、あなたはいったい……? 今の、無詠唱の聖級魔法、ですか……?」
少女は怯えと、それ以上の圧倒的な希望が混ざった瞳で、俺をじっと見つめていた。
彼女の背後の森(消し飛んでいない側)からは、さらに不穏な気配が近づいてきている。
どうやら、俺の望む「静かなスローライフ」への道のりは、想像以上に険しいものになりそうだった。




