(5)招かれざる「特別扱い」
「えっと……つまり、ダイスさんは登録初日にして、単独で厄災級を『消し飛ばした』ということで、お間違いないでしょうか……?」
翌朝。ギルドの最奥にある、普段は誰も通されない「ギルド長室」の重厚なソファーで、俺は冷や汗を流していた。
対面に座る受付嬢のセリアは、引きつった笑みを浮かべながら、震える手で羊皮紙の書類をめくっている。
「いや、その、俺も必死だったというか……ちょっとした手違いと言いますか……」
「手違いで『深淵の悪魔』は消滅しませんっ! 街の防壁の外、見てください! 悪魔がいた場所の地面、えぐれるどころか、分子レベルで綺麗になくなってるんですよ!?」
セリアが身を乗り出してくる。
昨日までの「頼りない新人を見る優しい目」はどこへやら、今の彼女の目は、未知の古代兵器を発見した考古学者のようにギラギラとしていた。
「本来なら、この規模の功績は国家勲章モノです。冒険者ランクも、一気に最高の『S』に飛び級してもおかしくないのですが……」
セリアはそこで一度言葉を切り、少し声を潜めた。
「ダイスさん。あなた、本当は目立ちたくないんですよね?」
「……え? ああ、うん。できれば、のんびり静かに暮らしたい」
「ですよね。あんな規格外の魔法をポンポン撃つ人が世間に知られたら、間違いなく王宮の権力闘争に強制徴用されるか、隣国の暗殺者に命を狙われます。私としても、命の恩人をそんな目に遭わせたくはありません」
(めちゃくちゃ話のわかる受付嬢だ……!)
俺は心の中でセリアを全肯定し、拝みそうになった。ブラック企業の上司に爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
「そこで、私から一つ提案です」
セリアはニヤリと、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「表向き、今回のアバドン討伐は『都市防衛結界の暴走による相打ち』ということに処理しておきました。その代わり――ダイスさんには、当ギルドの『特任・隠密枠』として登録していただきます」
「隠密枠?」
「はい。普段は最低ランクの『F』として、街の雑用や簡単な採取依頼を受けていてください。誰もあなたに注目しません。ですが……もしまた、今回のような『街が滅びかねない危機』が起きた時だけ、裏でこっそり処理してもらう。これなら、お互いに Win-Win だと思いませんか?」
「なるほど、実質的な窓際族、いや、社内ニートみたいなものか。最高じゃないか」
「……あの、最後の方に不穏な単語が聞こえましたが? ともあれ、契約成立ですね!」
こうして、俺の「偽装Fランク」としての生活がスタートした。
ギルドの執務室を出ると、昨日俺をバカにしていた冒険者たちが、遠巻きに俺を見てヒソヒソと囁き合っている。
「おい、あのFランクの坊や……昨日の一撃、見たか?」
「いや、結界の暴走って発表されたろ? 偶然あそこにいただけだって」
「でもよ、あの魔力水晶を砕いたのは事実だろ……? 近寄らねえ方が身のためだぜ」
畏怖と猜疑心が混ざった視線。だが、これでいい。
絡まれることもなければ、面倒な派閥争いに巻き込まれることもない。俺は念願の「何もしなくていい自由」を手に入れたのだ。




