(3)絶望の黒煙
ギルドがパニックから立ち直る間もなかった。
ウゥゥゥゥゥン――!!!
都市全体に、聞いたこともないような不気味な警報が鳴り響いた。
直後、ギルドの扉が勢いよく開き、血まみれの兵士が飛び込んでくる。
「たい、大変だ! 街の南門に……『厄災級』の魔物が現れた!!」
その言葉に、ギルドの空気が一変する。
「厄災級だって……!?」
「まさか、あの『深淵の悪魔』か!?」
セリアの顔から、みるみる血の気が引いていくのが分かった。
「そんな……アバドンといえば、一国家の軍隊が壊滅するレベルの、Aランク指定の最凶悪魔ですよ!? なぜこんな、辺境の街に……!」
外から、地響きのような足音が聞こえてくる。
俺はセリアや他の冒険者たちと共に、ギルドの外へ出た。
街の防壁の向こう。
天を突くほどの巨体を誇る、黒い異形の悪魔がそこにいた。
全身から、触れるものすべてを腐食させる黒い霧を噴き出している。
「グオォォォォォォォ!!!」
悪魔が咆哮するだけで、街の強固な障壁がガラスのように粉砕された。
街を守る精鋭の騎士団が、必死に魔法を唱える。
「総員、詠唱を急げ! 『大火球』だ!」
「だめです! 詠唱に三十秒かかります! 間に合わない――」
悪魔が巨大な腕を振り下ろす。
それだけで、数十人の騎士たちが一瞬で吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
ベテラン冒険者たちも、その圧倒的な暴力の前に、武器を落としてへたり込んでいる。
「無理だ……勝てるわけがない……」
「終わりだ。この街は、今日滅ぶんだ……」
セリアが、俺のローブの裾を震える手で掴んできた。
恐怖で涙を流しながら、それでも俺を庇うように前に出ようとする。
「ダイスさん、逃げてください……! あなたのような規格外の才能を持った人を、こんなところで死なせるわけにはいきません……っ!」
周囲を支配するのは、圧倒的な「死」の予感と、底なしの絶望。
誰もが、己の無力さを呪い、天を仰いでいた。




