(2)ギルドの常識、俺の非常識
森を抜け、俺は人類の拠点である城塞都市『グランデル』へと辿り着いた。
まずは生活の糧を得るため、冒険者ギルドの門を叩く。
「いらっしゃいませ。新規登録ですね」
窓口で対応してくれたのは、エルフの受付嬢・セリアだった。
彼女は愛想のいい笑みを浮かべながら、ギルドの基本ルールを説明し始める。
「当ギルドでは、魔力の適性検査を行っていただきます。この世界において、魔法は非常にシビアな技術です。初級の『火弾』一つ放つだけでも、最低十秒の詠唱と、一般人なら一日に数発で枯渇する魔力を消費しますからね。焦らず、ご自身の限界を知ることが大切ですよ」
周囲の冒険者たちも、酒を飲みながらこちらの様子をニヤニヤと眺めている。
「おいおい、また新しい坊やか」
「魔法使い志望か? 詠唱中に魔物に食われんなよ!」
ガハハ、と下品な笑い声が響く。
なるほど。この世界では、魔法を使うだけでも一苦労らしい。
十秒の詠唱? 一日一発?
さっき無詠唱で森を吹き飛ばした俺は、どう考えても表に出てはいけない存在だ。
「では、この『魔力測定の水晶』に手をかざしてください。体内の魔力を少しだけ流すイメージです」
セリアが差し出してきたのは、青く澄んだ頑丈そうな水晶だった。
上限は『魔導師ランク・S』まで計測可能だという。
(よし、できる限り、すごーーーく慎重に。一滴だけ垂らす感じで……)
そっと、指先を触れさせる。
ピキッ。
「え?」
セリアが目を見開いた。
次の瞬間。
パリィィィィィィン!!!
金属をも弾くと言われる特製の測定水晶が、激しい閃光とともに粉々に砕け散った。
それどころか、ギルド中の魔導具が一斉にショートし、バチバチと火花を散らして沈黙する。
「ひゃあっ!?」
セリアが悲鳴を上げて椅子ごとひっくり返った。
騒がしかったギルドが一瞬で静まり返る。
冒険者たちは、持っていたジョッキを床に落とし、口を半開きにしたまま俺を凝視していた。
「な、何が起きたんだ……?」
「測定器が……砕けた……? 嘘だろ、Sランクの魔導師が全力で込めてもヒビ一つ入らない代物だぞ……!?」
静寂の中、俺は冷や汗を流しながら、そっと手を引いた。
「あ、すみません。弁償、します……」
やってしまった。
これだから、前世の常識で動くのは危険なんだ。
俺はセリアを手際よく抱き起こしながら、心の中で猛省した。




