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(1)死と、怠惰への目覚め

午前二時のオフィス。

ディスプレイの光だけが、ひび割れた視界を照らしていた。


「……あ、これ、ダメなやつだ」


心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。

月三百時間の残業。理不尽に怒鳴り散らす上司。

すり減った人生の終着点が、この冷たいデスクの上。


(もう、働きたくないな……)


それが、俺――佐藤大輔の最後の記憶だった。



「――目が覚めましたか、迷い人の子よ」


次に視界に飛び込んできたのは、神々しい女神の姿と、真っ白な空間。

女神は憐れむような目で俺を見下ろし、言った。


「過酷な生を終えたあなたに、新たな命と、願う能力を一つ授けましょう」


前世の記憶が、濁流のように脳裏をよぎる。

搾取され、奪われ、必死に抗っても報われなかった日々。

もう、あんな思いは御免だ。戦うのも、競い合うのも、誰かのために身を削るのも嫌だ。


「……誰も俺を脅かさない、圧倒的な力が欲しい。それがあれば、誰にも邪魔されずダラダラ生きられる」


「分かりました。では、あらゆる事象を根底から掻き消す権能――【概念消去ディスピア】を授けます。あなたの平穏な旅路を祈ります」


光に包まれ、俺の意識は再び暗転した。



気がつくと、俺は深い森の中に倒れていた。

衣服は中世風のローブに変わっている。体も軽かった。


(本当に、異世界に来ちまったのか)


ステータス、と念じてみる。

目の前に半透明のウィンドウが現れた。


名前:ダイス

年齢:18

魔力:∞

固有スキル:【概念消去】

常時発動:【無詠唱】【魔力自動超回復】【全言語理解】


「……は?」


魔力、無限?

それに、無詠唱ってなんだ。


試しに、目の前にある転がった巨岩に向けて、手をかざしてみる。

前世のラノベの知識を頼りに、「魔力の弾」をイメージした。


瞬間。


ドォォォォォン!!!


言葉を発する間すらなかった。

一瞬で放たれた不可視の衝撃波が、巨岩どころか、その背後に広がる森の木々を数百メートルにわたって消滅させていた。

跡地には、綺麗な直線状のクレーターだけが残されている。


「……あ。これ、アカンやつだわ」


強すぎる。

こんなの、真面目に使ったら確実に世界の勢力争いに巻き込まれる。

せっかく手に入れた第二の人生だ。今度こそ、絶対に働かず、目立たず、スローライフを送ってやる。


俺は静かに、固い決意を胸に抱いた。

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