(12)特級鑑定官の「傲慢」
「君が、魔力測定器を『壊した』という噂の新人かね?」
ルシウスは傲慢な笑みを浮かべ、机の上に、昨日までのものとは比べ物にならないほど巨大な『最上級鑑定水晶』を置いた。
「前の測定器は旧型だ。あれが壊れたのは単なる不具合だろう。だが、この王宮特製の水晶は騙せない。さあ、手をかざすがいい。君が『アバドンを消し去った狂人』なのか、ただの運が良いだけの無能なのか、一瞬で判別してあげよう」
周囲の冒険者たちも、固唾を呑んで見守っている。
「おいおい、あの特級鑑定官、マジでダイスを疑ってんのか?」
「結界の暴走じゃなかったのかよ……」
セリアが青い顔で俺を見つめ、エレノアはいつでも聖なる光でルシウスを吹き飛ばせるよう、背後で静かに魔力を練り始めている。
(チッ……完全にロックオンされてるな。普通に魔力を流せば、またこの街が消し飛ぶレベルのエネルギーが感知される)
なら、やることは一つだ。
俺は、自分の右手に流れる魔力そのものではなく、この鑑定水晶が持っている『魔力を感知する』という『機能の概念』そのものを消去することにした。
「……分かりました」
俺はそっと、最上級鑑定水晶に手を触れた。
しん、と静まり返るギルド。
一秒。二秒。三秒。
……水晶は、輝きもしなければ、砕けもしない。ただの透明なガラス玉のように、静かに佇んでいた。
「……ん? おかしいな」
ルシウスが眉をひそめ、水晶を叩いた。
「反応が、ない……? 魔力総量『ゼロ』……いや、それどころか、この水晶が魔力を検知する霊素回路そのものが、完全に機能していない……!? バカな、王宮の至宝だぞ!?」
ルシウスが焦って何度も魔力を注ぎ込むが、水晶は完全に沈黙している。
なぜなら、その水晶は今や『魔力を測る』という概念を失い、ただの『綺麗な石ころ』に変えられてしまったからだ。
「つまり、俺は魔力ゼロの、ただの一般人ってことですね?」
俺はトボトボとした声を装って言った。
「そ、そんなはずはない! 貴様、何か細工を――」
「そこまでにしてください、ルシウス様」
凛とした声が響いた。
背後から一歩前に出たのは、フードを深く被っていたエレノアだ。彼女がゆっくりとフードを外すと、その圧倒的な聖気の輝きに、ルシウスの顔が恐怖で強張った。
「な……聖女、エレノア様!? なぜこのような辺境に……!」
「このお方は、私が保証するただの一般の冒険者です。王宮の至宝が壊れていたからといって、無実の者を疑うのは、特級鑑定官の慢心ではありませんか?」
「くっ……あ、いや……しかし……!」
元・国の象徴である聖女直々の言葉に、ルシウスはそれ以上何も言えなくなった。彼は真っ赤な顔をして、機能を失った石ころを抱え、逃げるようにギルドを立ち去っていった。




