推し自分の価値を知る
明鏡刀花のイベントステージが始まり、ステージのモニターに文字が映し出された。
モニターには『明鏡刀花の担当キャラを語ろう』と書いてあった。
「それでは最初のプログラムは明鏡刀花のキャラを語りあいましょう。最初は北山さんお願いします」
司会の本晴蓮がお題を読み上げ、ステージにいる声優に話を振り始めた。
「え!? 僕ですかぁ? うーんそうですね、僕が担当する不死神朱蓮の魅力と言ったらやはりその圧倒的な強さですね。圧倒的な強さが彼のカリスマ性の高さに繋がってると思いますし、だから星五なのかなって思います」
「最高レアのシークレットレアの星五ですからね」
「レア度自慢ですか?」
本晴蓮と翔南遙に茶々を入れられて北山淳介は恥ずかしそうに笑みを見せた。
「夕紅光だってウルトラレアの星四じゃないですか」
「あーレア度自慢いけないんだぁ〜凛ちゃんが可哀想じゃん」
「翔南さん、私は別に気にしていませんからぁ」
「そうですよ。レア度で優劣はつきませんからね」
翔南遙さんが西木凛さんに話を振ったがうまく返せなかったところを朝霧透さんがすかさずフォローする。
ステージに慣れている声優とゲームデザイナーといったところだろうか、話題の振り方と進行が上手だ。
「じゃあ翔南さんはどうなんですか? 夕紅光の魅力はなんだと思いますか?」
北山淳介に話を振られた翔南遙は自信満々に胸を張って話し始めた。
「私の演じる夕紅光の魅力と言ったらなんと言っても冷徹なその視線と冷酷さ・・・そしてその中にあるデレというギャップですね!」
「・・・ギャップ?」
頭の上に疑問符を浮かべていそうな司会の本晴蓮に翔南遙の喋るスピードが上がった。
「そうデレです! 夕紅光は敵にも仲間にも冷たい態度を取るんですよ! だけど、信頼した仲間にだけ見せる安心し切った顔と、声色、そして態度! 一見寒そうな、かまくらも中に入ると暖かいじゃないですか! 夕紅光にはそんな見た目だけで判断するなという魅力があるのですよ!」
「なんという熱弁。翔南さんの夕紅光の愛が伝わってきましたね」
ステージを見ていた俺からしたら、先ほどまで大人しく座っていたお姉さんが早口でキャラを語るほうにギャップを感じた。
「さてでは、最後に西木凛さんが担当する東雲桃の魅力をお願いします」
「はい・・・私の演じる東雲桃の魅力は健気なところ・・・ですかね」
「健気・・・ですか?」
「はい、私は東雲桃を演じていてセリフの端々から健気だなって思うんです。好奇心旺盛でトラブルメーカーだけどそれは主人公のために一生懸命に動いてるからだなと演じてて感じるんです」
西木凛の言葉を聴いて、脳裏に推しとの生活がよぎった。
推しが学校に来た時も、自分のことを心配している俺を気遣って元気な姿を見せに来たんじゃないか。
料理を作った時も俺が料理をできないのを気にしているから料理作りを頑張っていたのではないか。
このアニメワールドフェスに来たのも、もしかしたら俺に楽しんで思い出を作って欲しいからなのだろうか。
推し自身がゲームの中に帰っても俺が寂しくならないように。
隣にいる推しを見ると、推しは確信をつかれたかのように目を見開いていた。
「桃・・・このイベントに来たのって・・・もしかして」
「・・・さすがは私を演じる声優さんですね。私よりも私のことを知っていますね・・・」
ステージの声が聴こえなくなるほど、隣にいる推しに目を奪われてしまう。
推しが悲しそうな表情をしていたからだ。
「奏殿は・・・私がいなくなったら寂しいですか?」
「それは・・・」
喉奥に言葉が詰まるのを感じた。
本音を言ってしまえば寂しい。
だけどその言葉を口に出してしまっていいのか。
もし口に出してしまったら推しを、東雲桃を現実世界に縛り付けてしまうような気がした。
「朝霧透さんありがとうございました。では次のプログラムにいきましょう」
言葉を出す前に司会の声で言葉を打ち消され、意識はステージへと向いた。
ステージのモニターにはゲーム最新情報という文字が映し出されていた。
「ゲーム最新情報ということですが、朝霧さんお願いします」
「それではゲームの最新情報をお届けします。スライドお願いします」
ステージのモニターが変わり、あるキャラの姿が映し出された。
桜柄の水着を着たをした茶髪の女性がモニターに映っている。
そのキャラの顔はどこか照れ臭そうに顔を赤ながらも、藁帽子を深く被るように手で押さえていた。
その姿は見たことはないが、その顔は何度も見ている人物の顔だった。
「この夏、明鏡刀花の水着イベントを行います。その水着キャラの立ち絵です」
会場から驚きの声が聴こえるともに、盛り上がるように歓声が聴こえた。
「これは制作途中ですが、東雲桃の水着衣装です」
「夕紅光や不死神朱蓮の水着もあるんですか?」
「制作中ですが期待はしててください翔南さん」
「星一のキャラにスポットが当たるとは嬉しいですね。西木さん」
本晴蓮に話を振られて、西木凛は照れ臭そうしていた。
「えぇ・・・そうですね。とても嬉しいです」
「ところで水着イベントはいつ頃実装ですか? 朝霧さん」
「七月の上旬には実装予定です」
「なるほどところでなんで東雲桃なんでしょうか?」
本晴蓮の言葉に朝霧透はその話題を待っていたと言いたげな笑みを見せた。
「僕にとって東雲桃は思い出深いキャラでしてね。子供の頃から考えていたキャラを作れてゲームに実装できたので、僕は東雲桃好きなんですよ。レア度も低いし性能も低いけど」
「子供の頃から考えていたキャラを実装できたとは、それは夢が叶ったようなものじゃないですか」
「フフッそうですね。だけど夢を叶えただけじゃあダメだと思いますよ僕は」
朝霧透はステージに目を向けた。
朝霧透の視線はこちらに向いていた、正確には俺の隣にいる東雲桃に。
「夢を見たら次は叶える。そして叶えて終わりじゃダメなんですよ、夢の続きを見るために・・・夢から醒めないように努力していかなきゃ」
「というと・・・つまり?」
「キャラの魅力を上げるために、そのキャラの魅力を追加していかなきゃダメなんですよ。みんなに愛してもらえるようにね」
「深いお言葉ですね。朝霧さんありがとうございました」
司会の締めの言葉とともに会場に拍手が巻き起こった。
その拍手の中で朝霧透の言葉を繰り返した。
「みんなに愛してもらえるように・・・」
朝霧透の言葉が胸中に突き刺さった。
推しとの夢のような生活を続けていていいのだろうか。
推しは、東雲桃は俺だけのものではないのだと、会場の盛り上がりを聴けばわかる。
東雲桃はもっとみんなに愛されるキャラになるのではないか。
「・・・桃、俺は君がゲームの中に帰っても・・・ってあれ!? いない」
先ほどまで隣にいたはずの東雲桃がいない。
ステージの上では明鏡刀花の最新情報やアップデートの情報紹介が続いていた。
普段なら興味をそそられる情報だか、俺の耳はその情報を悠長に聴いているほど余裕はなかった。
「すいません! 通してください」
俺はステージを見るために集まる観客の間を押し除けて、東雲桃を探す。
桜柄の着物は必ず目立つはずだ。
この人混み中でも必ず見つけられるはずだ。
そう考えて会場の中を探して回った。
「ハァハァ・・・いない」
会場内を探して一時間が経とうとしていた。
会場内をくまなく探したが、東雲桃の姿はない。
あの茶髪の髪と桜柄の着物は目立つはずなのに、何故か見つからない。
「なんで見つからないんだ。まるで姿が消えたような・・・消えた? そうか!」
ふと自分の吐き出した言葉に気がつき、会場の隅を探した。
そしてある柱の影にお札が不自然に貼ってある場所を見つけた。
ミミズのような文字が書いてあるお札が俺の膝のあ辺りの高さに貼ってあった。
その札を剥がすと、柱の風景がが壊れるように崩壊した。
その中からは膝を抱えて座るように丸くなる東雲桃の姿があった。
認識阻害の札を使ってここで隠れていたのだろう。
見つかったことに気がつくと、東雲桃は手で赤くなった目を擦り始めた。
顔は赤く腫れており、ずっと泣いてたことを物語っていた。
「奏殿・・・みっともないところを見られてしまいましたね・・・」
「どうしたの桃? なんで泣いてるの?」
泣いている理由がわからず、思わず聴いてしまった。
いいや、泣いている理由はなんとなくだがわかっていた。
それは俺が恐れていたことだと思いたくないから、違う理由であって欲しいと願うから答え合わせをしたかったのかもしれない。
「私は奏殿達が言うゲーム中で私なりに頑張ってきました・・・だけど私の価値は不死神殿や夕紅殿よりも低かった。あの世界での私の価値は最低評価だと・・・」
やはりそうだった、イベントステージでの声優さん達の会話を聴いて推しは気がついてしまったのだろう。
自分がゲームの中の存在であることに。
そしてそのゲームの中の自分の評価に。
「・・・とりあえず、もう帰ろうか。ここだと気持ちも落ち着かないでしょ」
かける言葉が思いつかず、帰るように促し推しに手を差し伸べた。
推しは溢れる涙を拭きながらも、俺の手を掴んだ。
推しの手は涙でぐっしょりと濡れていた。
涙に濡れた推しの手を引いて歩いていると、目の前に帽子とサングラスをした女性が目の前に立ち塞がった。
肌を隠すようにする長袖を着ており、体の輪郭から女性であることがわかる。
「あの、すいませんちょつと今急いでいて」
「あ、あの少しだけでいいのでそちらのコスプレイヤーさんとお話しできませんか?」
その声を聴いて俺は目を丸くした。
聞き覚えのある声だったからだ。
何度も日常的に聴いており、その声は今手を引いている推しの声そのものでもあった。
「あの・・・ひょっとしてあなた・・・西木凛さん?」
「・・・・・・そうです。彼女の心に余裕がないのは理解していますが伝えたいことがあって、今しかないと思ったので・・・よろしいですか?」
推しの顔を見ると、推しは涙を拭うと首を縦に振った。
それを見て俺は推しの手を離して、二人から少し距離をとった。
「私・・・東雲桃が始めて名前があるキャラだったんです」
推しは赤く腫れた顔で西木凛を見ていたが、その涙は止まっていた。
「会場で東雲桃のコスプレをしているあなたを見て、声優をしてて本当に良かったと思えたんです」
「なぜですか? 私は星一の価値の低いキャラですよ」
「それでも・・・私にとっては嬉しかったです。あなたのように私と同じキャラを好きになってくれる人と出会えて」
西木凛の言葉は裏表のない誠実なもののように感じた。
伝えることが終わったのか、西木凛は軽く会釈すると走って会場の人混みの中に消えていった。
西木凛と話して、推しの中で何かが吹っ切れたのか。
推しは戦闘の時に見せるような真剣な表情を見せた後、作ったようなハリボテの笑顔を俺に向けた。
「ご迷惑かけました奏殿。さぁ、帰りましょう」
「・・・・・・うん。そうだね帰ろう」
その後推しにゲームの中に帰りたいかどうかを聴くことができなかった。
推しがどちらの世界に残りたいのかを聴くことが俺は怖かった。
東雲桃の秘密その3
現実世界に来てからテレビや映画、特撮など様々な娯楽にハマった東雲桃だが、明鏡刀花の情報を調べようとしない。
それは東雲桃は無意識にゲーム内での自分の評価を知ることを恐れているからにほかならない。
もし東雲桃がゲーム内での自分の評価を知ってしまったならば・・・




