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俺が最も愛するゲームの推しが画面の外に出て目の前に存在しているのだが!?  作者: 内山スク
柿編

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22/23

推しコスプレイベントに参戦する

 都内某所。

 その会場は周りがビルに囲まれた庭園のような場所だった。

 都会の喧騒とはかけ離れ、花や木々が咲き誇る庭園は普段の静けさを忘れたように人で溢れていた。

 周りには本当に物語の世界から出てきたようなキャラ達が集まっている。

 それはコスプレだとわかっていたとしても、漫画やゲームの画面と変わらないほどのクオリティだった。

 場所がビルに囲まれた庭園なだけあって、童話や御伽話のような違う世界に迷い込んでしまった錯覚を覚える。


「おぉ! まるで異世界に迷い込んだようですね奏殿」


 俺の隣にいる桃は興奮したように張り切っていた。

 どんなに張り切ってもこのコスプレイヤーの中で一番再現度が高いのはもちろん桃だろう。

 だって本人なのだから。

 こちらの世界に出てきた時に持ってきた桜柄のピンクの着物、和桜(わおう)の着物と水蓮(すいれん)の草履を身につけ、腰には俺が課金して桃に装備させた日本刀、緋桜(ひおう)を差している。

 これで再現度低いとか言われたらそいつは視力が低いか明鏡刀花をプレイしたことがないか、美的センスのない人間だろう。


「写真いいですか?」


 カメラを持った若い男性が桃に声をかけてきた。

 どうやら桃の写真を撮りたいらしい。


「いいですよ」


 桃は刀を握り抜刀するようなポーズを取るとカメラを持った若い男性はカメラのシャッターを押す。

 シャッター音が鳴り終わり数秒すると桃はポーズをやめた。


「ありがとうございました」


「いえいえ〜」


 桃にお礼を言うとカメラを持った若い男性は去っていった。

 桃の写真を撮られるのは少し複雑な気持ちもあるが、推しの布教だと思えばいいか。

 あとで会ったら撮った桃の写真を貰えるか交渉しよう。


「奏殿! 楽しいですね」


「桃が楽しそうでよかった」


 久しぶりにゲームでの衣装を着れて桃も楽しそうだ。

 たまには外のイベントにも参加するのも悪くないかもしれない。


「ん? あれは何でしょう?」


「え? どれ?」


 桃の目線を追うと、人だかりができている場所があった。

 シャッター音とカメラのフラッシュが光っている。

 桃と俺は人だかりに近づくと、その人だかりの中心を人の隙間から覗いてみた。


「オーホッホッホどうぞ、私(わたくし)の美しい姿を撮ってくださいまし!」


 高笑いをしながらノリノリでポーズを決める女性がいた。

 昨日テレビで見た悪役令嬢が今目の前にいる。


「あ! リオン・ラック・パーシモン!」


 俺が名前を呼ぶと、リオンと目が合った。

 リオンは宝石のように輝く朱色の瞳で俺を見つめるた。

 そしてノリノリで撮っていたポーズをやめて硬直したように動きを止めた。

 数秒するとこちらに向けて歩き出した。


「すみません。突然ですが撮影はこれで終わりにしてくださいまし」


 リオンが歩みを進めると撮影していた人達はまるで海が割れるように自然と道が開けた。

 そしてリオンは俺と桃の目の前にきた。

 黙って俺と桃を見つめると、高圧的で怪しい笑みを浮かべた。


「待っていましたわよ。あなたたち」


「待っていた?」


「えぇ、私(わたくし)はあなた方に会いたくてこの場所に来ましたの」


「俺たちが来るのを待っていた? なんで初めて会うのに?」


「えぇ、だってあなた方に来てほしくて私(わたくし)はテレビで呼びかけたのですもの・・・」


 リオンの口角が下がり、怪しい笑みが消えた。

 笑みがなくなったその顔には先程までノリノリで写真を撮っていた悪役令嬢はいなかった。


「だって私(わたくし)は・・・私(わたくし)と同じようにこの世界に来た人とお会いしたかったのですもの」


 俺と桃の目の前には異世界から現代に帰ってきた一人の女性がいた。


          ***


 俺と桃はリオンに連れられて、コスプレ会場があった庭園から数分歩いた場所にあるカフェに案内された。

 リオンは椅子に背筋を伸ばして座り、皿に置かれた焼き菓子を丁寧に口に運び食べている。

 焼き菓子の破片がテーブルに落ちないように手を焼き菓子の下に当てていた。

 焼き菓子を食べているだけなのに、育ちがよく気品があることが伝わってくる。

 本当に前世が会社員だったなんて信じられない。


「さて、人払いも済みましたし本題に入りましょう」


「そうだね、じゃあ訊くけどなんで俺たちを待っていたの? どうやって俺たちの存在に気がついたの?」


 俺の中でリオンに訊きたいことが溢れ出して、次々と浮かんでくる。

 質問したいことは今口に出したことだけでない。

 どうやってこちらの世界に来たのかも訊きたいし、桃や栗島瞬鬼と同じならリオン・ラック・パーシモンのことが大好きなファンがいるはずだ。

 リオンは焼き菓子を口にし食べ終えると、口を開いた。


「あなた達のことを待っていたわけではありません。あなた達にこの場で出会ったのは運が良かっただけですわ」


「どういうこと?」


 答えの意味がわからなかった。

 待っていたわけではないのに偶然出会ったなら俺たちと出会った説明がつかない。


「私(わたくし)の作品をご覧になって?」


「いや、読んでないけど・・・」


「あら、そうですか・・・なら説明いたしますわね。私(わたくし)はとても運がいいんですの。あなた方に話しかけたのは私(わたくし)がそうかもしれないと感じてたまたま話しかけただけですわ」


「えっ? それじゃあ・・・もし・・・俺たちがただのコスプレイヤーだったらどうしたの?」


「その時はその時ですわ。ですけど私(わたくし)は運がいい・・・だからあなた達という当たりを引きましたの」


 異世界を体験した現代人だというに、何だか考え方がギャンブラーみたいだ。

 そんなことを考えていると隣に座っている桃が俺の肩をポンポンと叩いてきた。

 桃に視線を移すと俺のスマホで何かを調べていたのか、俺にスマホの画面を見せてきた。


「奏殿、これですよ! これ!」


 スマホの画面を見てみると、そこには漫画化した『人生に一度の不幸を体験したら後はオールハッピーな人生の悪役令嬢』が写っていた。

 桃が指差すその漫画の文章を読んでみる。


「国外追放されて不幸だと思っていたが、その不幸を清算するように幸運がやってきた?」


「そうですわ・・・これが私(わたくし)の能力と言いましょうか。私(わたくし)は幸運に愛されているのですわ」


 つまりリオンは幸運に愛されているということなのだろうか。

 桃も陰陽術を現実世界でも使えているし、こちらの世界に出てきても能力は問題なく行使できるのか。


「幸運だけじゃあないですわ、ピンクの着物を着たあなたの言動を見ればある程度察せられます。初めて見るようにカメラや庭園の花を興味津々に見ていたではありませんか」


 確かに言われてみれば、桃の見た目は俺と変わらない。

 高校生ぐらいの歳になってカメラや庭園を初めて見るように興奮してたら怪しいか。


「それに私(わたくし)も会場でわざと目立つように動きましたし、あなた方を見つけるのは簡単でしたわ」


「リオン殿は鋭い観察眼をお持ちなのですね。すごいです」


「・・・そういえば、私(わたくし)だけ名前で呼ばせてしまってすいませんでしたね。あなた達のお名前をお聞きしても?」


「篠節奏です。高校二年生」


「東雲桃! 明鏡刀花(めいきょうとうか)というゲームからやってきました。よろしくお願いします!」


 桃は店内に響き渡るほど、大声で挨拶すると頭を元気よく下げた。

 店内の客の目線がこちらに集まるが、すぐに目を逸らした。

 どうやら近くで行われているコスプレ会場の参加者だと思われたため、悪目立ちしなかったらしい。


「フフッ、元気な方なのね。あなたのいた世界は相当楽しいように感じますわね」


「リオン殿の世界は楽しくなかったのですか?」


 桃の質問にリオンは口に手を当てると、どことなく寂しそうな顔をした。


「・・・そうですわね。楽しくなかったと言ったら嘘になりますわ」


 リオンのその表情は懐かしそうでもあり、寂しそうでもあり、そして後悔していそうな色々な感情が複雑に入り混じった表情をしていた。


「・・・ですが、私(わたくし)はこの元の世界に・・・現実世界にずっと帰りたかった。仲間と別れたのは悲しいけれどこの世界に来れたことを嬉しく思っていますわ」


「・・・そうですか」


 突然異世界に飛ばされる物語だが、飛ばされた異世界でもリオンにとって大切な仲間がいたのだろう。

 今回も現実世界に突然召喚されたような状態だが、彼女にとっては幸運なのだろうか。

 桃もリオンの答えを聴いて思うところあったのか、温かな笑顔をみせていた。

 違う世界に来た同士、何か共感できる部分があったのかもしれない。


「・・・そうだ。リオンはどうやってこっちの世界に来たの? 誰が君をこの世界に呼んだの?」


「私を呼んだ方はもうすぐここに来ますわ。彼女に聴いたほうがわかると思いますわ」


「・・・彼女?」


「えぇ、彼女に聴けばね」


 リオンの言葉が終わると同時のことだった。

 誰が走ってくるような足音が聴こえてくると、誰がバンとテーブルを叩くように手を置いた。


「お待たせ! リオンっち! リア友と話してたら遅くなっちゃった・・・ん? 誰この人たち?」


 凛としたような明るく元気のよい声だった。

 髪を金髪に染め、前髪にグリーンのメッシュが入っていた。

 口紅やコスメで自分を着飾っているのは対照的に、ワイシャツの裾を出し、スカートの丈を上げて短くしている。

 俺のようなオタクとは縁遠く対義語の意味を持つ存在、そして対局の存在に位置するであろう陽キャラの代表。

 そうーーギャルだ。


「別に待っていませんわ夏稟(かりん)さん。この人たちは私(わたくし)たちと同じ体験をした人たちですわ」


「同じ体験! それヤバっ! うち寺山夏稟(てらやまかんりん)って言うし! よろしく!」


「あっ・・・よ、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします、夏稟殿」


「殿だってヤバっ!」


 たじろく俺の横で桃が負けないくらいの声量で元気よく挨拶を返し、握手していた。

 桃の相手の空気に気圧されないところは本当にすごいと思う。


「あの〜お客様」


 女性店員が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「なんだし、うち今来て話してるんだけど!」


「先程からほかのお客様達がうるさいとクレームが入っていまして・・・」


 さっき桃がリオンに元気よく挨拶したり、寺山さんが机叩いたり大声で喋っていたからかそれとも店の雰囲気に合わないからかクレームが入ったのだろう。


「は? 何が言いたのかわからないし、ハッキリ言えし」


「お客様・・・出禁です」


「・・・あーあーね」


 寺山さんは先程までの元気良い声が嘘のように静かになると、こちらに申し訳なさそうな顔を向けた。


「・・・外で話さね?」


「・・・いいですわよ」


「いいですよ。ところで奏殿、出禁って何ですか?」


「後で説明するから外出ようか・・・」


 寺山さんは何も注文していないのに、申し訳なさからか会計を半分だしてくれた。

 会計を済ませると、俺たちは店を後にして外に移動した。

リオン・ラック・パーシモンのプロフィールその1

年齢十六歳 (転生前は二十六歳)

身長 158cm 体重60kg

趣味     チェスやトランプなどの賭けごと全般

転生前の趣味 お金を銀の玉に変えて遊ぶ大人の遊び

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