推しとギャルと悪役令嬢と
店を追い出された俺たちは都内から少し離れた公園に来た。
遊具などはなく、バスケットゴールが置いてあるだけの公園だ。
地面も芝生や土ではなく、ゴムのような柔らかくも、少し硬い弾力のあるゴムチップ舗装が貼ってあった。
桃はその地面の感触を初めて感じるためか、ペチペチ地面を叩いて感触を確かめていた。
「この地面柔らかいです! これはなんですかね、奏殿。私たちの住んでる近所にはこんなものないですよね」
正直今の桃の姿のほうが異世界に来た人間のように見える。
リオンは特に地面については気になっていないのか、どんな素材なのかは疑問にも思わないのか興味すら示していない。
「ウケる! あんたの推し面白いね!」
「・・・う、うん。好奇心旺盛だからね」
寺山さんは指を差しながら笑っていた。
桃の気を逸らす話題を考えなければと適当に話題を二人に振ってみる。
「そ、そういえばリオンはどうやって来たのか寺山さんに訊けばわかるって言ってたんだけど・・・どうやってこっちの世界に来たの?」
「寺山さんとか堅苦しいし。それにあーし苗字で呼ばれるのダサくて好きじゃないんだけど・・・夏稟でいいし」
「夏稟・・・さん」
「か! り! ん!」
「・・・夏稟」
「よろしいし!」
陽キャ特有の圧というか、人との会話の距離感が友人とかと変わらないほど近すぎるというか、会話のペースを掻き乱されるようで話しづらい。
これも陰キャの性分なのか。
「あーし絵を描くのが好きでさ。イラスト投稿とかもしてるわけ」
夏稟はシールやビーズでデコレーションされた自分のスマホを操作すると、画面を俺に見せてきた。
そこにはリオン・ラック・パーシモンのイラストが映っていた。
しかも、イラストがとても上手だ。
漫画のリオン・ラック・パーシモンを少し見たがそれよりも上手かもしれない。
「で、家で推しのリオンっちのイラスト描いてたら急にタブレットが光り始めてリオンっちがでてきたわけ」
「じゃあ、自分で描いたイラストから出てきたの?」
「そう! 推しは描いたら出るってわけよ」
夏稟はこちらに自慢するように胸を張り、ドヤ顔をしてきた。
自分の描いた絵から、本物と変わらない推しが出てきたら自慢したくもなるか。
「あんたの推しのももっちはどうやってでできたわけ?」
「ももっち・・・桃はスマホゲームから出てきたよ」
「スマホから! 私たちとはまた違うしヤバっ!」
「ヤバいですか、そうですか・・・」
何がツボに入ったのかはわからないが、夏稟は楽しそうに笑っていた。
会話のペースを乱されるようでやはり話しづらい。
夏稟の笑い声を掻き消すようにリオンがパンッと手を叩いた。
「とりあえず私達がどう出てきたのかなどは今はどうでもいいですわ」
リオンの手の音に反応したのか桃も側に寄ってきた。
「何の話をしてたんですか?」
「推しキャラ出てくんの鬼ヤバいって話」
「ヤバいですか? それってどういう意味ですか?」
純真無垢な子供のような桃の目が、夏稟に向けられると夏稟は両手を上げて元気よく答えを返した。
「ヤバいっていうのは、ヤバいってことウェーイ!」
「なるほどそういう意味ででしたか。わかりましたウェーイ!」
推しも夏稟と同じポーズをして元気よく答えを返す。
意外と純粋で天真爛漫な桃と明るくその場のテンションで話す夏稟は相性がいいのかもしれない。
なりより場を明るくしようとする夏稟は周りの雰囲気をよくしようとしているが伝わってくる。
「リオンはこの世界に来て何してるの? 異世界から帰ってきたし、やっぱり現代をエンジョイしたい感じ?」
「あ、それあーしも気になるし」
「私も気になります! 異世界という世界から来たリオン殿がどう過ごしているのか!」
桃も夏稟も興味深々にリオンを見つめる。
リオンは膝に肘を置き、顔の前で手を組むと悪そうな笑みを浮かべた。
何かよからぬ企みをするその姿は悪役令嬢そのものだった。
さすがは異世界で悪役令嬢として過ごしたキャラだ。
圧倒的悪役令嬢のオーラがある。
「この現代で何をするのか? ・・・そうですね。まずあらゆる賭け事をやりまくりますわ!」
「賭け事?」
「そうです!!」
リオンは興奮したように鼻息を荒くしていた。
先程までの上品なお嬢様や、静かで大人の雰囲気を纏っていたリオンのイメージが消し飛んだ。
「だって私のこの幸運の能力があれば賭け事なんて飯事と同じ! 簡単に財を築けますわ!」
「あ! それ無理だしリオンっち」
夏稟の言葉にリオンのテンションが急激に下がった。
「え? なぜですの?」
「だってリオンっち転生前は成人してたかもしれないけど今の年齢は私たちと変わらないから、一目見ただけで入り口で止められるし」
反論の余地もない正論。
完全論破されたリオンは膝から崩れ落ちた。
「そ、そんな・・・私の完璧なる第三の人生プランが・・・」
「ウケる」
口ではウケると言っている夏稟だが、明らかに嘲笑していた。
話していて気が付いたが、夏稟が推しに対して向ける気持ちは俺や秋月生徒会長とはまた違う物のような気がする。
好きだとか、憧れだとかとは違うもっと別の気持ちでリオンのことを気に入っているような気がする。
「ところで、リオンはなんでずっとお嬢様言葉なの? お嬢様キャラ作らなくてもいいんじゃない?」
ふと、ずっと気になっていたことをリオンに訊くとリオンのは淡々と告げた。
「・・・意識してお嬢様口調で話しているわけではありませんわ」
「え? どいうこと?」
「これは呪いのようなもので私が意識して言葉を発したとしても、お嬢様口調に変換されますの」
「呪い?」
「えぇ、私が異世界に転生し、リオン・ラック・パーシモンの身体を乗っ取った・・・そのことによる呪いなのでしょうね」
現実世界に来たキャラが能力をこちらの世界で行使できるように、呪いもこちらの世界でも影響するということなのだろうか。
「まぁ、あーしは上品な喋り方のリオンっちも好きだけどね」
「・・・夏稟さん」
夏稟はリオンの肩に抱きつくように、身体をくっ付けるとリオンは照れたように頬を赤くした。
「漫画とか小説だと心の中はお嬢様言葉じゃないから、そのギャップがまたエモいんだけどね」
「夏稟さん!?」
ギャルと悪役令嬢、合いそうにない関係性に見えるが友人のような距離感に見える二人を見るとそうでもないのだと思えてくる。
「そいえば、かなでっちスマホ持ってるよね。連絡先交換するし」
「え、うん。いいよ」
スマホを出すと夏稟はスマホの画面を俺に向けて見せると連絡先のコードが映っていた。
「これあーしの連絡先。登録しといて」
「わ、わかった」
「じゃあ、あーしとリオンっちもう帰るし。また連絡するから遊ぶし、じゃあ!」
「あ、夏稟さん待ってくださいまし! それではお二人ともご機嫌よう」
有言実行をするように、夏稟は手を振って走っていくと、それを追うようにリオンも走って追いかけて行った。
リオンもついて行ったが、夏稟は高校生に見えたしリオンはどこで暮らしているのだろうか。
まさか廃工場とかじゃないよな。
「奏殿・・・」
「ん? 何?」
桃が俺の肩をツンツンと指でつついてきた。
「なんだが私リオン殿の声に聴き覚えがあるような気がするのですが・・・気のせいですかね」
「言われてみれば・・・」
確かにリオンの氷のように透き通ったようなお嬢様の時の声色や、会場で大袈裟に高笑いをあげていた時の声はどこかで聴き覚えがあった。
日常的にどこかで聴いているような気がするが思い出せない。
アニメ化もしてない作品にキャストが書いているわけもないし、誰の声なんてわかるわけもない。
「まぁそのうち思い出すでしょ。俺たちも帰ろう」
「そうですね」
俺と桃も帰路につき家に帰るのだった。
異世界から舞い戻った悪役令嬢と、それを推しているギャルという色濃いキャラに出会った一日はこうして終わった。
リオン・ラック・パーシモンキャラプロフィールその2
リオンの幸運の能力は自分で制御しているわけではない。
偶然、意図せず、意識せずに幸運が舞い降りている。
世間一般でいう幸運体質であり、人よりも幸運を引き寄せやすい体質なのだ。
よって自分の利益のために幸運は訪れない。




