推し学校へ行く
朝になったら夢オチになっているかなと思っていたら本当に推しが現実世界に存在していた。
間違いなく、俺の推し東雲桃は目の前にいる。
俺の本棚から色々な漫画を引っ張り出して、興味深々に漫画を読んでいた。
「主殿! 『異世界転移したら馴染みまくった』というこの絵巻面白いですよ」
異世界転移みたいな形でこっちの世界に来た推しが、漫画を読んで笑っている。
漫画に夢中になっている推しはとりあえず置いといて、食パンをトースターで焼いて食べると学校に行く準備をしながら明鏡刀花を起動する。
やはり、ゲームの中の東雲桃はゲームの所持しているキャラの中にはおらず未入手状態になっている。
お知らせにも不具合のお知らせなどはきていない。
一応星一のノーマルキャラであるため東雲桃は友情ポイントを集めれば手に入れることはできるのだが。
「全然東雲桃がこない・・・もう五百連目だぞ」
友情ガチャを引いたが、一枚も東雲桃が当たらない。東雲桃以外のキャラは出るのに何故か東雲桃だけでない。
星一のキャラの排出率は八十パーセントであるため、十連友情ガチャを数回引けば一体は排出されるのだが東雲桃だけがでない。
「ぐぬぬ・・・なんででないんだ」
友情ガチャの排出率を見ても、やはり確率は変わっていないし、そこに東雲桃の名前も含まれている。
東雲桃の存在がゲームから消えているのかと思うほどゲームに出てこない。
「攻略サイト見てみるか」
東雲桃の名前で検索をかけると明鏡刀花の攻略サイトがヒットした。
明鏡刀花の攻略サイトという名の掲示板なのだが、東雲桃に対するサイトのコメントは。
『初期の友情ガチャで簡単に出る。人数合わせかな。すぐにレア度の高いキャラと交換して編成から外した』
『不死神朱蓮の下位互換。使っている人は見たことがない』
『友情ガチャの最低保証』
など散々な評価が書かれている。
わかってないな東雲桃は強さより、可愛さでどんなキャラよりも優っているからいいんだよ。
推しの評価を見て怒りを募らせている場合ではなかった。攻略サイトの最新記事にもガチャから出たが書いてあり、東雲桃が明鏡刀花に存在していることが書いてある。
記事にも東雲桃が画面から出てきたや、ほかのキャラが現実世界に出てきたとかの記事はない。
やはり東雲桃がガチャで当たらないのは俺だけのようだ。
「何を見ているのですか? 主殿」
近くで声がしたため声の方向に視線を向けると東雲桃の顔が俺の近くにあり、スマホの画面を覗き込んでいた。
こんなに至近距離に推しの顔がある。
「これは私ですか。ん? なぜ私の姿が写っているのですか? それに私の上にあるこの星はなんです?」
推しはレア度を示す星を指差して首を傾げた。
俺の推しが疑問に思っているのは自分の評価を示すレア度の証。最低評価を表すその星の意味を伝えていいのだろうか。
ゲームの外の世界における自分の評価が最低評価ですと告げられたら、俺の推しはどんな顔をするだろうか。
彼女の悲しむ顔を見た時、俺の心は耐えられるだろうか。
「この星は・・・一番の証。君が俺にとって一番だっていう印だよ」
「そうなのですか!? 私は主殿にとっての一番なのですね」
嘘をついた。推しの悲しむ顔を見たくないがために嘘をついてしまった。
俺の推しは一番だと言われたことを嬉しがり、楽しそうに飛び回っている。
星空よりも美しく、満点な笑顔を浮かべる推しに俺は本当のことを言えなかった。
いずれバレるかもしれない嘘だとしても――。
ふとスマホの時間を確認するともう八時を過ぎていた。
「やばい! 遅刻する」
「どこにいくのですか? 主殿?」
「学校だよ。学校!」
「学校? 私も行きたいです」
「えっ・・・ダメだよ」
「何故ですか?」
「何故って・・・」
日本刀を持った和服少女が、外に出たら大騒ぎになる。ましてやゲームのキャラである東雲桃がイベントでもない日中から外に出たら目立つ。
下手したら捕まって実験されてしまうかもしれない。
「あーそうだ。家を守ってほしい。主が帰るまで」
俺の言葉を聴いて、推しは宝石のように目を輝かせた。
「承知しました。この東雲桃必ず守り切って見せますとも」
「じゃあ頼んだよ。あ、漫画とかは好きに読んでていいからね」
「いってらしゃいませ、主殿」
推しに見送られて玄関から外に飛び出した。
朝から推しの声を聴けるし、いってらっしゃいまで言われるなんてとても幸せかもしれない。
そんなことを思いながらも自転車に乗り、学校へと急ぐのであった。
***
ギリギリ遅刻せずに学校に着くと授業を受ける。
授業を受けている時も、家にいる推しが心配で先生の話が頭に入ってこない。
昨日こちらの世界に来たばかりなのに、一人にして大丈夫だろうか。
不安で押しつぶされていないだろうか、そういえばご飯用意するの忘れてたなど様々な心配が頭の中を駆け巡る。
そんなことを考えながらも時間は過ぎていき昼休みになった。
いつものように屋上で霧島琉星と一緒にご飯を食べる。
「今日こそ映画見に行こうぜ篠節」
昨日バイト先からもらった売れ残りの弁当を食べながら、霧島が映画に誘ってくるが、俺の心はそれどころではない。
今すぐにでも、家に帰って推しに会いたい。
というか推しがちゃんと生きているか心配すぎる。
「おーい聴いてるのか篠節」
「え? あぁ悪い」
「お前今日変じゃないか?」
「へ、変? な、何が?」
「だって今日一度も明鏡刀花開いてないだろ」
「あ、あぁちょつとスマホのデータ量重くなっちゃって」
「そうなのか。ちゃんとデータ整理しろよ」
明鏡刀花をやっても、ゲームの中に推しがいないからやっても面白くない。
今持っているスマホよりも、家にいる推しのほうが心配で明鏡刀花を開く考えにすら至らなかった。
ペットとか飼うとこんな気持ちなのだろうか。そんなことを考えていると霧島が肩を叩いてきた。
「おい、あれ見ろよ。東雲桃のコスプレした人が校門の前立ってるぜ。なんかのイベントかな?」
霧島が下に見える校門を指を指して俺に見ろと訴えてくる。
現実世界の東雲桃には、家を守るように言ってある。それに学校の場所を教えてないしこんなところに来れるはずがない。
霧島の指を目で追い、校門を見ると桜柄の着物を着た栗色の髪の女性が立っていた。
日本刀を腰に下げ、こちらに向かって手を振っている。
「おーい主殿」
西木凛に似た声でこちらに聴こえるように大声で呼びかけている。
なんて再現度の高いコスプレなんだ。俺が審査員なら百点満点中百点を上げたいぐらいだ。
「って東雲桃じゃねぇか!!」
「だからそう言ってるだろ」
家にいるはずの俺の推し、東雲桃が校門の前で手を振っている。
俺は立ち上がると、屋上のドアを勢いよく開けた。
「どこに行くんだ?」
「校門!」
「やっぱり東雲桃をもっとも愛する篠節には耐えられなかったか」
霧島の軽口に返事を返す暇すらない。急いで階段を駆け下り、一階に着くと靴を履き校門前まで全速力でダッシュする。
「ハァハァ・・・なんでいるの!?」
数時間振りに会った推しに対する第一声は心配でも、愛の言葉でもなく、ここに何故いるのかという疑問だった。
家にいろと言ったのに、何故こんなところにいるのだろうか。まさか家を誰かに襲撃されたとか。
「主殿が行く学校という場所が気になりまして」
普通に興味本意で出てきただけだった。思い返せば東雲桃は好奇心旺盛な性格という設定だった。
「迷惑でしたか?」
推しが可愛い顔で首を傾げる。
まぁ可愛いからいいか。
俺の頭の中は推しの可愛い顔でいっぱいになりか問題を放棄した。
「というかどうやって俺の学校の場所わかったの?」
「ふふふ、それはこれですよ」
推しは懐からお札のような紙を取り出した。紙には読めないが、ミミズみたいな文字が書いてある。
「・・・・・・ん? 何これ?」
「探索のお札です。私の陰陽術にかかれば人探しなんて簡単なんですよ」
そういえばそんな設定もあったな。陰陽術は使えると設定にキャラプロフィールに書いてあったが、使える種類までは記載されてなかったからな。
「へー他は何使えるの?」
「他は火を出したり、水も出せます。時間は短いですが認識を阻害するお札もありますよ」
プロフィールに書いてなかったが設定が作り込まれているんだな。ゲームの情報は目を通したが書いてなかったし、製作者が考えていた裏設定とかだろうか。
推しの新しい発見があって楽しい。
「後は何が使えるの?」
「以上です」
「・・・そうなんだ」
意外と使える技が少なかった。
明鏡刀花のアップデートとかで今後使えるようになってくるのかな。
それならカスタマイズできるようにしてくださいと公式に言わなければ。
そんなことを考えていると周りに人が集まってきていた。
周りには学校の生徒たちが集まり、推しの写真を撮ったり動画を撮ったりしている。
このままだと俺の推しの姿がネットの海にばら撒かれてしまう。
「このままだとまずい! ちょっと向こういくよ」
「わかりました主殿」
人混みを掻き分けて推しの手を引き、学校内を駆け回り人気がない場所を探す。
あまり普段運動しないのに今日は走ってばかりだ。
握った手から伝わる推しの手は柔らかく、じんわりと体温が伝わってくる。
手を握るのを躊躇い握る力が緩むが、俺の推しは手を握り返す。
握り返した手を、力強く握り返す。
手が離れないように力強く繋ぎながら体育館裏へと辿り着いた。
「ハァハァ・・・ここまで来れば大丈夫か」
「主殿体力ないですね」
推しに体力の無さを指摘されるとは。運動して体力をつけなければ。
「あのさ・・・お願いだから家に帰ってくれないかな」
「ごめんなさい。迷惑でしたか? 主殿」
しょんぼりする推しを見て、俺は動揺した。推しが落ち込む姿を見たくないし、何より嫌われたくない。
「いや全然そんなことないよ。可愛いから全然大丈夫」
よくわからない根拠で、推しの行動を正当化してしまった。
「でも私も外を探索したいです」
「・・・探索か」
スマホを見てバイトの日程を確認する、明日は土曜日。バイトはちょうど休みだ。
しかも今日は給料日だし、バイト代も口座に振り込まれているはずだ。
「じゃあ明日出かけよう。だから今日は家で大人しくしてて・・・ね?」
子供に言い聞かせる親のように優しく推しに諭すと、俺の推しは力強く頷いた。
「わかりました。約束ですよ主殿」
推しは懐からお札を取り出すと、空中に投げた。札に書かれた文字が紫色に光ると札は、ゆったりと飛行し始めた。
風に飛ばされているように見えて、確実に俺の家の方向へと飛んでいっている。
「では、主殿お帰りをお待ちしておりますね」
俺の推しは笑顔で手を振りながら、空中の札を追いかけていった。
あんなに元気なら心配するだけ無駄だったな。
半日ぶりに推しの顔も見れたし、まぁよしとするか。
***
校舎に戻ると霧島に問い詰められた。
「あの東雲桃のコスプレした人、篠節の知り合いか? 誰なんだよ紹介してくれよ」
「知り合いというか・・・なんていうのかな」
昨日スマホの中から出てきた俺の推しだよ、なんて言えるわけない。言ったとしても信じてもらえるわけがない。
なんて誤魔化すのが正解なのだろうか。
詰め寄ってくる霧島が納得する言い訳を必死に頭の中で考える。
「しの・・・しの・・・あ! 篠節・・・桃子。篠節桃子俺の従兄弟だよ。従兄弟」
「従兄弟? お前の従兄弟がなんで東雲桃のコスプレしてるんだ?」
「そりゃあれだよ。コスプレイヤーなんだよ」
言い訳が苦しかったか。従兄弟が東雲桃のコスプレしてるなんて、しかも声も担当声優そのものの声だし。
「・・・なるほど。どうりでお前が東雲桃が推しになったかわかったよ。従兄弟の影響だったんだな」
「・・・・・・うん。そうだよ」
俺が自分の意思で東雲桃を好きになったから本当は違うけど、まぁ訂正すると面倒そうだからそれでいいか。このまま嘘を突き通すことにしよう。
帰ったら推しに、偽名を名乗ってもらうように話して事情を説明しなければ。
その時学校のチャイムが鳴る音が聞こえてきた。
「あ! 授業始まるぞ教室戻ろうぜ」
「あぁそうだな」
霧島はそれ以上追求してこなかった。上手く誤魔化せただろうと思っていた。
その後、篠節奏の従兄弟に美人のコスプレイヤーがいると学校中の噂になることを俺はまだ知らなかった。
東雲桃 ゲームプロフィールその2
特技 剣術、陰陽術
苦手なこと 集中が必要な物事
剣術や陰陽術が得意だが、集中力が彼女にはあまりないため上達はしない。だが天性のセンスにより集中力が必要のないことなら覚えられる。




