推し駆ける
ゴールデンウィークが終わり、再び学校生活が始まった。
ゴールデンウィークはほぼバイトをして過ごし、遊びに行ったのは秋月生徒会長と推し達と出かけたあの日だけだった。
ゴールデンウィーク中の桃は家で『不良探偵栗島くん』を全話視聴していた。
まだ最終回まで『不良探偵栗島くん』は放送していないが最新話まで視聴した感想はーー
「栗島殿アニメだと覇気がありますね。あと世界観違いすぎませんか? 私の作品と」
確かに毎話一人か二人事件のために殺させる『不良探偵栗島くん』とソーシャルゲームの『明鏡刀花』では作品の世界観が違いすぎる。
まぁ作品の世界観が現実世界に近い栗島瞬鬼の方が順応しているようだが。
そんなゴールデンウィークの出来事を思い出しながら学校に到着した。
「よぉ、おはよう。篠節」
「おはよう霧島」
「秋月霞と行ったショッピングはどうだったんだ?」
「普通に楽しかったよ」
「なんだ? 何したんだよ。教えろよ」
「やだよ。秋月生徒会長に訊けばいいだろ」
「いや・・・それがさ秋月の奴まだ学校来てなくてさ」
霧島の言葉を聴いて、秋月生徒会長の席に目を移すと確かにカバンがかかっていないし席を動かした様子もない。
いつもは始業三十分前には登校しているのに妙だ。
「秋月生徒会長がこの時間に来ないなんて珍しくないか?」
「・・・そうだな。メッセージ送ってみるか」
「連絡先知ってるのかよ!」
「言っただろ腐れ縁だって」
「そういえばそんなこと言ってたね」
霧島がメッセージを送ったが返事が返ってくることはなかった。
ホームルームが始まっても秋月生徒会長は登校してこず、先生からは病欠だと告げられた。
しかし休んでから一週間経っても学校に秋月生徒会長は現れず、霧島に対して返信もない。
***
妙だと思った俺は桃を連れて放課後、栗島瞬鬼がいる廃工場へと向かった。
「栗島瞬鬼・・・いるんだろ」
夕日に照らされた廃工場の中に人の気配は感じなかった。
静寂が不気味さと錆びついた鉄の匂いが辺りに漂っている。
この静寂に包まれると秋月生徒会長と栗島瞬鬼に何かあったのかと不安になってくる。
まるで今まであったものが時間という波に全て流されてしまったような、何もかもが過ぎ去ってしまったような不安が俺の中に走った。
「栗島瞬鬼も秋月生徒会長もどこにいったんだ・・・」
「奏殿・・・私が探しましょうか?」
「探すってどうやって?」
俺の疑問に桃はポケットから一枚のお札を取り出した。
紙にミミズのような文字が書かれた薄い札だった。
「私が人探しの陰陽術を使えることをお忘れですか?」
「そ、そうか! その手があった」
ゲームにも実装されていないし、推しがあまり使わないからすっかり忘れていた。
「じゃあ・・・やりますよ」
桃が札に念を込めるように集中し始めた時だった。
「俺ならここにいるぞ!」
廃工場の奥から、声が響き渡った。
暗闇に包まれた廃工場の奥から栗島瞬鬼が姿を現した。
「いたのか、栗島瞬鬼・・・いるなら出てこいよ」
「今帰ってきたんだよ。お前らが訊きたいこともわかってる・・・霞のことだろ?」
「秋月生徒会長はどうしたの?」
俺の質問に栗島瞬鬼は視線を俺たちから逸らした。
髪を乱暴に掻きむしると、何かを諦めるように口を開いた。
「・・・霞は今家にいる。家族から外に出ることを禁じられて、家の中に閉じ込められている」
「・・・家の中に閉じ込められてる?」
「あぁ・・・原因は俺だ。ショッピングモールに買い物に行った時、家族に見られたらしい。それで俺のような不良と関わるなと親から言われたらしい」
ゴールデンウィークに買い物を行った姿を秋月生徒会長の家族に見られていたのか。
霧島も秋月生徒会長の家庭は厳しいと言っていたが、本人の人間関係すら自由はないのか。
「街を駆け回って情報を集めて、辿り着いた真相だ・・・結局俺は霞にとって迷惑なだけだったのかもしれないな・・・」
普段の明るく飄々としている栗島瞬鬼が暗い顔をしていた。
その表情に俺は見覚えがあった。
アニメで犯人のお嬢様を自殺に追い込んでしまった時の表情だ。
栗島瞬鬼は自分が無力な存在だと感じているのだろう。
物語の中と同じようにーー
「そんなことない!」
気がついたら口から否定の言葉がでていた。
だがそれは慰めでも、根拠のない薄っぺらい言葉でもない。
確実に確信があった。
栗島瞬鬼は秋月生徒会長の人生を変えることのできる存在だと。
「秋月生徒会長は栗島瞬鬼を語る時、とても嬉しそうだった。自分の価値観を変えてくれたような・・・自分の新しい道を示してくれたようなそんな推しに出会えたって思えるほどに、栗島瞬鬼というキャラを語っていたんだよ!」
そうだ、俺も秋月生徒会長と同じだ。
推しとの出会いが人生を変えてくれた。
「秋月生徒会長を救えるのは栗島瞬鬼! 君しかいないんだ!」
「俺が・・・霞を・・・救う」
「そうだよ、栗島瞬鬼。君は主人公だろ?」
栗島瞬鬼の目に闘志が宿った。
その目はアニメの中で見た主人公である栗島瞬鬼そのものだった。
「そうだな・・・ありがとな篠節奏。よし・・・待ってろ霞!」
栗島瞬鬼の中に希望の光が灯ったように見えた。
それは瞬くような小さな光ではなく、眩い閃光を放っているような決意の灯火に見えた。
「じゃあ霞の家に殴り込みにいくぞ!」
「殴り込む? それはまずいでしょ!」
「じゃあどうするんだよ。まずは霞と霞の親に会わないと話が進まないだろ!」
「それにしたって、殴り込むのはダメでしょ。他に何か方法を探そうよ」
何か方法はないか考えるが、家に尋ねても簡単に家の中に入れてくれるとは思えないし連絡先もしらないから秋月生徒会長に電話もできない。
かといって殴り込んで正面突破して無理矢理侵入するなんてできない。
「フッフッフッ・・・奏殿。私の陰陽術をお忘れではありませんか?」
そう話すと桃は自信に満ち溢れた表情で、ミミズのような文字が書かれたお札を俺に見せつけた。
「そうか! その手があったか!」
栗島瞬鬼の秘密その3
不良探偵栗島くんは現在コミッククス三十巻まで発売している。
それに対してアニメはまだ巻数でいうと五巻分である。
つまり、アニメの世界から出てきた栗島瞬鬼は漫画の世界での展開を知らない。自身の未来を知らないのだ。




