推しについて語りたい
不良探偵栗島くんを全話視聴した後、俺は怠い身体を引きずりながら学校に登校していた。
朝までアニメを見たせいでものすごく眠い。
正直学校に着いたら、机に突っ伏して寝たい。
まぁ早く寝なかった自分が悪いのだが。
「おはようございます篠節くん」
後ろから声がして振り向くと、爽やかな笑みを見せる秋月生徒会長がいた。
「・・・・・・おはよう・・・ございます・・・」
「眠そうですね篠節くん。どうかしたのですか?」
「・・・不良探偵栗島くんを全話見たから寝不足で・・・」
言葉を終えると同時だった。
秋月生徒会長が俺の両手をものすごい勢いで握りしめた。
秋月生徒会長の目は彗星のように輝いていた。
俺はこの煌めいた目をよく知っている。
よく霧島も同じ目をすることがあるからだ。
その目は同じ話題を共有できる同族を見つけたオタクの目だ。
「同志!!」
「えっ・・・同志?」
「学校や家でも瞬鬼様の話をできる人がいなかったの! 私とても嬉しいわ!」
「あ・・・あぁ・・・そうですか」
アニメは見たが正直語るほど、栗島瞬鬼が好きかと言われたら首を縦に振れない。
確かに不良探偵栗島くんは面白かったが、俺は栗島瞬鬼に魅力を感じなかった。
理由はわからないが、なんとなく自分の好みに刺さらなかったからだ。
「秋月生徒会長は栗島瞬鬼のどこが好きなの?」
寝ぼけたような思考からなんとなく出た言葉だったが、俺はすぐにその言葉を吐いたことを後悔した。
何故なら自分の好きなキャラを語る人間ほど口が回るからだ。
「やっぱり瞬鬼様の魅力は一見不良ぶってるけど中身は優しいところよね。名は身体を表すように毬栗のように、刺々しい部分はあるけど根は仲間思いで義理堅いところよね。名は身体を表すというのかしら作者もそういう設定を踏まえてこの名前にしたのでしょうね。それからーー」
自分で訊いてしまったため、話をどう切ろうかタイミングがわからない。
秋月生徒会長の舌はいつもより回っており、自分の推しキャラを語れることが嬉しかったことが伝わってくる。
話に付き合ってあげたいが、急激な睡魔が襲ってくる。
一方的に秋月生徒会長の話を聴いているだけなので、意識が飛びそうになる。
秋月生徒会長が何を話しているのかもわからなくなるぐらい意識が飛びかけた時。
「ーーということなのよ! 聴いている? 篠節くん」
「・・・はい! 聴いてました!」
「そうでしょ、そうでしょ。また学校で瞬鬼様の話しましょうね。それじゃあ」
秋月生徒会長は満足そうに笑うと、俺に手を振り学校の方向へと走って行った。
何を話していたのか聴いてなかったからわからないが、俺が気付けていない栗島瞬鬼の魅力を語っていたような気がする。
「早く学校行って授業始まるまで寝よう・・・」
突然のゲリラ豪雨にあったかのように、身体の怠さが増したように感じた。
それでも眠れる場所を求めて怠い身体を動かしながら学校へと辿り着いたのだった。
***
午前中の授業が終わり昼休みになった。
いつものように屋上で霧島とご飯を食べた後、俺は屋上の床に身を任せるように横になった。
「篠節、お前・・・制服のまま横になるなよ。制服汚れるだろ」
「・・・もうそういうのどうでもいいから寝かせてくれ・・・今猛烈に寝たいから」
「そういえば、今日ずっと寝てたな。なんかあったのか? 不眠症?」
「違うわ。アニメ見てオールしただけ・・・」
「明鏡刀花一筋のお前が珍しいな。なんのアニメ?」
「・・・不良探偵栗島くん」
「篠節も見たか! あれ面白いよなぁ」
「・・・もうアニメの感想はお腹いっぱいなんだ。もう寝かせてくれ」
「えーなんだよ。俺が前におすすめしたんだからもっと語り合おうぜ」
「いやもう本当に勘弁してください」
朝の時点で胃もたれしそうなほど、秋月生徒会長から栗島瞬鬼の話を聴いたし今はただ寝たい。
もう少しで眠りに落ちそうになった時だった。
屋上のドアが勢いよく開く音が聴こえてきた。
「あ! いたいた篠節くん。ちょつと話したいことがあるのだけれど」
朝にも聴いた聞き覚えのある声が屋上に響き渡った。
眠い目をこじ開けて、声の方向を見ると秋月生徒会長がこちらを見ていた。
とても嬉しそうな顔で。
今朝話していた栗島瞬鬼の魅力の続きを語りにきたのだろうか。
「秋月生徒会長・・・話なら放課後でいい? いま寝たいんですけど」
「放課後は私時間がないの。瞬鬼様のところに行かなきゃいけないから」
どうやら秋月生徒会長はまたあの廃工場に行くらしい。
推しに会いに行くというより、野良猫をこっそり飼っている小学生のように思える。
「おいおい、秋月生徒会長さんよぉ〜篠節さんはお眠なんだから寝かせてやれよ」
「あなたに話しかけてないから黙ってくれる霧島くん」
「はいはい霧島黙りまーす」
秋月生徒会長と話すために身体を起こすと、秋月生徒会長は俺の近くにしゃがみ目線を俺と目線を合わせた。
「篠節くん一週間後のゴールデンウィーク空いている日あるかしら?」
「・・・ゴールデンウィーク?」
秋月生徒会長の質問の意味を思考する気力も残っていなかった俺はスマホに保存していた予定を確認した。
「五月三日なら空いてるけど・・・」
「じゃあその日ショピングモールに行きましょう。推しと一緒に!」
「・・・いいよ」
思考の回らない頭で適当に返事すると、秋月生徒会長は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「よかった。じゃあ五月三日の十二時頃にフランの入り口でね」
フランは確か駅の近くにできたショッピングモールだったな。
確かブランドの服やオシャレなカフェとかがあるところだったような。
推しとの生活に忙しくて行ったことがなかったが。
秋月生徒会長は屋上のドアを開けて、小走りに去って行った。
「おいおい、篠節くんよぉ。秋月生徒会長にデートに誘われたなぁ〜」
「うん・・・そうだね」
「嬉しそうじゃないな?」
「多分推し同士で出かけようって意味だと思うし」
「推し同士で出かける!? なんだそりゃあ? 詳しく聴かせろよ!」
「説明めんどい・・・おやすみ」
「教えろよ篠節ぃ〜」
身体を揺さぶってくる霧島を無視して、俺は眠りについた。
身体の疲れが限界を迎えていたためか、霧島が身体を揺さぶったり声をかけてきても起きずに眠っていた。
そして起きた後、霧島にしつこく秋月生徒会長との関係を訊かれたが変な噂が広まったら嫌なので、適当に誤魔化したのだった。
栗島瞬鬼の秘密その2
秋月霞が来る夕方までは暇なため、街に出て漫画の立ち読みや街にいる不良達とつるんで遊んでいる。




