推し疑われる
「篠節くん、もし・・・自分の好きなキャラが漫画やアニメの世界から出てきたらあなたはどうする?」
夕暮れを告げる朱色の光が放課後の教室に差し込む。
教室である女子生徒に訊かれた。
その質問にどう答えるべきか俺は迷っていた。
なぜなら返答によっては痛い奴とも思われるかもしれないし、彼女と同じ体験をした仲間だと認めることになるかもしれないからだ。
なぜ俺、篠節奏がこんな解答を迫られているのかというと。
それは今日の学校生活から振り替えなければならない。
***
時は遡り時刻は八時。
新学期が始まって一週間が経った。
一週間経ったが新しいクラスメイトにはまだ慣れていない。
朝の教室にはクラスメイトが集まっていた。
教室の机に座り、スマホを開き『明鏡刀花』をプレイしていると誰かが近づいてくる足音が聞こえてきた。
「よぉ篠節。おはよう!」
「おぉ霧島おはよう」
「今日も明鏡刀花やってるのか?」
「あぁ夏に東雲桃の水着衣装がくるから石集めておかなきゃな」
「あー見た。ネットにも明鏡刀花の新イベントと新衣装載ってた」
「ついに! ついにだぞ! 推しの水着! これは引かなきゃな」
「相変わらず東雲桃推しが強いな」
霧島は呆れたような表情を浮かべるが、推しの新衣装が来るのならば引くのが一番のファンという者。
この夏、必ず東雲桃の水着衣装を手に入れてみせる。
「朝の教室でゲームなんていいご身分ですね!」
突然威圧的な声が聴こえてきた。
目の前を見るとカツカツと足音をたてて、女子生徒がこちらに歩いてきていた。
モデルのような線を歩くような足運び。
長い黒髪を揺らして姿は大和撫子のように見えるが、それは彼女の内面を物語っているように見えた。
「げっ・・・秋月霞生徒会長。何のようだよ」
「霧島くんあなたには話しかけてないわ。私は篠節くんに話しかけています」
気高い騎士のような眼光で俺を見下ろすその目は風紀を乱すなら容赦しないと訴えていた。
「ちょっと生徒会長に選ばれたからって意識高すぎなんじゃないの?」
「何を言っているの霧島くん、学校は勉強する場所よ。ゲームや漫画などは不適切よ」
「青春楽しんでなさそう」
「何か言ったかしら?」
「別にぃ〜」
霧島は秋月に睨まれると白白しそうに手のひらを上に向けて肩をすくめた。
すると学校のチャイムがなり一限目が始まる予鈴がなった。
「ほらほら生徒会長さん席につかないとなぁ」
「くっ・・・」
秋月は踵を返すと自身の席に戻っていた。
「よくあんな怖い生徒会長に軽口叩けるよな霧島」
「あーあいつとは小学校からの腐れ縁なんだ。昔からああいう奴だから、あしらい方も知ってるのさ」
「へー意外な関係」
「秋月家って結構お堅い家柄でな、厳しく育てられてあんな性格になったらしい」
「なるほどそれであんな厳格な感じなのか・・・」
「そろそろ授業始まるし、また休み時間な」
「あぁ」
後ろの席に戻る霧島を見送り、黒板がある教室の前方を見ると秋月生徒会長がこちらを睨みつけていた。
そんなにゲームしていたのが気に食わなかったのか、それとも今の霧島との会話を聴かれたいのか。
目をつけられたら面倒だなと思い、授業が始まるまで目を背けた。
***
授業が終わった放課後。
家に帰ろうと下駄箱に向かっていた。
霧島は家で新作ゲームをやりたいからとさっさと帰ってしまった。
今日はバイトもないし、家で桃が待ってから早く帰らなくちゃな。
そう思いながら下駄箱を開けるとヒラリと中から落ちてきた。
それ一通の手紙だった。
ピンク色の封筒を開けて中を見てみると『今日の放課後、二階の空き教室で待ってます』と書かれていた。
「・・・・・・え? ラブレター!」
初めてラブレターを貰った。
しかも今日の空き教室に差し出し人が待っている。
初めてラブレターをもらった嬉しさを感じつつも、自分には現実世界に出てきた東雲桃がいることを思い出し心の中で決意を固める。
「嬉しいけど・・・断りにいこう。俺には桃がいるし」
そんなことを口に出しつつも内心少し嬉しさがあった。
人生で初めてラブレターを貰ったし、思春期真っ盛りの高校生なら仕方ない。
軽い足取りで指定された空き教室へと向かう。
空き教室の前に来ると、中には人影があった。
窓から差す日差しによって中にいる女性の顔は見えない。
だが誰であろうと、教室で待っていてくれているなら自分の答えを伝えにいかなければ。
例え相手を悲しませる結果になったとしても。
そう覚悟を決めて教室のドアを開けた。
教室の中にいた女性がこちらを振り向いた。
陽射しに照らされて漆のように輝く長い黒髪と凛とした佇まい。
まるで平安時代の姫のような美しさをした女性に俺は目を丸くした。
その容姿にではない。
その人物に見覚えがあったからだ。
「・・・・・・秋月生徒会長? え、なんで?」
教室の真ん中に秋月霞が立っていた。
厳格な生徒会長が俺に何のようだろうか。
先ほどまであった嬉しい気持ちが消え失せ、嫌な汗が流れてくる。
放課後の空き教室に呼び出してまで注意されるのか休み時間にゲームやってただけで。
それとも秋月生徒会長は裏で気に食わない生徒を絞める不良のようなやり方で、自分に歯向かう者が出ないようにしているのか。
色々な不安が頭の中を飛び交う中秋月生徒会長が俺に近づいてきた。
「待っていたわよ、篠節くん」
「あ、あれですか。昼のゲームの件ですか? もうゲームはやらないのでもう許してくれませんか?」
距離を詰めてくる秋月生徒会長に弁明の言葉を投げかけるが、秋月生徒会長はこちらに歩みを進めてくる。
そして俺の前に立ち止まると真っ直ぐ俺の目を見つめた。
「前にあなたの従兄弟が学校に来たわよね。コスプレをしていた従兄弟の人・・・」
秋月生徒会長の言葉を聴いて、こちらの世界に来たばかりの東雲桃が学校に来たことを思い出した。
「確か明鏡刀花というゲームに出てくる東雲桃というキャラだとか・・・」
「あーあの件ですか。従兄弟には学校に来ないように言ってあるので」
「その従兄弟の人・・・本当はゲームから出てきた本人なんじゃないしら?」
「・・・え?」
秋月生徒会長の発した言葉を耳にして、弁明の言葉を考えていた思考が停止した。
秋月生徒会長はこちらを真っ直ぐとただ見つめてくる。
からかっているのか、それとも秋月生徒会長も俺と同じ体験をしているのかはわからない。
ただ秋月生徒会長は曇りのない眼を俺に向けてこう言った。
「篠節くん、もし・・・自分の好きなキャラが漫画やアニメの世界から出てきたらあなたはどうする?」
秋月霞の秘密その1
秋月家の人間は公務員や政治家、警察などの役職に就くエリート家系でありお堅い家柄である。
そんな家柄であるため秋月霞も漫画やアニメ、ゲームは禁止されいる。
だが秋月霞はあるアニメのキャラに恋をしてしまった。
そのアニメキャラを推す思いが強いあまり・・・




