31【再起不能にした上で続行】
※まだテンション高いターン中です。
ヘリオス・ルーベという青年は良くも悪くも影の薄い青年だったらしい。
エメライア姫を妻に迎える事で次の宰相になる事を望まれているように見えて、実のところ誰からも期待されていなかった。
人と争う事を嫌い、穏やかで口数の少ない人物だったと今の宰相からも少しだけ聞かされていた。
「ヘリオス・ルーベは自分の家族を粛正したのだ」
重々しく言うのもあざとい騎士団長の言葉は特に驚くべき内容ではなかった。
当時の状況を考えれば、前々宰相家を皆殺しに出来るのは嫡男のヘリオスぐらいだろう。
「自分の家の騎士団と?」
「いいや。ルーベ侯爵家の騎士団を下手に動かせば父親に察知される事が目に見えているから、この……王立騎士団から協力者を連れていった」
協力者なんて言い方をすると言う事は、正規の騎士団の活動ではなかったと言う事か。
まあ、王家が動く気がなかったのだから当然と言えるだろう。
「ルーベ侯爵家の騎士団は領地の魔獣退治に出向いており、当日は僅かな者だけが警備をしていた」
「スケジュールで一番警備が薄い日を狙ったと言う訳ですか……そして、本当に全員殺されたのですか? 生き残りはいましたよね?」
「……何でそんな事が分かる?」
「睨むなんていい加減小悪魔的な行動止めて頂けます? 別に単純な話ですよね。先程騎士団が中止させた劇と同様に、誰か明確に被害者がいたからヘリオス様は行動したのでしょう。少なくとも私が聞き及んだヘリオス様なら被害者の少女は殺せません」
私を取り囲む空気が変わった気がしたが、そんなものは私が少し調べただけで到達出来た事実でしかない。
ここまで来るとドジっ子なんて表現出来るレベルを越え無能そのもので、やり過ぎに隣のルディウスも珍しく苛々するように体を揺らしていた。
「公表しなかった程度で隠した気になっていたのですか? 先に言っておきますが、ルーベ侯爵が宰相をしていた頃に少女だった貴族女性は全、員、前々宰相が変態だったって知っておりますよ」
「それはあり得ない! あの方は……」
「では、何故ルーベ侯爵は粛正されたというのです? とんだエロ特化型女性嫌悪系潜伏変態で全てを消し尽くさなくてはいけない程に有害だったからでしょう?」
粛正だったと断言しておきながらルーベ侯爵を庇うなんて……。
私の言葉に反論もせず、無言で下を向いた騎士団長の行動、つまりそれが指し示すのは、
「なるほど。ルーベ侯爵を愛していたと。なら仕方ありませんね」
「何でそうなるんだ! 例の香辛料の影響にしてもおかしいからな!?」
「高々香辛料如きで何が変わるというのです? これは私の素です」
何故か私の横のルディウスに騎士からの視線が集まりますが、
「うん。クラリス、流石だ。私は全面的に賛成しよう。騎士団長はルーベ侯爵を愛していた方がよりドラマに深みが出て、取り敢えず面白くなると思う」
「オルブレート侯爵令息!?」
さっきからルディウスは私の同意しかしていないのに、何を騎士団は期待……王家を虜にしてきた騎士団としては、何とかルディウスを落としたいと足掻いていると言う事か。
愛に貪欲でなかなかの獣だ。
いや、私は綺麗事を並べて澄まし顔をされるよりも、泥臭い方が人間らしくて良いと思う。
ただまあ、恋愛対象はもっと選んだ方がいい気がする。
「貴方達、ちょっと爛れていないかしら? これはこれで今の宰相に報告しておきますわ」
「止めて下さい! 誤解を広めないで下さい」
「? 分かりました。誤解があった場合広めないで欲しいと、次の小会議で宰相にはしっかり頼んでおきます」
騎士達が「会議……」「宰相達の性格って……」「人生の終わりだ……」とあちこちでざわめきますが、そんな爛れ切っている方が悪いだろうに。
これはこれで粛正対象だったと思うべきなのか。
一人の年配の騎士が土下座するように私の前に座り、
「止めて下さい……それだけは……それだけは! 私達は王都の貴族平民から何故か嫌われているのですよ!」
ここに来て知らない振りをするなんて、しつこ過ぎるあざとさに私の気分は沈んだ。
昨日今日ならともかく。嫌われているのは十年前辺りから続いているのに「私知らなーい」なんて今時100才越えのおばあさんでもやらない古臭い手だ。
いや、目の前の騎士の年齢を考えると古典を好む一部の人々の嗜好を満たす為にやっているのかも知れない。それならば仕方ないが、やはり万人に使うべきものではない事を学習して頂きたい。
「嫌われるのは当然の事でしょう。騎士団がそうやって下半身特化型粛正対象系汚変態を庇った事で今は何処かの貴族夫人となっておられる、かつての令嬢達から嫌悪の対象となっている事に気付きもしないのですか?」
「え?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔で騎士達が私の顔を見るのだけど。
変態を庇ったら変態の仲間だと見られるなんて何処の世界でも普通の事だろう。
まして、女性が嫌がるような非常に高尚な変態を庇ったらどうなるかなんて、火を見るより明らかだ。
あざとく体を小刻みに震わせる、誰かの性癖ぶち抜き狙いの騎士団長が声も震わせ、
「……ルーベ侯爵領の盗賊を放置したからでは?」
「四十年も前の事ですよ? 人も入れ替わった現在もここまではっきり嫌悪されているって、明らかに別の要因も入っておりますよね」
私も最初はルーベ侯爵家を襲った極悪な盗賊を放置していた事が問題だったと思っていた。
けれど、それは四十年も前の基本的には王都の外であった出来事であり、話題の移り変わりの激しい王都で直接の被害も受けていない者達まで同じ理由で恨み続けるものなのだろうか?
そう仕向けている誰かがいないと寧ろおかしい。
「……やはり貴方達は明らかに属性過多なのです。ただでなくてもかつての令嬢だったご婦人方の気分を害しているのに、何処かでご婦人方に更なる地雷を提供してしまった。それは貴方達にとって大きな作戦というものでもなく、ドジっ子の人気に頼りすぎた驕りでしょう」
「……オルブレート侯爵令息、我々にはクラリス様のお言葉が高度過ぎて何を言っているのか理解出来ないのですが、この言葉の意味は?」
「貴族夫人達から変態だと見られているので排除されるのは仕方ないと言う事だ」
これは凄い。
私がだらだら説明した話をあんなに短くコンパクトにするなんて……。
有能過ぎる相棒が私には恐ろしく感じた。
「貴方……さては能ある鷹は爪を隠さない系のそのままの属性なのね」
「良く分からんが、多分そうなんだろう。私は残念ながら見た目通りのシンプルな人間なんだ」
何故ルディウスみたいな人間が第三王子殿下の息子として生まれたのだろう。
明らかに他は会っていないのだがオルブレート侯爵家の血が強い気がした。
聖女の力はこんな事にも発揮されるものなのか。
私はつまりは聖女ユリアは早い段階で第三王子殿下に見切りをつけていたと言う事実に、それはそうだろうと思った。
「取り敢えず、騎士団が趣味違いの者に地雷を押しつけて嫌われた事は後で議論して下さい。それで、騎士団が四十年前、ルーベ侯爵家に賊が入って全滅したと公表しながら討伐部隊を出さなかった事をお聞かせ下さい」
ここまで辿り着くのに時間がかかってしまった。
魅了はされていなかったとは言え流石、熟練の属性チラ見せ。趣味ではない私もすっかり惑わされたようだ。
「それは……」
「気弱系小悪魔など私には通用しませんよ? ここまで来てまだ隠すなどじらしにも程がありますので、早めに話した方が……」
「途中で遮らず話させて下さい。お願いします」
騎士団長は懇願した。




