30.【用法と用量を正しく守ったつもり】
※主人公達のテンションが著しくおかしい事になっております。ご注意下さい。
騎士団の本部は王城の一角にある。
城からよりも城門からの方が近い場所にあり、大半の者達が王城へ向かって行く中で、私達は騎士ばかりが通っている通路に足を向けた。
すれ違う騎士達は私達を見ると自然に横にずれた。
あんまり私達が堂々としているから、相当な苦情をしに来たと思われたのかも知れないが、当たらずも遠からずだ。
今度という今度(前回などない)は逃がしはしない。
王城に戻ると直ぐに合流したアレンは、何故か鼻息が荒い私達に不審な目を向けながらも、
「クラリス様達が見に行った劇は大混乱になったと伺いました。オルブレート侯爵令息様方もご一緒なので大丈夫と思いましたが……正直、心配しておりました」
「私達は大丈夫でしたよ。混乱を含めてとても面白い劇でした」
最終的に混乱の元が私だったとは言わない。
物言いたげなルディウスの視線は一切無視して、私達は騎士団本部へと足を踏み入れた。
「……いくら仮にもエメライア姫の孫とは言え、私どもにも言えない事は御座います」
奥へ奥へと通された私達は、最終的に騎士団長室で話をしていた。
何か、王立騎士団の団長の身分に相応しくゆったりとした広い部屋の筈が、ちょっと年季の入った筋肉的な人間の密度が高い。
恐らく本部に居合わせた重役達も同席しているのだろう。
各種年齢を取り揃えたマッチョが並んで暖房いらずな空間は、騎士流の粋なもてなしだとしても私の趣味とは異なっていた。
しかも、出されたお茶は酷く不味い。
貴族のくせに茶葉の量をケチるなんてケチ臭いとか、粗茶を出してチマチマ横領するなんて貴族の貯金方法は実にケチ臭いとか、よく見たらカップが欠けても使っているなんてケチ臭いとか、替えなくて使い続けるのはもっと貴族流にケチ臭いとか、寧ろ金銭的に余裕がない貴族なら立派な衣装を作るなとか、お茶の入れ方一つ知らないなんて貴族ではないから仕方ないとか、思わなくもない。
「……声に出てますよ」
「伝わる事を真摯に願っていたので、私の心の声は自然と届いてしまったのでしょう」
「言っていないと仰るのですか?」
「まあ。騎士団長ともあろうお方が、高々言ったか言わないかの認識の相違程度に細かい事を仰るとは私も想像もしませんでした」
微笑みながらまっすぐ団長を見返すと、何故だか騎士団長は狼狽えた。
騎士団に向かう前に食べた物の効果か、少しばかり目がバッキバキになっているとルディウスが言っていたので、それかもしれない。
しかして、乙女へ取って良い態度ではないので上等だ、この野郎。
後方に控えている騎士達が「あれが相違程度か?」「団長が細かいって言われているの初めて見た」「あの姉ちゃん、肝据わりすぎだろ」とかざわついている。
やはり貴族出身の者どもは騎士になっても鬱陶しいくらい重箱の隅をつつく。
半分は冷静である私も結構イラッとした。
「……あの」
「そう言う心から傷付いたってお顔をするのはお止め下さい。こんな大勢居る場所で御自分の繊細アピールするなんて……私を貴方のガラスのハートを木っ端微塵にする悪女のように印象づけようとする魂胆ですか!」
何故か隣のルディウスがむせ、重役を含めた騎士の多くが呻きながら一歩後退した。
ち、センシティブな男共め。
これだから貴族男に関わるのは嫌なのだ。
威張るくせにちょっとの事でか弱い振りをするなんて、今時深窓の令嬢でもやらない古典手法を使う。いくら貴族でも古典に準えて行動する時代でもなかろう。
「落ち着いて下さい、御令嬢……」
「あら、落ち着いていないのは貴方達の方ではないですか? そのように狼狽えた顔をするなんて……私は繊細で傷付きやすい箱入りの貴族令息とお話ししに来たのではなく、騎士団の方とただお話しに来ましたのです」
「だから……」
「それなのに、令嬢である私をまっすぐ騎士団長室に連れていくだけでなく、騎士で取り囲むなんてねぇ……あらあら私は騎士団に来た筈が、どこかの訓練学校の学生の間にでも紛れ込んだのかしら?」
「それは……!」
「はっきり申し上げます。貴方のその目は節穴ですか! 今の状況がちゃんと見えていたら、自分達が脅迫しようとしている状況になっている事など分かっておられますよね!」
「あ、いえ……そんなつもりは……」
「貴族なら他からどう見られるかの方が問題だと言う事も御存知ですよね?」
矢継ぎ早な私の言葉は騎士が動くよりも早かった。
畳み掛けるなとルディウスが小声で言うが、積極的に止める気はないようだ。
焦ったり怒ったり狼狽えたり……何かを言おうとした他の騎士達も、私と目が合うと慌てて目をそらず。
敵意がないと示すにしても遅い。
「うふふ……それとも何ですか、自分達が私達より圧倒的に弱いから人数でも揃えたと仰るの?」
何か言い返そうとしても、騎士達は何も言い返せない。
接待にしろ、騎士達に私達をこうやって歓迎する理屈はないのだ。
まして陛下の客人扱いの私に対して脅迫まがいな事をしようとしたなんて、揃える必要もなかった騎士達をわざわざ揃えたからこんな事になる。
本当に王立騎士団は隙だらけだ。
まだ騎士達は全然分かっていない様子だが、この部屋の中で女性は私一人だけだ。
しかも、あいつら脳筋過ぎてしっかり扉閉めてるし。
誰が見ても明らかに問題ある状況を自分達で作っておいて、言い返されないどころか咎められないとでも思っていたのだろうか?
これは酷い。
騎士道など全く理解もせず、貴族としての矜恃も失ってケチ臭く、最早残っているのは何? その筋肉だけなの?
これが彼らの生きる道と言えばそれはそれで認めよう。
だが、騎士達はか弱く繊細な心を持っておきながら見た目筋肉なんて、間違いなくギャップ萌えを狙っている。
「実にあざとい!」
私の声に大袈裟なくらいに騎士がビクついた。
趣味じゃないからそんな受けを狙った態度を取られても、私のハートは欠片も燃えない。
ただ、こんな騎士達にも需要はある事だけは分かっている。
団として活動程度には人数がいるという事は、王都には彼らのような脆い心に頑強な肉体を持つ者を愛でる風潮があるのだろう。
でなかったら、これは王家の趣味嗜好の結果!
「なんて事なの……いくら王族が人事決定権を持つにしても、趣味だけで騎士団一つ作ってしまうなんて……」
「君の話は愉快だな。止める気も失せてしまうよ」
「あら、貴方は王族なのに違うの?」
「残念ながら私は『高尚な』趣味は持っていない」
上手い事ルディウスが言うので私は笑ってしまった。
こう言う使い方をするのね!
言い出した本人のルディウスも笑って、何だか私は凄く良い気分だった。
私達に隠れてこそこそ騎士達は集まり、
「どうやらお二人は例の調味料を使った料理をお召し上がりになったようでして……」
「帰って貰うのが一苦労する人達に限って……!」
あらあら。
「聞こえていますよ。なるほど、騎士団はそのような態度を取られると」
「……これ以上は何も申し上げません。お帰り下さい」
そうやって私達を迷惑な者扱いして追い返せたら大事な事も隠せるってセコい魂胆なのは分かっている。
なるほど。
この見え透いた態度を取る事によってちょっと考えの足りない系を装い、客人のいくつもの性癖をぶち抜こうとしているのか。
これが王都の騎士のやり方。
「実に小悪魔だ事」
「はあ!?」
こらえ性のない私、なんて可愛さアピールをここに来て加えてくるとは、流石センシティブでも騎士団長。
このちょっとずつの属性チラ見せが王家の審査を通った技だとひけらかす事自体は好きにしてくれればいいのだが、あざとさだけで趣味違いの相手を思い通りに出来るなんて思うなよ。
私が騎士団長をガン見したら狼狽えた。
その繊細アピールも食傷気味だと言いたい。
「ご、御令嬢……ご乱心は程々に……」
「私は騎士団長を褒めているのですが? 言い方が問題でしたか」
後ろの騎士達がざわつきながら「あの御令嬢はいつもあんな感じで?」「止め方はありますか?」声の方向からアレンに聞いているようだ。王立騎士団の騎士よりも騎士らしいアレンは当然私の事を話さない。
答えない事が普通な事を聞くなんて全体的に王立騎士団の上層部は……これはドジっ子属性で揃えていると見て良いだろう。
「怒らせても無駄だ! 絶対に話さないからな!」
「陛下は王城で私にエメライア姫の孫だと振る舞っても良いとの許可を出して頂けましたが?」
「それとこれとは別だ。そもそもお前は偽物だろう!」
「そう仰るなら、貴方は一刻も早く消えて下さい。王家に仕える騎士でしょう? 陛下の決定に異を唱える意味は当然よく御存知でしょう。背いたときにはどうするべきか、貴方はよーく御存知ですよね?」
逃げ道なんか一つも許さない。
いくらよりどりみどりの属性を揃えた所で筋肉が趣味ではない私を誤魔化す事は出来ない。
残念だったな、あざと系騎士団長。
「お待ち下さい! 確かに陛下は貴女にエメライア姫の孫を名乗る事を許されましたが、それは王族としてではなく……」
「隣に私がいる事が目に入っていないのか? 老眼にも程がある。それでは騎士の職務に支障が出よう。即刻辞職するが良い。孫は可愛いんだろう?」
私より大きいルディウスが目に入らないなんて、目が悪いにしても相当だ。
そもそもルディウスはただの付き添いとして来た訳ではなく、私と同意見だから来たのだと最初に告げていた。
私の意見はそのままルディウスの意見と言う事だ。
それにしても目が見えている内に孫と遊んでおけなんて、ルディウスは私と違って優しい事だ。
「私達は陛下の威光の元に守られております。まさしく虎の威を借る狐ですから。ふふふ……」
「それは流石に不敬です!」
私に口では勝てないと悟ったらしい騎士達は王家の血を引く者として期待した目でルディウスを見たが、先程からのルディウスの言動を全く見ていないようだ。
大体ルディウスも目はバッキバキの見た目だ。
鈍感系、もしくは天然系の属性を一心にアピールする騎士達にルディウスは、
「良いんじゃないか。クラリスが狐だから、つまりは雌狐。こう……ふわふわだ。何の問題もない」
「雌狐ですから、一人や二人騎士団の名簿から消してみせますよ。……か弱い女性をよってたかって脅迫したって陛下に泣き付きます」
「よし、私も初めてだが祖父に泣き付いてみよう。私もやってやれない事はない筈だ」
最早騎士団には言い訳らしい言い訳など出て来ないようで全員口を噤んだ。
まさか私とルディウスのバキバキの目に恐れ戦いているからという訳ではないと思う。
現状、何処から何処を切り取っても騎士団に不利な状況でしかなかった。
筋肉的ドジっ子属性を見せたかったにしろ自分達の首を締める状況をここまで作り出した騎士団に対して、内心、私は戦慄していた。
これはまさしく王家が常識よりも趣味を優先した結果なのだろう。
ここまで騎士達は王族を虜にしてきた自分達の属性だけで圧勝出来ると高をくくっていたのだろうが、ギャップ萌えはしかるべき筋の方々にしか通じない。
だから私の趣味じゃないのだよ、趣味の範囲外。
あざとさだけではどうにもならないと、ようやく気付いた騎士団長が私達に泣き付くように、
「分かりました! お好きなだけお話ししますから!」
「最初からそれをやっていれば、解雇確定の人数は減らせましたのに」
重役達は青くなっていた。
ドジっ子も考えの足りない系もやり過ぎは禁物に決まっている。
ましてルディウスの事が本当の意味で目に入っていなかったのだから、近視か老眼なのかで職務が出来ないって見なされても仕方ない話だろうに。
「いくら話したくないからと言っても、若い女性が一人きりになる状況にして大勢の騎士で威圧しようとするなんて、全くもって論外だ。こんな事王立騎士団がやったなんて余所に知られたら王家の恥でもある。処分は当然だろう」
いくら私の味方としてルディウスとアレンがいたにしても、この二人は男性だから性別の話になってしまうとどうしようもない。この場で女性は私、ただ一人。最初から騎士団の管理職で集まってはいけなかったに決まっている。
騎士達は無駄な事をやっただけでなく、自爆した。
明らかに素直に話して私達にお引き取りして頂ければ良かったのに。
簡単な事を理解出来ない考えの足りない系を装う事を追求しすぎてしまって破滅した騎士団に、私はかなり苦いものを感じていた。
相手を属性で虜にする事を優先して当たり前の発想を放棄するなんて、ここにエメライア姫の問題が複雑になった原因の一端があったとしか思えない。
長々と私のハートを射貫かない属性披露だけした騎士団を睥睨しつつ、騎士団長が真実を口にするのを待った。
「あ、お茶下さい」
「図太いな!?」




