表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
4.旅立ちの歌姫
PR
94/177

29

 鍵を開けろ。

 音構の施設を脱出する直前、ジェロムがそう言っていたことを奏介は思い出す。

 最初はただ、相手の注意を引くためのハッタリだと思った。しかしよくよく考えてみると、奏介にはそのキーワードに思い当たる節が1つだけあった。

「久しぶりに来た」

 彼方を連れて奏介がやって来たのは、軽音部の部室だった。外の天気がどんよりしてきたせいで若干薄暗いが、目立たないよう灯りの使用は極力避けた。

「彼方はいつ振りだっけ、ここに来るの?」

「たぶん、ミューサンの前日以来」

 すると、彼方は周囲を見回して。

「ここに来ると、ほっとする」

「……そうだな」

 本当ならまた4人でここに集まりたかったと、奏介は思う。だけど、もうその願いは叶わないかもしれない。だったらせめて、彼方のことは最後まで守らなければ。

 そのためには、ここで感傷に浸っている暇はない。『ジェロムズのリーサルウエポン』を入手して、早くここを出ないといけない。彼方を守る。この一点だけは、諦めてはいけないのだ。

 ロッカーの一番上、向かって左端。ジェロム直筆による「Top secret!」の文字が、いつもと変わらずパワフルな存在感を示している。

「これは何?」と彼方が訊いた。

「たぶん、最後の切り札」と奏介は答えた。

 ずっと財布の中に入れてあった、ジェロムから託されたロッカーの鍵。そいつをゆっくりと差し込んで、回した。

 解錠。

 ゆっくりと開けて、中身を確認する。

 中に入っていたのは、縦長なよくあるサイズの茶封筒だった。しかし、やけに膨らんでいる。慎重に手に取ってみると、その分厚さがよくわかった。

 まさか、と思いつつ、封筒の中をのぞき込む。

「うわ」

 そのまさかだった。

 輪ゴムで括りつけられた、万札数十枚分の札束。初めて触れる大金の感触に、奏介は目を丸くする。普段から目にしていたおんぼろロッカーの中に、こんなものを隠し入れていたなんて。

 彼方も相変わらずの無表情ながら、いくらか困惑しているようだった。

「これ、使っていいの?」

「……たぶん」

 答えた奏介も、いまだに半信半疑。念のため紙幣の1枚を明かりにかざしたりしていると、封筒の中に何かが入っていることに気がついた。

 取り出してみると、それは1枚のメモ紙。そこに残っていたのは、力強いジェロムの直筆。

『ここに入っているのは、軽音部のヘソクリだ。軽音部の、ジェロムズの未来のために使え』

 短い文章。だけど、熱いメッセージだった。

「奏介」

 不意に、彼方が呼んだ。

「校庭側、用務員さんが来てる」

「……行こう」

 奏介は札束をそのメモ紙と一緒にバッグの中に詰め込んで、2人は部室を後にした。

 一度だけ振り返る。

 誰もいない部室を網膜に焼き付けた奏介は、重い扉を閉めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ