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鍵を開けろ。
音構の施設を脱出する直前、ジェロムがそう言っていたことを奏介は思い出す。
最初はただ、相手の注意を引くためのハッタリだと思った。しかしよくよく考えてみると、奏介にはそのキーワードに思い当たる節が1つだけあった。
「久しぶりに来た」
彼方を連れて奏介がやって来たのは、軽音部の部室だった。外の天気がどんよりしてきたせいで若干薄暗いが、目立たないよう灯りの使用は極力避けた。
「彼方はいつ振りだっけ、ここに来るの?」
「たぶん、ミューサンの前日以来」
すると、彼方は周囲を見回して。
「ここに来ると、ほっとする」
「……そうだな」
本当ならまた4人でここに集まりたかったと、奏介は思う。だけど、もうその願いは叶わないかもしれない。だったらせめて、彼方のことは最後まで守らなければ。
そのためには、ここで感傷に浸っている暇はない。『ジェロムズのリーサルウエポン』を入手して、早くここを出ないといけない。彼方を守る。この一点だけは、諦めてはいけないのだ。
ロッカーの一番上、向かって左端。ジェロム直筆による「Top secret!」の文字が、いつもと変わらずパワフルな存在感を示している。
「これは何?」と彼方が訊いた。
「たぶん、最後の切り札」と奏介は答えた。
ずっと財布の中に入れてあった、ジェロムから託されたロッカーの鍵。そいつをゆっくりと差し込んで、回した。
解錠。
ゆっくりと開けて、中身を確認する。
中に入っていたのは、縦長なよくあるサイズの茶封筒だった。しかし、やけに膨らんでいる。慎重に手に取ってみると、その分厚さがよくわかった。
まさか、と思いつつ、封筒の中をのぞき込む。
「うわ」
そのまさかだった。
輪ゴムで括りつけられた、万札数十枚分の札束。初めて触れる大金の感触に、奏介は目を丸くする。普段から目にしていたおんぼろロッカーの中に、こんなものを隠し入れていたなんて。
彼方も相変わらずの無表情ながら、いくらか困惑しているようだった。
「これ、使っていいの?」
「……たぶん」
答えた奏介も、いまだに半信半疑。念のため紙幣の1枚を明かりにかざしたりしていると、封筒の中に何かが入っていることに気がついた。
取り出してみると、それは1枚のメモ紙。そこに残っていたのは、力強いジェロムの直筆。
『ここに入っているのは、軽音部のヘソクリだ。軽音部の、ジェロムズの未来のために使え』
短い文章。だけど、熱いメッセージだった。
「奏介」
不意に、彼方が呼んだ。
「校庭側、用務員さんが来てる」
「……行こう」
奏介は札束をそのメモ紙と一緒にバッグの中に詰め込んで、2人は部室を後にした。
一度だけ振り返る。
誰もいない部室を網膜に焼き付けた奏介は、重い扉を閉めた。




